『夜が明ける』
2021年12月1日
今、あなたは何かに対して頑張っていますか?
仕事、趣味、勉強、家事など
人によって力を入れていることは異なると思いますが、
いずれにしても、あなたを突き動かす原動力はなんでしょう?
今日ご紹介する小説は、
友人から、ある俳優に似ていると言われたことで、
その俳優になりきることを人生を捧げた男性「アキ」と、
そのきっかけを作ってしまった友人である「俺」の物語です。
『夜(よ)が明ける/西加奈子(新潮社)』
物語は「俺」の目線で進んでいきます。
二人が出会ったのは高校時代です。
「俺」はいたって普通の家庭で育ちましたが、
アキは、母親にネグレクトされていました。
また、アキは身長が191センチもある上、
高校生らしい溌剌とした雰囲気は無かったため、
みんなから恐れられていました。
共通点などない二人でしたが、「俺」がアキに
「知る人ぞ知るフィンランドの映画に出てくる俳優に似ている」
と伝えたところから、交流が始まります。
そして、その俳優になりきることがアキの人生の目的になり、
学校内でもモノマネをし始め、気付けばアキは人気者になります。
二人の交流は、高校を卒業して離れ離れになってからも続いていきます。
「俺」はテレビの制作会社に就職、アキは劇団に所属してと
二人とも夢に向かって頑張り始めます。
ところが、2人とも理不尽なことも多く、なかなか思い通りにはいきません。
そして、気付けば33歳。
大人になった二人はそれぞれどんな人生を送っているのか。
ぜひこの続きは、本のページをめくってみてください。
…
10代後半から30代前半の二人の男性の物語には、
今の日本の問題がぎゅうっと詰まっていました。
働いても働いてもお金が足りないという貧困と過重労働の問題、
職場でのパワハラ、親から子への虐待…。
とくに「俺」が働くテレビの制作の現場が酷くて、
体力もやる気もあった「俺」がどんどん壊れていく様が
リアルな温度と質感で描かれているため、
読んでいるうちに「俺」が私自身のような気がしてきて、
辛さを自分のこととして感じている私がいました。
肩書きだけで偉そうな人に対して苛立ちを感じながらも何も言えず、
その一方で上の立場の人にも正論を堂々と言える正しすぎる女性の後輩。
一見いい人にそうに見えて、自分の思い通りにさせようとする年上の女性。
突然いなくなるADたち。文句ばかりの出演者たち。
もうこれでもかというほど、ストレスが積み重なっていきます。
読みながら本当にしんどくなりました。
もはや私は本を読んでいるのか、体感しているのかわからなくなるほどでした。
西さんの文章からは、温度とか匂いとか表情とか音とか
感覚的なものすべてが実際、感じられるのです。
そのため、西さんの作品を読む度、作品の世界に入りすぎちゃうのです。
今回も入り込みました。
だからこそ、読み終えたときに光が見えました。
今回の本のタイトルの『夜が明ける』の通り、
読み終えた時、視界が、そして心が、明るくなるのを感じました。
頑張っても頑張ってもうまくいかない。
それは、自分の努力が足りないから。
自分ができない人間だから。
全ては自分のせい…。
と、思っている方はいませんか?
そんな方にはぜひこの本の言葉に出合ってほしいと心から思います。
それから、読み終えたら、本のカバーも外してみてくださいね。
本のヌードも素敵ですから。
読んだ人だけがわかる感動がありますよ。
ちなみに躍動感ある力強いタッチの表紙のイラストは
西さん自身がお描きになっています。