『君の顔では泣けない』
2021年11月10日
毎週水曜のgraceでは13時45分頃からの「ユキコレ」で
様々な本をご紹介しています。
今日ご紹介する本は、小説野性時代の新人賞を受賞した話題作です。
『君の顔では泣けない/君嶋彼方(きみじま・かなた)【角川書店】』
9月の終わりに出たばかりなのですが、
この本、今、話題になっているようです。
ここまでの情報だけで「読んでみたい!」と思った方は、
今日の私のブログは読まないでください。(笑)
内容に関する情報を一切いれずに読んでいただいたほうが
え?どういうこと?という心地いい裏切りが味わえますので。
でも、そうなると、この本の紹介が一切できないので、
少しのネタバレならOKという方は、最後までブログをお読みください。(笑)
では、紹介していきます。
***
この本は、こんな一文でスタートします。
年に一度だけ会う人がいる。夫の知らない人だ。
この一文からどんなことを想像しますか?
私は不倫のお話かなと思いました。
夫と娘を残して、ある人に会いに行く妻。
そのある人というのは地元の男性であることが分かります。
久しぶりに会った二人は喫茶店で会話を始めます。
でも、女性のほうは自分のことを「俺」と言い出します。
そして、相手の男性はどうやら女性であることがわかります。
ん?私、名前を勘違いしてる?どういうこと?
と、ここで一度こんがらがります。(笑)
もしかして心と体が一致していない二人の物語?
そして、それを結婚した旦那さんに伝えていないということ?
と思いながらページをめくったところに答えが書かれていました。
二人は15年前に体が入れ替わってしまったようなのです。
しかも一度も体は元に戻っていないのだとか。
女性になった彼は、なんと結婚もして出産までしています。
二人が入れ替わったのは高校一年生の時です。
きっといつかは戻るだろうと思って
入れ替わったことは二人だけの秘密にすることにします。
家族にも友人にもバレないよう
二人はそれぞれの家のルールや家の間取りの他、
好きな食べ物など、お互いのことを伝え合います。
そして、二人はそれぞれ自分の顔を見ながら話をするわけですが、
彼は自分の辛そうな顔を見るのは、辛いと思い、あることを誓います。
元に戻った時に体の本来の持ち主である彼女が辛い思いをしないよう、
女性として完璧に生きて、家族も友人も騙してみせると。
物語は、入れ替わってから15年後と
入れ替わった当時のことが交互に描かれていきます。
また、交互というと、こういった入れ替わりの物語の場合
男女それぞれの視点で描かれることが多いですが、
この物語は、女性になった男性の目線だけで進んでいきます。
そのため女性になったことで感じたことがメインになっているのですが、
あまりにも女性の体や心のことが丁寧に描写されているので、
私は著者は女性だと思って疑いませんでした。
でも、読み終えた後に著者のことを調べたらなんと男性だったのです。
びっくり!
ちなみに主人公の彼は、女性になったことで
世の中の女性たちが様々な努力をしていたり
理不尽な思いをしていたりすることに気付きます。
また、客観的に自分の家族を見ることになるのですが、これが生々しかった。
他人だから仕方ないのだけど、態度がよそよそしいのです。
男女が入れ替わる物語は数多くあれど、
この物語からは今の時代の空気感を感じました。
また、設定はファンタジーだけど感覚的なものはとてもリアルでした。
一言でいうなら浮ついていない感じです。
物語では、2人が入れ替わってからしばらく経った時に、
男性になった彼女のほうは、自分の状況を受け入れ
「私は好きなことをする」と言い出します。
それに対し、彼は相変わらず元に戻った時のことを第一に考えています。
戻った時に自然にふるまえるように
彼女らしく生きていくことに力を注いでいます。自分らしく、ではなく。
果たして入れ替わった二人はその後どう生きていくことになるのでしょうか。
***
大変面白かったです!
この二人は、入れ替わったことを二人だけの秘密にしていますが、
この世界にたった一人でも自分のことをわかってくれる人がいる、
というだけで生きやすくなったりするのですよね。
もちろん100%全てを理解し合うことは絶対に無理です。
でも、味方がいるということは心強いよなと。
ちなみに、この物語では主人公の2人は恋愛関係にはありません。
それがいいなあと思いました。
男女の友情は成り立つのか?というような議論が以前はよくありましたが、
そうえいば最近は聞かなくなりましたよね。
恋愛に発展しない男女の物語は今後増えていくのかも。
そして、この物語、近いうちにきっとドラマ化されそうな予感がするわ。