『ワラグル』
2021年9月1日
突然ですが、質問です。
中川家
ブラックマヨネーズ
サンドウィッチマン
トレンディエンジェル
ミルクボーイ
に共通することは何でしょう?
正解は…
M-1グランプリの優勝者です。
去年はマヂカルラブリーが優勝しました。
M-1グランプリは、吉本興業が主催する
最も面白い漫才師を決める大会で、
出場資格は結成15年以内の2人以上の漫才師、
審査基準は「とにかくおもしろい漫才」です。
今年は昨日8月31日がエントリーの最終日でした。
応募した方はいますか?
1回戦、2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝、
敗者復活戦、そして決勝が行われ、
チャンピオンには優勝賞金1000万円が贈られるほか、
知名度も上がり、仕事も爆発的に増えます。
・
今日ご紹介する小説は、漫才日本一を目指す漫才師たちの物語です。
『ワラグル/浜口倫太郎(小学館)』
著者の浜口さんは、漫才作家、放送作家を経て、
2010年に『アゲイン』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞しデビュー。
『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は
20万部を超えるベストセラーとなり、映画化もされました。
新作の『ワラグル』は、書店員の間で「一気読みの面白さ」
と話題になってるようです。
たしかに私も最後までノンストップでした。
431ページと結構分量はあるのですが、長さは全く気になりませんでした。
それも読んでいる間、笑ったり泣いたり驚いたりして、
ずっと心が動かされ続けました。
タイトルの「ワラグル」とは、昔の芸人用語で
「笑いに狂う」という意味なんですって。
この物語は、3人の視点で進んでいきます。
まず、崖っぷちの中堅漫才コンビの凛太(りんた)。
彼は、漫才日本一を決めるキングオブ漫才(M-1グランプリらしきもの)
に出るものの、決勝に進むための敗者復活戦で敗れ、コンビは解散。
相方はいなくなってしまった凛太ですが、漫才は続けたいと思っています。
そんな彼の前にキングオブ漫才で王者になった先輩から
死神と呼ばれる謎の放送作家ラリーにコーチに付いてもらうことを提案されます。
そして凛太はラリーのもとを訪れるのですが、ある条件を提示されます。
「来年決勝に残れなければ芸人を辞めろ」と。
凛太はその条件を受け入れ、相方探しを始めます。
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2人目は、凛太の後輩の漫才師のマルコです。
「キングガン」というコンビを組んでいるのですが、コンビ仲は最悪で、
舞台上で喧嘩をしてしまったことで謹慎処分になってしまいます。
そんなキングガンにもラリーが付くことになります。
凛太は、過去の漫才も勉強もするし、ネタ合わせも何度もやる、
しっかり準備をしたいタイプです。
一方のキングガンは、のびのび自由にやりたいと考えています。
そんなタイプの異なる二つのコンビに同じ放送作家が付くことになり、
それぞれが漫才日本一を目指していくことになります。
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そして、もう一組は、梓と文吾の大学生カップルです。
文吾の視点で梓のことが語られています。
ちなみに、二人は漫才師ではなく、
彼女のほうがお笑い好きで、放送作家を目指しています。
梓はいつかお笑い番組や芸人のライブの企画や構成をする仕事をしたいと、
芸人のラジオ番組にネタを投稿する日々を送っています。
面白いネタを送れば業界の人に注目されるかもと夢見ながら。
そんな彼女を文吾は心から応援しています。
・
物語はこの3組のお話が交互に、
そしてゆるやかに繋がりながら描かれていきます。
夢に向かって突き進む若者たちの物語は、とても面白かったですし、
漫才がどのように作られ、どういったことが大事なのかといった
「漫才」について学べたのも楽しかったです。
例えば…
・漫才は一心同体と言えるまで二人の息を合わせないと笑いは生まれない
・笑いは空気が大事。芸人とお客さんが一体にならないと笑いは生まれない
たしかに場の空気って大事ですよね。
私は漫才師ではないですが、人前に立つという点では重なるところもあり、
私自身もラリーさんに鍛えられている気分になりました。
ラリーさんは、死神と陰で言われるくらいの人なので、
決して陽気でもないし、言い方もきついのですが、教え方はうまいのです。
タイプの異なる二組のコンビをどのように指導していったのかは、
ぜひ本を読んで確かめていただきたいのですが、
これが読んでいて飽きないんです。
次はどんな指導をするのかしら?
とページをめくるのが楽しくてたまりませんでした。
正直なことを言うと、私はお笑いには詳しくありませんし、
毎年熱心にM-1を見ているわけではないのですが、
それでもこの本は楽しく読めました。
そして、今年のM-1は絶対に見たい!と思いました。
また、この小説は、夢を追う若者たちの物語としての面白さだけでなく、
文字で書かれた「小説」だからこそのお楽しみもあります。
最近は、話題になった作品は次々に映像化されていきますが、
この作品は、本じゃなきゃダメなんです。
ぜひ日本一の漫才師を目指している気分で
ドキドキ緊張しながら読んでみてください。
ずっと家にいて変わらぬ日常で退屈…
という方にはいい刺激になると思います!
中には漫才師を目指したくなる人もいるかも!?