『クララとお日さま』
2021年4月7日
日々、生活を便利にする新しいアイテムが登場しています。
携帯電話にパソコンにスマートフォン。
20年前はスマホが無くても十分便利だったのに、
今やスマホの無い暮らしなんて想像できません。
そのうち、見た目は人と同じで感情もある
AIロボットが当たり前になる日もやってくるのでしょうね。
ロボットがいない生活なんて信じられない!なんて言っているのかな。
今日ご紹介する本は、まさにそんなAIロボットがいる時代の物語です。
『クララとお日さま/カズオ・イシグロ、翻訳:土屋政雄(早川書房)』
『クララとお日さま』は、2017年にノーベル文学賞を受賞した
日系イギリス人作家、カズオ・イシグロの最新長篇です。
カズオ・イシグロは長崎生まれで、
1960年の5歳のときに父親の仕事でイギリスに渡り、
以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育ち、
その後、イギリス国籍を取得されました。
代表作の『わたしを離さないで』は、
2016年に綾瀬はるかさん主演でドラマ化されたほか、
映画化、舞台化もされるなど話題になりました。
新作の『クララとお日さま』は、ノーベル文学賞受賞後初となる
6年ぶりの新作ということで、日本はもちろん世界中で話題となっています。
予約だけで累計発行部数が65,000部に達したそうですよ。
先日本屋さんに行ったら、この本がずらりと並んでいて、
まるで一枚の壁のようになっていました。
それがとてもオシャレな雰囲気でした。
というのも装丁が素敵なのです。
大きなひまわりと、その横に小さな女の子が立っているイラストで、
まるで絵本の表紙のようです。
***
『クララとお日さま』の主人公は、
人間の形をした人工知能搭載ロボットの「クララ」です。
10代の若者が大人になる手助けのために開発されたAIロボットで、
物語はクララの語りで進んでいきます。
え?AI目線で面白いの?と思う方もいるかも知れませんが、
ロボットとは言え感情や個性もありますので、決して単調ではありません。
それどころか、突飛な行動に出たり、
物語もどこに向かっていくのかわからなかったりするので、
飽きることは一切ありませんでした。
ほぼ人間と変わらないクララですが、違うところもあります。
それは栄養は食事からではなく、お日さまから得ているということです。
本のタイトルにも「お日さま」がついていますが、
クララにとって、お日さまは心身ともに支えてくれる大切な存在です。
物語は、クララが町のショップでほかの様々な商品と並んで、
誰かに買ってもらうのを楽しみにしているところからスタートします。
ところが、優れたロボットでありながらも
型落ちのクララは、なかなか買い手がつきません。
店内の一番目立つところからどんどん後ろへと下げられる中、
病弱な少女「ジョジー」に気に入られます。
ジョジョーは母親と家政婦と暮らし、隣の家には親友の少年が住んでいます。
でも、彼は他の子どもとは何かが違うらしいことがわかります。
他にもおかしなことが色々とあり、なんだか不穏な気配で、
『わたしを離さないで』を読んだときの感覚が蘇ってきたのですが、
著者のイシグロさんによると、新作はこれまでに発表した
『わたしを離さないで』と『日の名残り』の流れをくむものになっているそうです。
そして、その不穏な空気の中で様々な謎が生じ、
いったいどういうことなの?と思ったときにはもう、
本のページをめくる手が止まらなくなっています。
病弱で家で過ごすことの多いジョジーにとってクララは大切な存在です。
クララの仕事は「人の孤独」を癒すことでもあるので、
ジョジーがさびしさを感じないよう献身的に尽くします。
クララにとって一番大事なことは「ジョジーの幸せ」です。
そのためなら、どんなことでもします。
自分のこれまでの知識や経験をフル活用しながら、最善の選択をしていきます。
私たち人間は、きっとたくさん悩みながら物事を決めていくと思うのですが、
クララは「ジョジーの幸せ」だけを考えて選択していきます。
ブレがありません。
でも、ジョジーの心を100%理解できるかといったら、これはかなり難しい。
「心」と「感情」は似ているようで、違うものなのですよね。
そして、クララはある答えにたどりつきます。
***
物語はAIロボットのクララの語り口で進んでいくので
文章そのものは難しくなく、さらりと読めます。
でも、内容は濃かったです。放っておけない様々な問題も出てきますので、
本を読んだ後に語りたくなる方が多いと思います。
私もすでに本を読んだ人と語りたいです!(笑)
また、AIロボットが出てくる近未来の物語なのに、
私には今よりもっと昔の物語に思えました。
人間たちは退化していないか?と思ったのだけど、そうではなく、
私たち人間が良くも悪くも変わっていないということなのかもしれません。
クララがピュアで謙虚だからこそ、
じたばたしている人間たちのみっともなさが際立っていました。
他にも色々感じたことがありましたが、ネタバレになるので、我慢します。(笑)
ピュアでまっすぐなクララから、きっと気付かされることがあると思います。
私はクララから人を良く観察することと謙虚であることを学びました。
自分が!自分が!と自己主張の強い現代こそ、
他人を観察することと、一歩引く謙虚さが大事だなと思いまして。
あなたはクララから何を感じるでしょうか。
ぜひクララのお話に耳を傾けてみてください。
ちなみに小説は440ページとやや長めですので、
じっくりお話に付き合ってあげてくださいね。