『滅びの前のシャングリラ』
2021年3月3日
もし突然こんなことを言われたら、
あなたは何を感じ、どんな行動に出るでしょうか。
「一ヶ月後、小惑星が地球に衝突し、人類が滅亡する」
人類滅亡と聞くと、30代以上の皆さんは、
1999年のノストラダムスの大予言を思い出すでしょうか。
私は当時、大学生でしたが「滅亡の瞬間どこで誰と何をする?」
なんて話を友人たちとよくしていたように思います。
でも絶対に滅亡することは無いだろうと信じていたので、
みんなどこかのんびりとした雰囲気でふざけ合っていました。
でも、本当に一ヶ月後、人類が滅亡することになったら、
人は何を思い、どんな行動をすると思いますか?
***
今日ご紹介する本は、凪良ゆうさんの話題作
『滅びの前のシャングリラ(中央公論新社)』です。
著者の凪良さんは、去年、『流浪の月』で本屋大賞を受賞し注目を浴びました。
私ももちろんラジオで紹介しています。
◎田島の本の感想は コチラ
実は新作の『滅びの前のシャングリラ』も
去年に引き続き、本屋大賞にノミネートされています。
2年連続で大賞を受賞するのか気になります。
さらに、紀伊國屋書店スタッフが全力でおすすめする
「キノベス!2021」の1位にも選ばれるなど、今話題の一冊です。
物語は、学校でいじめを受けている
17歳の友樹(ゆうき)の話から始まります。
彼は、小惑星が地球に衝突して人類が滅亡する
というニュースをテレビで見ても、デマに違いないと思い、
今の憂鬱をすべてリセットしてくれるなら、
小惑星でもなんでも落ちてくればいいと思っています。
どうせ学校に行ってもいじめられるし、
勉強も運動も苦手だし、見た目はぽっちゃりだし…
とやけになっているのです。
彼の母親も「賢い人がどうにかしてくれる」とどこか他人事です。
ところが、徐々に状況は変わっていきます。
スーパーやコンビニでは商品の略奪行為が始まり、
テレビ局では試験放送の映像ばかりが流れ、
ついには自ら命を絶つ人まで出てきます。
残り一ヶ月という宣告を受けて、
地球よりも先に人間が壊れはじめてしまったのですね。
ところが17歳の友樹は、小惑星なんて落ちてしまえばいいと思っていたはずなのに、
あることがきっかけで残りの日々を今度こそ精一杯生きたいと、
前向きな気持ちになっていったのでした。
なぜ彼が「生きたい」と思ったのかは、ぜひ本を読んでください。
本作は、この男子高校生のお話のあとは、
人を殺してしまった男性、恋人から逃げ出した女性、
そして、すべてを手に入れた歌姫のお話が順番に描かれていきます。
全員に共通しているのは、
これまでの人生をあまりうまく生きられなかったということと、
1ヶ月後には生きていないということです。
彼らがこれまでどんな人生を送ってきて
人類滅亡を前にどんな気持ちでいるのかが、
変わりゆく世界の状況とともに丁寧に描かれていきます。
人類滅亡を前に、私たち人間は一体どうなってしまうのでしょうか。
まるでドキュメンタリーのような文章で、
最初から最後まで夢中で本のページをめくっていきました。
とても面白いのでストーリーの先が気になるものの、
この世界が終わってしまうなんて…と思うと寂しさもあり、
そんな相反する気持ちに揺れながら、読み進めていきました。
それにしても、この残り一ヶ月というのが、絶妙でした。
まだだいぶ先のようでもあるけれど、実はあっという間なのですよね。
そして残り一ヶ月というと、絶望しかないように思いますが、そうではありません。
こんな状況だからこそ気付けた幸せもあります。
言い方を変えれば、こんな状況じゃなかったら
もしかしたら一生気付けなかったかもしれない幸せもあって、
読みながら何度も私の目にじんわりと涙が浮かびました。
まさに本のタイトル通り「滅びの前のシャングリラ(理想郷)」でした。
この物語はフィクションですが、
小惑星が衝突して人類が滅亡することなんて絶対に無いとは言い切れません。
だからと言っていつ来るかわからないその日を想像して怯えて過ごすのではなく、
私は、あらためて後悔なく毎日を生きていきたいと思いました。
『滅びの前のシャングリラ』、大変面白かったです。
ぜひお読みください♪