『家族じまい』
2020年12月16日
今年は家にいる時間が増えたことで
家族と向き合うことも多かったのでは?
あらためて家族の大切さに気付いた方もいれば、
コロナ離婚という言葉もあったように
逆に気持ちが離れてしまった方もいたようですね。
あなたは家族とはどんな関係ですか?
親、きょうだい、子ども、それぞれとの関係はいかがでしょう?
うまくいってますか?
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今日ご紹介する本は、ある家族にまつわる物語です。
『家族じまい/桜木紫乃(集英社)』
『ホテルローヤル』で直木賞を受賞した桜木紫乃さんの新作です。
『ホテル〜』は映画化されこの秋公開されましたので、ご覧になった方もいるのでは?
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新作の『家族じまい』は、5人の女性が主人公の連作短編集です。
まずは、美容室でパートとして働く48歳の智代(ともよ)のお話です。
彼女は子育てにひと区切りつき、夫と2人で暮らしています。
それなりに夫とはうまくやっているつもりでしたが、
ある日、夫の後頭部に円形脱毛症を見つけ、
何かあったのかと気になりながらも、なかなか聞くことができずにいます。
そんな中、自分の親や仕事の問題も重なっていきます。
他には、智代の妹や母親の姉などが登場します。
全員女性で一人以外は親族です。
連作短編集ですので、主人公が入れ替わりながら
でも登場人物は同じまま物語が進んでいきます。
話の軸になるのは智代の両親です。
母親は認知症で記憶を無くしつつあり、父親が面倒を見ています。
…と紹介すると良い父親のようですが、
以前は好き勝手生きていて家族を振り回し続けていたのでした。
そのため姉の智代は長い間、両親とは距離を置いており、
一方、妹は両親とは頻繁に連絡を取り合い、二世帯住宅を考えるほどです。
そして、この姉妹はそれほど仲がいいわけでもなく、
それぞれ相手に対して不満を抱えています。
というか、出てくる人みんながそれぞれの事情を抱えています。
この作品は、主人公が変わることで物事の見え方も変わっていきます。
なるほど、そういう事情もあったのかと客観的に見ながら、
あらためて人によって考え方や感じ方は様々だと気付かされました。
いや、人というか家族の、といった方がいいかな。
相手が他人の場合は自分と考えが違っていてもまだ理解できると思うのですが、
家族の場合はそうはいかなくないですか?
家族というだけでお互い理解できて当然!
と思ってしまうところがあるように思います。
そしてもし理解してもらえなかった場合、
家族なのに私のことをわかってくれない、と思ってしまうのですよね。
でも家族だからって全員が同じ考えとは限らないのですよね。
この本の主人公たちも皆、考え方はバラバラてす。
それ故、衝突もあります。
現実の世界では人の心の中をのぞけないので、
あくまでも想像するしかできませんが、
小説の場合、堂々とのぞけます。
それぞれの人の本音を知る時間は楽しいし、
そういう風に思う人もいるのか、と勉強にもなります。
この本は特に、様々な考え方の人が登場するので、
そういう意味でも読みごたえがありました。
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また、この本の何がいいって、文章が素晴らしいのです!
本の帯に書かれている作家の村山由佳さんのコメントが
まさに私の言いたかったことなのでご紹介します。
「どうやったらこんな一行が書けるんだろう」
と唸る文章が、随所に、あくまでさりげなく配される。
まさにその通りです。
桜木さんの文章は、これ以上綺麗にはまる言葉があるのかというくらいに、
ぴたっと正しくそこにおさまっているのです。
例えば…
ストレスを感じた時に飲む百円の缶酎ハイのことを
「高くても百円の、心の隙間を埋める投資」と言ったり、
自分の話も別の人の記憶に混ぜ合わせると
別の色合いが浮かび上がり新たな模様が現れる、
と表現したりしているのです。
くぅ。こんな表現できそうでできないよー。
これも好きです。
会話の最後はいつのときも、明るい明日の話題がいいのだ。
そうでなくては、翌日の太陽が暗い。
『家族じまい』は、素敵な文章に触れたいという方にもオススメです。
もちろん家族に関しての悩みを抱えている方にも。
そうそう、著書の桜木さんによると、
「家族じまい』の「しまい」は、
終わりの「終い」ではなく「仕舞い」なのだとか。
詳しくは作品を読んでみてください。
決して後ろ向きではない物語ですよ。