4『僕のなかの壊れていない部分』
2009年1月27日
タイトルに圧倒されて『僕のなかの壊れていない部分/白石一文』を読んでみました。
主人公は、29歳の出版社勤務の男性。
過去のある出来事から、ずっと生まれてこなければよかった、と思っています。
何に対しても興味がわかず、世の中を諦観しているところがあります。
口数が少なく、何を考えているかわからないような態度を示しつつ、
心の中では、常に上から目線で相手を馬鹿にしています。
その考え方や態度に、私は、イライライライラ・・・。
三島由紀夫をはじめ、何かと過去の名作の一部を引用しながら、
自分の考えを論理的に話す様子は、鼻につくし、
そんな彼に、女性がうまく言いくるめられている感じは、何よりも腹立たしい。
実は、彼は3人の女性と関係があります。
一応、彼女と言われる人は1人のようですが。
彼女候補ナンバー1は、彼が現実を直視せずに、どこかに逃げようとしていることに、
ちゃんと気づいていて、どうにかしてあげたいと思っている。
彼からすると、それが余分なんだよ!と腹立たしいわけですが。
自分のことをわかったような気でいられることがイヤなんですよね。
でも、その気持ちも、まぁ、わからなくもないのですけどね・・・。
彼は、相手に自分のことをわかってほしい、と思いながら、
全てをわかってほしくはない、とも思っているのです。
私も、やや天邪鬼なところがあるので、なんとなく彼の気持ちがわかります。(苦笑)
でも、やっぱり彼の考えを聞いていると、イライラするのですが。(笑)
そんな彼が常に考えているのが、「母親」についてと「生きる」ことについて。
私は、特に「母親」の存在について、深く考えさせられました。
この本の中に、母親が仕事で忙しく、ちゃんと親子の関係が築けなかった、
ある女性が出てくるのですが、
彼女は、就職試験の面接で、子供が生まれたら仕事を続けるか否か聞かれたとき、
「子供のために辞めます」とはっきりと言います。
彼女が、その考えをもつまでには色々あるのですが、
きっぱりと言い放った彼女に私は感動しました。
私は、まだ母親になっていないから、全てを理解できないのかもしれないけれど、
女性として、母親としての「強さ」を感じました。
人間は、どんなに辛いことがあっても、人を憎んでも、
人を愛し、そして、立ち直れる「強さ」を持っているものなのですね。
私は、今、このタイミングで、この本に出会えてよかったと心から思いました。
そうそう、イライラさせる天才の、うわさの主人公の彼ですが、
100%悪人でないところが、またずるいんですよ〜。
なんか憎みきれないのです。
そして、そんな彼を素直な心で優しく包み込む彼女候補ナンバー1が、とても素敵で、
あ〜、私にはこの包容力が無いのだわ・・・と、
器の小さい自分にも気づかされたのでした。
それにしても、人を信じる強さには偉大なパワーがありますね。