鏡の背面
2018年10月24日
今日ご紹介するのは、篠田節子さんの『鏡の背面(集英社)』です。
本の表紙には、カラヴァッジオの「ラザロの蘇生」が使われています。
カラヴァッジオは、西洋美術史上もっとも偉大なイタリアの芸術家で、
2016年に国立西洋美術館で大きな企画展がおこなわれていました。
カラヴァッジオは、優れた画家であるだけでなく、殺人者でもあります。
そんな二つの顔を持つカラヴァッジオの絵画が表紙に使われた
『鏡の背面』とはどんな作品なのか…。
早速ご紹介しましょう。
その前に。
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先日、平野啓一郎さんの新作『ある男』をご紹介しました。
★私の感想は コチラ
『ある男』は、夫が亡くなった後、
夫が別人であることがわかったという物語でしたが、
『鏡の背面』も始まりは似ています。
こちらは、火事で亡くなった女性の遺体が
別人のものだと判明するところから始まります。
亡くなったのは、心に傷を負った女性たちのシェルター
「新アグネス寮」の「小野先生」です。
新アグネス寮は、薬物やアルコール依存、性暴力、DV被害などによって
心的外傷を負った女性たちの社会復帰を目指す施設で、
小野先生は、親から受け継いだ莫大な資産を彼女たちの救済のためにささげ、
ともに生活をし、「日本のマザー・テレサ」と言われるほど慕われていました。
そんな先生が、新アグネス寮で火災が発生した時、
入居者を助けたことで亡くなってしまいました。
先生らしい最期だと誰もが思っていた中、死体が別人であることが発覚します。
生前に小野先生を取材したライターの女性は、
いったい亡くなった女性は誰なのか?
そして、本物の「小野先生」はどこに消えたのか?
調べ始めます。
そして、ある一人の女性が浮上します。
彼女は、連続殺人事件の容疑者としてマークされていた人物でした。
ここから長い長い物語が始まります。
実際、作品は500ページをこえます。
***
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長い物語の中で、心に傷を抱えた新アグネス寮で暮らす
女性たちの過去も明らかになるのですが、
そんな彼女たちを救ってきたのが小野先生でした。
その小野先生が亡くなった後、彼女たちは心のバランスを崩していきます。
だって、心から慕っていた先生が亡くなっただけでもショックなのに
実は亡くなった人は別人で、過去に連続殺人の容疑までかかっている。
そして肝心の先生は見つからない。ときたら、
たしかにダメージは大きいですよね。
物語はいったいどこに辿りつくのか?
是非、秋の夜長にじっくり読み進めてみてください。
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私の場合、物語の前半は、亡くなった女性は誰だったのか?が気になり、
後半は、本当にそんなことがあり得るのか…
と次々に明らかになっていく事実に衝撃を受けながら、
結局ページをめくる手を止めることができませんでした。
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ちなみに、怖いページもあります。
私は夜中に読みながらちょっと音がしただけで、ひぃぃっとなりました。
あ、でも怪談ではありません!
怖さの質が違います。
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この物語については、たくさん言いたいことがあるのですが、
感想を言えば言うほどネタバレになってしまうので、
この辺でやめておきます。
気になる方は、是非本のページをめくってみて下さい。
また、よく知る人が亡くなった後に別人であることを知ったという点では
『ある男』と読み比べてみるのも面白いかも。