星空の16進数
2018年8月22日
ここ数日、県内を車で走らせながら
富山の夏の景色の長閑な美しさに触れています。
目に映る景色は、上から青空、濃い緑の山、そして下半分は田んぼの緑です。
美しい田舎の夏の色ですね。
今の季節は、青や緑のシンプルな色が目に飛び込んできますが、
じっくり見てみると、緑といっても色々な緑があります。
さて、あなたの目の前には何種類の色がありますか?
普段の生活では、色の数を意識することは、それほど無いのでは?
でもいざ色を数えてみると、世界は様々な色で満ちていることに気付くと思います。
今日ご紹介する小説の主人公の女性は、
目に映る色の名前が次々に頭に浮かんでくるほど、
「色彩」が生活に溶け込んでいます。
今日の本は、『星空の16進数/逸木裕(いつき・ゆう)』です。
主人公は、ウェブデザイナーとして働く17歳の藍葉(あいは)です。
高校は、他人とうまく会話することができずに退学しています。
学生時代は「空気が読めない」とよく言われていました。
例えば、遠足で訪れた田舎の景色を見て感動した友人が
「田舎は色があふれていていいな」と言えば、
「21個しかないよ」と答えてしまうような感じです。
そして、藍葉は田舎より都会のほうが圧倒的に色が多いと思います。
そんな彼女は、「混沌とした色彩の壁」の前に立つ夢をよく見ます。
それは以前誘拐されたときに見た光景でした。
実は、藍葉は子どもの頃、誘拐されたことがあります。
そして、その時に見た色彩の壁がいったい何だったのか、ずっと気になっています。
ある日、私立探偵のみどりという女性から
「以前は、大変なご迷惑をおかけしました」
というメッセージと100万円を渡されます。
ある人から藍葉に渡すように頼まれたのだそうです。
藍葉は誘拐事件の犯人からかもしれないと思い、
みどりに犯人の捜索を依頼します。
そして、みどりはかつての犯人が今どこにいるのか捜すことになります。
藍葉が誘拐されたときに見た色彩の壁とは?
そもそも犯人はなぜ誘拐をしたのか。
物語は、藍葉とみどりの二人の視点で進んでいきます。
***
私立探偵のみどりのお話には、17歳の藍葉だけではなく
読者である私自身も心が軽くなるようなものが多く、勉強になりました。
例えば、「私は空気が読めない」という悩みに対しては、
それは「個性」だと言います。
同じ写真を見ても、いいと思う人もいれば、そう思わない人もいる。
情報の解釈の違いは「個性」である、と。
また、その個性には後天的な技術、
つまり、これまで得た知識も関わっているのだそうです。
みどりさんの言うことには、センスと技術を合わせたものが個性なんだとか。
確かに、生まれ持ったセンスだけを個性と言ってしまいそうですが、
そうではない、ということをみどりから気づかされました。
情報を読み取る力が、後から得た知識も関係しているというのは、
絵画鑑賞にも同じことが言えますよね。
絵画作品を見るとき、自分のセンスだけで見るのもいいと思うけれど、
その絵画の情報を得たうえで鑑賞すると見え方が変わってきますものね。
ぼんやりとしていた作品がより鮮明に浮かび上がってきて。
この物語もまさに様々な情報を得るにつれ
最初に描いていたイメージ、見え方がどんどん変わっていきました。
私はこの本を読んだ後、世界に映る色を意識せずにはいられませんでした。
ああ、世界はこんなに色にあふれているのかと。
また、同じものを見ていても見え方は
人によって、知識によって、全然ことなるものだなとも思いました。
全ての人が自分と同じように物事を見ているわけではないのですよね。
そんな当たり前だけど忘れてしまいがちな大切なことに気付かされました。
ちなみに、小説のタイトルの「16進数」とは、ウェブデザイナーが使う色の示し方です。
小説の中には、独特な色の表現が繰り返し出てきて、
思わずどんな色か検索せずにはいられませんでした。(笑)
学生さんたちはまもなく夏休みも終わりですが、
この物語は17歳の女性が主人公で大変読みやすいですし、
色々大切なことも学べますので、
夏の終わりに読んでみてはいかがでしょう?
物語を読んだ後は、ぼんやりしていた世界が少しくっきり見えるかも。