おまじない
2018年4月25日
このブログをお読みのあなたは、
「おまじない」をしたことはありますか?
小さいお子さんのいるご家庭では
お子さんが転んだ時、
「痛いの、痛いの、飛んでいけ〜」
とお子さんに向かって声をかけること、ありませんか?
本当に痛みが飛んでいくわけではありませんが、
その言葉を聞いたお子さんは、泣きやんでしまうこともあります。
一方、私たち大人は、転んだとしても
誰かに「痛いの、痛いの、飛んで行け〜」などと言ってもらえません。
でも、時々心が痛みを感じたとき、
誰かに「痛いの〜」と言って欲しかったりするのかもしれません。
今日ご紹介するのは、先月発売された
直木賞作家、西加奈子さんの短編集『おまじない(筑摩書房)』です。
まさにこの「痛いの〜」のような言葉をかけてもらったことで
心の中の痛みが飛んでいった女性たちの物語です。
短編の主人公は、モデル、12歳の小学生、キャバ嬢、妊婦など全て女性です。
彼女たちは何かしら悩みを抱えています。
そんな彼女たちの心を軽くしてくれるのが、
「おじさんのひとこと」です。
それもヒーローのような男性ではなく、普通のおじさんです。
おじさんたちには「私が君の心を軽くしてやろう!」
というような押し付けがましさは全くありません。
女性たちの心を救うのは、たまたまおじさんが口にした言葉なのです。
どのお話の女性もそれぞれに悩みを抱えています。
***
例えば、『孫係』というお話。
12歳の小学生の「すみれ」の家に
1ヵ月だけ「おじいちゃま」が住むことになります。
おじいちゃまのことが大好きなママは
毎日気合いを入れておじいちゃまをもてなすのですが、
それに付き合わされるすみれは窮屈に感じています。
もちろん、すみれもおじいちゃまのことは大好きです。
ある日「ひとりになりたい」と声に出したところを
おじいちゃまに聞かれてしまいます。
おじいちゃまを傷つけたかもと思ったすみれでしたが、
実はおじいちゃまも同じことを思っていたのでした。
「いい子」でいることに疲れを感じ、
こんな私は悪い子に違いないと葛藤していたすみれは、
そのことに衝撃を受けます。
おじいちゃまと本音トークをするうちに、
すみれは生きづらさから解放されていくのですが、
と同時に私の心も軽くなっていきました。
「私、性格悪いな」と感じることは誰にでもあると思います。
意地悪な感情が芽生えて、
そんな風に思ってしまった自分のことが嫌になり、
私はなんて嫌な奴なんだ…と自己嫌悪に陥ったこと、ありませんか?
私はよくあります…。
でも、このおじいちゃまは、
そんな負の感情の処理の仕方を
さらりと教えてくれます。
おじいちゃまと小学6年生の会話ですが、大人の私にも響きました。
おじいちゃまの言葉を知りたい方は
ぜひ本のページをめくってみてくださいね。
***
『マタニティ』という話では、
付き合いはじめの彼との間にこどもができた女性の
不安定な心のうちが描かれています。
彼も喜んでくれるかしら?と思ったかと思えば、
計画的に妊娠したと思われたらどうしよう…と悩んだり、
彼の返事次第ではひとりで育ててみせる!
いや、ちゃんと育てられるの?大丈夫かな私?
などと自分の思いがめまぐるしく変わっていきます。
そんな彼女の心を落ち着かせたのも、
あるおじさんの一言でした。
***
どのお話にも女性たちの本音が詰まっていました。
短編なのでさらりと読めてしまうのだけど、
読んだあとは、どの作品も心の中にねっとりとくっついて離れませんでした。
でも、いやなべたつきではありません。
きっと心の中が潤った証拠なのかもしれません。
西加奈子さんの『おまじない』は、
大人の心によく効きました。
短篇集なので、GW中に毎日1話ずつ読んでいってもいいかも。