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大きな鳥にさらわれないよう

2016年7月27日

ずっと先の未来。
地球はどうなっていると思いますか?

未来を描いたある物語には「私」が何人もいました。
若い私も年上の私もいます。
でも、全て同じ遺伝子を持った同じ私…そう、クローンです。

そんな様々な年代の「私」が同時代を生きる物語を読みました。

『大きな鳥にさらわれないよう/川上弘美(講談社)』

本のタイトルと一見のどかに見える本の表紙と
本の帯に書かれた「ファンタジィ」という言葉に惹かれ、手に取りました。

お子さんたちは夏休みに入ったことだし、
大人の「ファンタジィ」でも読んでみようかなと思いまして。

読み始めてすぐは、いつの時代の話なのかはっきりわかりませんでした。
今の時代のようにも、ずっと昔の物語のようにも思えて。

でも、徐々にこれが未来の話であることがわかります。

昔ここは「日本」と呼ばれていた、とあります。

また、衝撃的なことに「こどもたち」は工場で作られています。

遠い未来、人類は滅亡の危機に瀕していたのでした。

大戦、テロ、汚染物実拡散によって人間は減ってしまったのだそうです。

そこで、多様性が保たれるように「母」のもと、
人間たちは小さなグループに分かれて暮らしていました。

この「母」は、産みの親ではなく育ての親に近く、
一人の母がたくさんの子供たちを育てます。

人間をいくつかのグループに分ける理由は、人類を進化させるためです。
異なるグループ同士の人間の間にできたこどもが
新しい遺伝子を持っていることを期待して。

でも、人間というのは愚かなもので、
新しさを求めつつも、自分と違うものを許せなかったりします。

この時代を生きるある男の子は、この世界のことを
「息苦しくて、にせものばかりで、希望のない世界」と言います。

いったい遠い未来はどんな世界となっているのでしょうか…。

この続きは是非本を読んでみてね。

***

この物語は未来の話ですが、
虫を追って遊んだり、森の中で踊ったりする子供が出てきて、
まるで昔のお話のようにも感じられます。

その一方で、クローン技術や人工知能もあります。

この『大きな鳥にさらわれないよう』は、ひとつの大きな物語ではありますが、
それぞれのお話は独立した短編集です。

ただ、どのお話もどこかぼんやりとしています。
具体的なことがまったく見えないのです。
気付いたら知らない世界に入り込んでしまって、
無意識のうちにその世界のルールに従っているような感覚でした。
まるで催眠術にかかったかのような。

でも、ある瞬間、はっと我に返ります。

私は、感情を無くしてしまったのではなく、
ただ忘れていただけだ、ということに気付きます。

自分にとって穏やかでいられる人とだけいられれば怒りも生じないものですが、
異なる存在と出会ったとき、感情はどう動くと思いますか?

本の中の登場人物を通して、私の心を試されているようにも感じました。

あなたは、遠い未来の世界で何を感じるでしょうか。

この夏あなたも『大きな鳥にさらわれないよう』の世界にお出かけになってみては?

ちなみに、私はこの世界を2回旅しました。(笑)

きっとあなたも読み終えた後、最初のページからめくり直したくなるはずです。

2回旅できるなんて、ある意味ではお得な一冊かも。

yukikotajima 11:37 am