冬の光
2016年1月13日
同じ話でも伝える人によってその印象は大きく変わります。
たとえばそれが男女関係の話だった場合、
男性側、女性側、それに人から聞いた話なども加えると、
いくつものストーリーが生まれます。
どれが正しいかは、それぞれの話を聞いてみないとわからなかったりするものです。
同じ出来事を伝えていても「感情」がプラスされた瞬間、
ニュアンスが大きく変わってしまうことも多々ありますしね。
今日ご紹介する小説は、まさにそんな印象を強く持った作品でした。
『冬の光/篠田節子(文藝春秋)』
この物語は娘と父それぞれの物語が交互に描かれます。
最初は30代前半の娘から見た父の物語です。
企業戦士だった父が退職後ひとり四国遍路へ出ます。
その帰路、冬の海に消えます。
実は父には外に女性がいました。
しかもその関係は25年に及びました。
家族をずっと裏切り続けてきた父が
最期に考えていたことは何だったのか気になった娘は、
父の足跡を辿っていきます。
***
最初は娘目線の父の物語なので、
なんて酷い父親なんだ!と娘に同情しましたが、
次の物語を読んでその印象が少し変わりました。
それは父が大学生だったころの物語です。
父は学生時代にある女性と出逢い、その女性に夢中になります。
その後、父は彼女と別れ、別の女性と結婚。
仕事三昧の日々を送り、退職後、四国遍路を経て父が海に消えるまでの日々が
父目線で描かれていきます。
そんな父の物語の合間に
娘が父の足跡を辿る現在の物語がはさまれます。
***
娘の話だけでは、父もその相手の女性も温度の無い冷たい知らない人
という印象を持ってしまいますが、
父の話を聞いた途端、人としての温度を感じ、情がわいてきてしまいます。
どうしようもない人なのに、なぜか憎み切れません。
娘と父の物語を交互に読んでいくと、
あなたのお父さんも悪いけどさ、ちゃんと話を聞いてあげてよ!
と娘に対して思えば、
なんて勝手な思い込み!とお父さんにあきれ、
どちらの事情も知っている読者である私は、やきもきしてきます。
そして、結局父はなぜ海の中でみつかったのかが気になり、
ページをめくる手が止まりませんでした。
***
父と娘、父と母、恋人同士…
いずれの関係においても、男女の違いというのがはっきりとわかって、
そういう意味でも面白い作品でした。
そして、勉強にもなりました。
女性は正しさをぶつけてしまいがちだけど、
正しさが人の心をいい方向に動かすわけではないのだなと。
特に男の人はプライドが高い人が多いですからねえ。
プライドが傷つけられたと感じた瞬間、
正しさが憎むべき対象にかわってしまうこともあります。
どんなに正しくても人の気持ちを逆撫でするようではだめだなと。
だからと言って間違っていることを正しいとは言えませんが。
小説としての面白さに加えて、
男女間の違いや伝えることの難しさなども学べた
濃厚な読書タイムとなりました。
あなたもどっぷり『冬の光』の中を歩いてみては?