昨夜のカレー、明日のパン
2013年5月22日
今日のユキコレでご紹介するのは、
先月発売された、人気脚本家による初の小説、
『昨夜(ゆうべ)のカレー、明日(あした)のパン(河出書房新社)』
です。
本を書いたのは、夫婦脚本家の木皿泉(きざら・いずみ)。
夫婦で一人のペンネームだそうです。
今までテレビドラマ『すいか』、『野ブタ。をプロデュース』
などの話題作を担当してきた夫婦脚本家です。
そんな人気脚本家による初の小説です。
さすが脚本家!
本を読んでいるというより、
ドラマを見ているような気分でした。
文字を追いながら、もれなく映像が見えてきました。
それこそ、実際に目にしている以上に
見えているように思いました。
いや、見えるだけでは無く、
音やにおいや温度までもが感じられるようでした。
***
ストーリーを簡単にご紹介しましょう。
主人公は、テツコという20代の女性です。
彼女の夫、一樹は、7年前、25歳で亡くなります。
その後もテツコは、一樹の父・ギフ(義父)と2人で暮らし続けます。
それも古い木造家屋に。
物語は、テツコを中心とした様々な人の目線で描かれます。
テツコだったり、
隣の家の女性だったり、
友人だったり、
物語ごとに一人称が変わっていきます。
そして、この小説に出てくる人たちは皆、
大切なものを失っています。
皆、悲観したり、ヤケになったりしつつも、
誰かと関わり、話をしながら、
自分で答えを見つけます。
その答えにたどり着くまでの過程(会話)が、いいんです。
どういいかというと、いたって普通なんです。
でも、どれも心の響きます。
きっと普通だからこそ響くのだと思います。
登場人物たちの心の変化がとてもリアルな質感を伴い描かれ、
まるで私自身の心までもが晴れ晴れとしてくるようでした。
夫を亡くした妻、
笑い方を忘れた客室乗務員、
怪我をし正座ができなくなった坊主。
彼らは、どのようにして立ち直ったのか?
ちなみに、テツコは、
「悲しいのに、幸せな気持ちにもなれる」
と知ってから、色々なことを受け入れやすくなったそうです。
例えば、辛い時に漂ってきたパン焼ける匂いに幸せを感じたり、
そのパンを持った時の温かさに癒されたり。
ちょっとしたことなのだけど、
人はふとした瞬間に幸せを感じられるものです。
昨日は気付かなくても、
明日、気付くこともあります。
そんな見落としてしまった幸せに気づかせてくれるような1冊でした。
『昨夜(ゆうべ)のカレー、明日(あした)のパン』は、
素朴だけど、じわっとあたたかく、優しい物語です。
じっくりと味わってみてください。