犬とハモニカ
2012年10月24日
今日のユキコレ(13:45〜オンエアー)でご紹介する本は、
江國香織さんの『犬とハモニカ』という短編集です。
短編集は、ちょっとした空き時間に、
例えば、カフェでお茶をしながら、電車の中で、お家で寝る前に読むにはぴったりです。
短い時間で読み切ることができるというのがいいですよね。
でも、短いからと言って、心に残る時間も短いかと言ったら、そうじゃない。
いい短編集は、読んだ後も心に長く居続けます。
長く居座るということは、インパクトのある変わったお話なのかというと、そうでもない。
『犬とハモニカ』は、私が登場人物の一人であってもおかしくないくらい。
それこそ、作品の中にするりと溶け込めそうです。
『犬とハモニカ』は、六編の短編が収録されているのですが、
本のタイトルにもなっている『犬とハモニカ』は、
なんと、第38回川端康成文学賞を受賞されました。
ちなみに、川端康成文学賞は、昨年1年間に発表された短編小説が対象で、
優れた短編小説に贈られます。
『犬とハモニカ』の舞台は、空港の国際線到着ロビー。
同じ飛行機に乗っていながらも、考えていることは人それぞれ。
そんな彼らの心のうちが描かれます。
まるで私も一緒に飛行機から降りて、
手荷物を待っているかのような気分になります。
他のお客さんの持ち物とか服装とかを
つい見てしまうことって無いですか?
まるで自分の目の動きがそのまま文章になっているかのようでした。
他にも、恋愛の始まりと終わりが描かれた作品や、
『源氏物語』を訳された作品なども収録されています。
著者の江國さんは、
「今回の短編集の六編は、全部旅に似ていると思います」
と話していましたが、確かに「旅」を感じます。
そういう意味では、旅のお共にもオススメの1冊かも。
この本を旅の途中に読んだら、
まるで自分が本の主人公にでもなったかのような気分になるかも。
電車に乗る他の乗客や、
レストランで出会ったお客さんが、
急にドラマの登場人物のように思えてくる、
なんてこともあるかもしれません。
それにしても、江國さんの文章は、独特です。
だからといって、難解ではなく、
ああ、わかる!というものばかり。
私だったら、簡単なひと言で終わらせてしまいそうなところを、
とても美しく表現されます。
そんな江國節が、とても気持ちよかったです。
ああ、この「気持ちいい」という表現も、
江國さんだったら、もっと素敵に表現されるんだろうなあ。