63『ツリーハウス』
2010年11月8日
自分の父と母、さらに、祖父と祖母が、
どのように出会い、結婚したのか、
知っている人はどれくらいいるのでしょう。
また、知っている人は、いつどのようにして知ったのでしょうか。
今、ブログを読んでいるあなたはどうですか?
私は、大学の時、ある授業で、
父と母はもちろん、祖父と祖母の出会いも調べました。
まあ、調べると言うより、話を聞くのが中心でしたが。
ほとんどの話は、母と祖母から聞きました。
今まで、母はずっとお母さんで、
祖母はずっと前から、おばあちゃんであるような気がしていましたが、
もちろん、若いときもあったんだよな、ということを、
その時、初めて意識したように思います。
二人の話を新鮮な気持ちで聞きつつも、
どこか気恥ずかしさがあったのを、
この本を読みながら思い出していました。
その本とは、先月出たばかりの角田光代さんの最新作『ツリーハウス』です。
西新宿の小さな中華料理屋「翡翠飯店(ひすいはんてん)」を巡る三代記が描かれています。
家族とはこんなもんだろうと思いながらも、
親戚もおらず、常に誰かしら出入りする家に、
どこか不自然さを感じていた孫の良嗣(よしつぐ)は、
自分のルーツを知るため、祖父が亡くなったことを機に、
祖母と叔父の太二郎(たいじろう)と共に、満洲へと旅に出ます。
多くを語らず、常に不貞腐れ気味の祖母、
そんな祖母が何かを語るのを待ちながら旅を続ける、孫の良嗣。
良嗣の目線からスタートした物語は、
突如、若かりし頃の祖母ヤエの話へ飛び、
封印されていた祖父母の過去が明らかになっていきます。
物語は、家族の中で最年少の孫の良嗣(よしつぐ)と祖母のヤエを中心に、
家族の誰かの目線で進んでいきます。
時代もなんの前触れもなく変化していきます。
現在になったり、過去になったり。
戦時中、必死に「逃げて」生き延びた祖父母。
さらに、現実から逃げて生きようとした、その子供たちと孫たち。
同じ「逃げる」でも、その種類は違うのだけれど、
でも、この本は「逃げる」が1つのキーワードになっています。
逃げることで、つかむものもあれば、失うものもあります。
本の帯にもある
「後悔したって、もし、なんて、ないんだよ。
後悔なんてするだけ損」
という祖母の言葉が、とても印象に残りました。
何かにうまくいかなかったとき、
もしあの時、別の選択をしていたら…
と思うことは、誰でもあると思うけれど、
でも、その「もし」は現実には無いのですよね。
人は生きている以上、
常に何かを選択しながら生きているわけで、
こんなはずじゃなかった、と思っても、
過去を振り返ってみると、
そこには、自分が歩んできた歴史があります。
もちろん、今、ブログを読んでいるあなたにも。
さて、「翡翠飯店」の家族の皆さんには、どのような歴史があるのでしょうか?
私は、一日で一気に読んでしまったけれど、
この本は、登場人物も多いし、長い年月をまたいでいるので、
毎日、少しずつ、読み進めていけばよかったかな、
と、読み終わった時に思いました。
秋の夜長にじっくり、ある家族の歴史をのぞいてみては?