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16『天才たちの値段』

2010年3月8日

紀伊國屋書店富山店の朝加さんから、
こんな本はいかが?と紹介されたのは、美術ミステリでした。

門井慶喜(かどいよしのぶ)さんの『天才たちの値段』という本です。

私は、美術に造詣がないので、やや不安でしたが、
知識がなくても、わかりやすい文章でしたので、最後まで楽しめました。
ただ、ボッティチェッリ、フェルメールなどの実在する作品が登場しますので、
その道に精通している方が読んだら、より深く楽しめると思いますが。

主人公は、短大の美術講師・佐々木先生。
そして、天才美術コンサルタント・神永美有(かみなが・みゆう)。
どちらも男性です。

ふたりのもとに、美術作品が本物か贋物(にせもの)かどうか鑑定してほしい、
という様々な依頼が舞い込みます。

天才・神永によれば、
美術作品が本物かどうかは、自分の「舌」でわかるのだとか。
「もし贋物なら、見た瞬間、苦味を感じ、本物なら甘みをおぼえる」のだそうです。

非常に感覚的なのですが、不思議な魅力を放つ神永が言うと、
魅力的に、そして魅惑的に感じます。

依頼を受けた作品が本物かどうかを見分けるために、
タッチ、色づかい、絵具の種類、そして、キャンヴァスにいたるまで、
徹底的に調べ上げ、鑑定します。
また、美術史だけでなく、様々な歴史の知識も必要です。

そういった莫大な知識をもとに鑑定する様は、とてもかっこいい!
さらに、佐々木先生も神永も、人としても賢く優しい。

落ち込んでいる人を救うための優しい嘘をついたり、
直接、口では言えないことを、言葉や態度に、さりげなく取り入れたりするのです。
そのやりとりが、とてもスマートでかっこいい。

思っていることを100%全て説明したら相手には伝わりますが、
ほんの一言でも十分伝わることもあります。
その「伝わる」短い一言を言えるようになりたい、と、この本を読みながら思いました。

それから、この本は、佐々木や神永のようなスマートな人間ばかりが出てくるわけではありません。
やや奇抜な女子学生や、イヤミな男性も出てきます。
彼らがいい味を出していて、やや単調になりがちなストーリーに斬新な色を落としています。

『天才たちの値段』、普段はあまり読まないジャンルの本ですが、面白かったです!
いつも読んでいる本の世界から、ちょっと飛び出してみたい、という方、いかがでしょうか?

ちなみに、この本は、2006年に発行されているのですが、
先月、文庫化されましたので、気軽にお読みいただけます。

また、去年12月には、続編の『天才までの距離』も発売されましたので、
気に入った方は、こちらも是非!

yukikotajima 11:07 am