ゆきれぽ

2025年4月16日

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『PRIZE―プライズ―』

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あなたには、どうしても欲しいものはありますか。

お金では買えないし、頑張れば絶対に手に入るものでもない。
でも、どうしても欲しいと思うものって、何かありますか。

今日は「直木賞」が欲しくてたまらない作家の物語をご紹介します。

『PRIZE―プライズ―』
村山由佳
文藝春秋

直木賞は、大衆文学が対象の文学賞で、新人のみならず中堅の作家にも贈られます。
最新の直木賞受賞作は、伊与原新さんの『藍を継ぐ海』(新潮社)です。

直木賞受賞作は話題になりますし、
一度受賞したあとはずっと「直木賞作家」と言われ続けます。

実際、伊予原さんの作品も注目されていますよね。

*

さて、『PRIZE―プライズ―』の主人公は、
その「直木賞」が欲しくてたまらない人気作家の天羽(あもう)カインです。

本を出せばベストセラーで、映像化された作品もたくさんあって、本屋大賞も受賞しています。
デビューから10年以上が経つものの人気に翳りはなく、
最近は様々な文学賞にノミネートされるようになっています。
ただ、受賞には至っていません。
プロの作家が選考委員を務める名のある文学賞が獲れないのです。

中でも彼女が欲しいのが「直木賞」です。

カインは直木賞を獲って、プロの作家たちに自分の実力を認めさせたいと思っています。
認められたいではなく、認めさせたいと。

果たしてカインは直木賞が獲れるのか。
ぜひ本を読んでお確かめください。

✳︎

カインがいる場所はピリッとした緊張感があります。
自分だけでなく他人にも厳しく、常に完璧を求めているからです。
言っていることは正しいのだけど、言い方がキツイのです。

物語は、カインの視点だけでなく、
担当編集者たちの視点も加わるのですが、
編集者視点でカインを見ると正直とても怖いです。
もし自分がカインの担当編集者なら、いつも顔色を窺ってビクビクしてしまいそうです。

でもカインの視点で見ると、見え方が変わります。
いつも不機嫌ではあるものの、どこか寂しさが感じられるのです。
自分のことをわかってもらえない孤独な気持ちが。

作家は一人で物語を書きますが、担当編集者も伴走します。
この担当編集者との関係がとても大事です。
熱量が違ったり、どうしても性格的に合わなかったりしたら、大きなストレスとなります。
だからこそ信頼のおける編集者と組めることは、作家にとって幸せなことです。
この物語は、そんな作家と編集者のお話でもあります。

また、作品がどのように作られていくのかや、
直木賞をはじめとした文学賞がどのように決まるのかといった
出版業界の裏側を知ることもできます。

でもそういった知識を得られること以上に、
そこに関わる人たちのむき出しの感情に触れることができる面白さがありました。

いやあ、面白かった!
なんかもうすごい熱量でした。

読んだ後に癒やされたり、優しい気持ちになったりする物語ももちろん好きだけど、
こういう怒りと緊張で心臓がずっとバクバクしているような、心拍数高めの物語も好きです。

最初から最後までノンストップで面白かったです。
最近、なんか刺激が足りない日々を送っているかもという方は、
ぜひカイン先生に会いに行ってみてください。

刺激入りますよ。

ちなみに、著者の村山さんは直木賞作家です。

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