ゆきれぽ

2024年12月18日

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『すべての、白いものたちの』

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先週、スウェーデンでノーベル賞授賞式が行われましたが、
今年のノーベル文学賞は、韓国の作家、ハン・ガンさんが選ばれました。
アジア人女性としては初めての受賞です。おめでとうございます!
「歴史的トラウマに立ち向かい、人間の命のはかなさをあらわにした強烈な詩的散文」
が評価されたとのことです。

 

ハン・ガンさんは韓国だけでなく、日本にもファンが多いそうです。
また、今回ノーベル賞を受賞したことで、いま世界中で話題になっているそうです。

 

代表作には、光州事件を題材にした『少年が来る』や
アジア初のブッカー国際賞を受賞した『菜食主義者』などがあります。

 

今日は、2度目のブッカー国際賞候補となった作品をご紹介します。

 


『すべての、白いものたちの』

ハン・ガン
河出文庫

 

この本は、2016年に韓国で刊行され、
その後改定などを経て、2018年に日本語版が刊行されました。
今回私が読んだのは、去年発売された文庫版です。

 

『すべての、白いものたちの』は、このように始まります。

 

「白いものについて書こうと決めた」

 

そして、おくるみ、うぶぎ、しお、ゆきなどの
「白いもの」にちなんだ物語が紡がれていきます。その数65!

 

美しくリズミカルで余韻のある文章は、
まるで詩のようにもエッセイのようにも思えたのですが、この作品は小説だそうです。

 

物語は、大きく分けて3章で構成されています。
まず「私」の話からはじまり、次は「彼女」の話、
そして最後は本のタイトルでもある
「すべての、白いものたちの」について書かれています。

 

まず「私」の話では、自分の亡き姉について書かれています。
姉は生まれてからたった2時間で亡くなってしまったのでした。
そんなわずかな時間しか生きられなかった姉のことを思って、
「私」は「あること」をしてみることにします。
そして「彼女」の話へと繋がっていくのですが、
私はこの「彼女」の話を読みながら
「多分こういうことだよね?」と自信が持てないまま読みました。
ですが、最後の解説まで読んですっきりできました。

 

というのも文庫版には、ハン・ガンさんのあとがきのほか、
訳者の斎藤真理子さんによる補足と、
作家の平野啓一郎さんによる解説が収録されているのですが、
この補足と解説がとてもわかりやすいのです。
こう読むといいよ!と教えて下さっています。

 

読み方がわかった上で私ももちろん再読したのですが、
もはや別の物語のように感じられました。
ピントが合うと、こんなに読みやすくなるものなのかと、そのことにも感動しました。
ですから、読みながら「ん?これはどういうこと?」と思っても、
最後の解説までしっかり読んでください。

 

最初は、どこかぼんやりとした、はかなく美しい詩を読んでいるような気分でしたが、
どんな物語かをつかんだ後は、ひとつひとつの言葉がしっかり輪郭をもって心に届きました。
二回目は力強ささえ感じました。

 

リズミカルな文章は、さらっと読めてしまいそうになりますが、
ぜひ一文一文をかみしめながら読んでみてください。
特に雪の季節にこの物語は合うように思います。実際「雪」の描写も出てきますし。
清らかで美しい文章はもちろん、
ハン・ガンさんの素晴らしい感性に触れることができる一冊です。
ちなみに私は、163ページの「沈黙」の文章が好きです。
たった3行なのですが、一日の終わりに目にしたくなる、とてもあたたかな文章です。

あらためて、ノーベル賞受賞おめでとうございます!

 

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