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『ツミデミック』

2024年9月11日

まだコロナは無くなっていませんが、
コロナ禍前の日常はだいぶ戻ってきましたよね。

とは言え、コロナ禍前とまったく同じかと言うと、
そうでは無いという方もいると思います。
中には生活そのものが大きく変わったという方もいるかもしれません。

別の仕事を始めたり、進学先を変えたり、
考え方そのものが大きく変わったりして、
コロナ禍前に描いていた未来とは
異なる道を選択した方もいることでしょう。

今日ご紹介する本にも、
コロナ禍で人生が思うようにいかなくなった人たちが出てきます。

『ツミデミック』
一穂ミチ
光文社

この夏、第171回直木賞を受賞した話題の短編集です。

一穂さんの短編集というと、
以前、直木賞候補になった『スモールワールズ』も私は好きです。

◎『スモールワールズ』の田島の紹介は コチラ

一穂さんの文章って、目の前に映像がくっきり鮮やかに見えるのです。
的確かつ素敵な表現で、
心の中のぼんやりとした思いや、目の前に見えるものが、
現実以上にしっかり感じられます。

例えるなら、視力矯正された眼鏡をかけたときのような感じです。

私があの時感じていたことは、言葉にするとこういうことなのかと、
自分の言葉にできなかった思いを
しっくりくる言葉で言語化してもらった感じです。

まあ、実際は物語の中の人の話ですから私自身の思いではないのですが、
一穂さんの作品に出てくる人たちは、
どこにでもいそうな身近な人たちなので、自分と重ねたくなるのです。

直木賞受賞作の『ツミデミック』も他人事とは思えませんでした。

本の帯に「パンデミック×犯罪」とあるとおり、
この作品は、コロナ禍が舞台の「犯罪」をテーマにした短編集です。

罪を描いているのに、他人事とは思えないってどういうこと?
と思うかもしれませんが、
本を読んでいると、そう思わずにはいられないのです。
だってみんな普通の人たちなんですもの。

さて、この短編集にはどんなお話があるのか、いくつかご紹介しましょう。

例えば、コロナ禍で仕事がうまくいかない夫から
「働いて少しでも金を稼いでくれ」と言われる妻の話。

夫がとても嫌な言い方をする人で、
妻はそんな夫に腹をたてつつも我慢しています。

そんなある日、たまたますれ違った
フードデリバリーサービスのイケメンにくぎ付けになり、
また会いたいがためにサービスを始めるのですが、
なかなか出会えず、利用回数も増えていき…。

この夫が本当にひどくて、
何でそんな言い方しかできないわけ?とイライラしました。
だからこそ、妻に対して、
いつかお目当てのイケメンがデリバリーしてくれたらいいね!
と思いながら読んでいたのですが…
この先の展開に、いやもうびっくりしました。
あまりにも衝撃的過ぎて、しばらく次の話が読めませんでした。
気になる方はぜひ読んでみてください。

他には、調理師の職を失って家に籠もりがちの男性の話もあります。
ある日、小学一年生の息子が近所の老人から旧一万円札をもらってきたことから
そのお礼というか、あわよくばもっとお金がもらえないかと期待して、
料理人らしく得意の澄まし汁を作って老人の家に持っていき、
そこから奇妙な交流が始まるというお話。

私はこの話が一番好きです。
つっけんどんな老人と調子のいい男性のやり取りは、
どこか『男はつらいよ』の寅さん的で。

最後は、ウイルスではなくパンデミックに人生を壊された人たちが集まって
一台の車に乗って出かけるという話。
いったい彼らの目的とは。

『ツミデミック』は、一冊にコロナ禍の人々の様々な感情が詰まっていました。

人生、いいこともあれば悪いこともあります。
人に傷つけられることもあれば、逆に傷つけてしまうこともあります。
完璧な人なんていないですからね。

この本を読んで、私自身、自分の過去を振り返って、
反省をして、そして感謝をして、ここからまた頑張っていこうと思えました。

一穂さんの本、やはり好きだわ。

yukikotajima 1:31 pm