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『今夜、喫茶マチカネで』

2024年8月21日

お盆も終わりましたね。
実家に帰省された方もいると思いますが、久しぶりの故郷はいかがでしたか。

昔から変わらないものにホッとした一方で、
変わってしまったものに寂しさを感じたという方もいるかもしれません。
例えば、昔よく行っていたお店が無くなっていてショックだったとか。

今日ご紹介する本も、お店を閉めることにした書店と喫茶店のお話です。

『今夜、喫茶マチカネで』
増山 実(ますやま・みのる)
集英社

私は増山さんの作品は好きで、これまで色々と読んでいます。
特に好きなのは『波の上のキネマ』です。
こちらは私が2018年に読んだ本の中で一番面白かった本に挙げた作品です。

◎『波の上のキネマ』の紹介は コチラ

『波の上のキネマ』は、商店街のはずれにある小さな映画館の物語でしたが、
『今夜、喫茶マチカネで』も商店街が舞台です。

「喫茶マチカネ」は、大阪の待兼山(まちかねやま)駅の
駅前の書店の2階にある喫茶店です。
書店も喫茶店も昭和29年にオープンし、
その後、息子たちがそれぞれお店を継ぎます。
しかし残念ながらどちらも閉店することを決めます。

というのも、店の名前にもなっている「待兼山駅」の駅名が変更されることになり、
待兼山という名が使われなくなるなら、このあたりで潮時かなと、
閉店を決めたのでした。

そんな中、常連客の一人がこんな提案をします。

待兼山駅の名前と町の記憶を残すために、
閉店までの間、みんなで集まって街について話をして、
それを本にしませんか、と。

そして、喫茶マチカネは、閉店までの半年間、
毎月11日午後9時から、この街で経験した不思議な話を語り合う会
「待兼山奇談倶楽部」を発足します。

せっかくなら単なる思い出ではなく、ちょっと不思議な話をしようと、
奇談倶楽部になったのでした。

そして、4月から9月まで毎月1回、
街にゆかりのある方たち、
例えば、カレー屋さんのご主人、
20年前の学生時代に街に住んでいた女性、
そして食堂のおばあちゃんなどが、とっておきの話を披露していきます。

毎月一人ずつ、みんなの前で話をしていくのですが、
どの方のお話もとても面白くて、毎回引き込まれてしまいました。

また、面白いだけでなく、考えさせられるお話が多いのも印象的でした。
例えば街の過去の話となると、戦争の話も出てくるわけです。
過去の話は美化されがちですが、美談ばかりが語られるわけではありません。
だからこそリアルなのです。
本音を語る人たちの言葉って、まっすぐに心に響くもので、
時にはちょっと不思議な話もあったりするのですが、
そういうこともあるかもしれないよね、と思わされてしまいます。

皆さんが何を語るかは本を読んで楽しんで頂きたいので、あえて触れません。
ぜひあなたも喫茶店のドアを開ける気分で本を開いて、
皆さんの話に耳を傾けてみてください。

まるで会に参加している気分で楽しめますよ!
そう、まさにそこにいる気分になれます。
私が増山さんの作品の好きなところは、この没入感です。
客観的に本を読み始めても、気付けば作品の世界に入り込んでいるのです。
今回もすっかり喫茶マチカネの常連客のひとりの気分でした。

それから、この作品は、ビートルズやビリー・ジョエルなど、
登場人物たちの思い出の曲がたくさん出てくるのもポイントで、
私の頭の中ではずっと音楽が鳴っていました。

そういう意味でも、いつもラジオを聴いているリスナーの皆さんと、
この本は相性がいいと思います。

まさに音楽やお喋りなど、ラジオのように音が聞こえてくる一冊です。
文章のリズムも心地いいので読みやすいと思います。

でも、さらっと流れていくのではなく、ちゃんと心に残ります。
また、思いがけずドキリとすることも。
ハッとさせられたり、えっ?と思ったり。
そんなスパイスも含め、お楽しみください。

それにしても、こうやって街の過去について、
みんなで順番に話していくの、面白そうだなー。
知っているようで知らないことって結構ありそうだし。
それに時には不思議な話もあるかもしれないし。

yukikotajima 11:09 am