『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
2024年7月24日
ヨリミチトソラでは、毎週水曜の18時32分ごろから
このブログとの連動で本の紹介をしています。
ラジオで私の本紹介を聞いて、読んでみたいと思いながらも
仕事が忙しくて全然読めていない、という方はいませんか。
今日は、まさに仕事に追われて読書が楽しめなくなった、
という方によって書かれた本をご紹介します。
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
三宅香帆(みやけ・かほ)
集英社新書
著者の三宅さんは、1994年生まれの文芸評論家です。
本が読めないことが前提なのは、
本好きの私としては、悲しすぎる…と思ったのですが、
この本は、読めない理由だけが書かれているわけではありません。
実際、三宅さん自身、本が大好きなのに、
働くようになってから本が読めなくなってしまったそうです。
気付いたらスマホばかり見ていたと。
なぜこんなことになってしまったのか、いろいろ調べた結果、
ある答えにたどり着いたそうです。
三宅さんは、読書だけでなく、趣味や好きなことなど、
人生に必要不可欠な文化的な時間が
労働の疲労によって奪われていると言います。
そう、現代人はみんな仕事で疲れすぎているのです。
でもこれまで日本人は働きながら本を読んできたわけです。
どうやって、それができていたのか。
この本では、明治から令和にかけての労働と読書の歴史を追いかけながら、
その問いについて考えています。
具体的な作品を例に挙げながら、
その時代によく読まれた本にはどんな傾向があるのか、
わかりやすく解説されているので、
なるほど、そういうことか!と理解しやすく、
楽しみながら読むことができました。
例えば、70年代には、文庫が創刊されるようになり、
通勤電車の中で読むスタイルが根付いていったそうです。
なお、この時代、人気だったのは、司馬遼太郎さんの作品です。
80年代になると、黒柳徹子さんの『窓ぎわのトットちゃん』をはじめ、
村上春樹さん、俵万智さんなどの作品が何百万部も売れる時代になります。
ちなみに、これらの作品に共通していること、わかりますか?
それは「一人称視点」であるということ。
80年代には「社会」ではなく、「自分」の物語が増えていったそうです。
そして、コミュニケーション能力が重視されるようになっていったのだとか。
そして、令和の今は、自分には関係のないこと、
著者はそれを「ノイズ」と言っているのですが、
そのノイズを受けいられなくなっている人が増えているそうです。
でも、三宅さんは、ノイズを受け入れることが大事だと言います。
自分とは異なる価値感や情報に触れることが。
そして、読書こそノイズだと。
でもどうしたら、ノイズを受け入れられるようになるのか。
三宅さんは、この本の中である提案をしています。
それこそが結論なのですが、これがとてもいい提案でした。
三宅さんの探し出した答えとは?
気になる方は、ぜひ本を読んでお確かめください。
また、人気映画の『花束みたいな恋をした』が多く引用されていますので、
この映画がお好きな方もぜひ読んでみてください。
大変興味深く面白い一冊でした!
本への愛はもちろん、人への思いやりが感じられる文章なので、
気持ちよく読むことができました。
本の歴史を知ることができたのも楽しかったです。