『夜明けのはざま』
2024年1月24日
先週の水曜日、芥川賞・直木賞の受賞作が発表されましたが、
来週の木曜日2月1日には、本屋大賞のノミネート作品が発表されます。
本屋大賞は、大賞だけでなくノミネート作品にも面白い作品が多いので、
今年はどんな作品がノミネートされるのか、私も今からとても楽しみです。
今日ご紹介するのは、本屋大賞受賞作家、町田そのこさんの最新刊です。
『夜明けのはざま』
町田そのこ
株式会社ポプラ社
町田さんは、2021年に『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞したほか、
去年は『宙ごはん』、一昨年は『星を掬う』がノミネートされるなど、
本屋大賞ではすっかりおなじみです。
ちなみに、大賞を受賞した『52ヘルツのクジラたち』は映画化され、
3月1日に公開されます。
新刊の『夜明けのはざま』は、家族葬専門の葬儀社が舞台の連作短編集です。
この葬儀社は、古民家をリノベーションした一日一組限定の斎場で、
「故人との最後の時間を、温かな空間で、大事なひとたちと静かに過ごしてほしい」
というコンセプトのもと運営されています。
葬儀社が舞台というと、辛く悲しい話は読みたくない、と思う方もいるかもしれません。
でも、私はこの本を読んで、心が軽くなって、そのうえ前向きな気持ちになりました。
というのも、登場人物たちは身近な人の死を通して
「自分らしく生きること」と向き合っていくからです。
例えば、舞台となる葬儀社で働く女性スタッフは、仕事か結婚かで悩んでいます。
彼氏からプロポーズをされるものの、今の仕事を辞めてほしいと言われてしまいます。
でも、仕事にやりがいを感じている彼女は辞めたくはありません。
果たして彼女は悩んだ末にどのような選択をするのか。
その答えは、本を読んでお確かめください。
この葬儀社のある場所は、地方都市の寂れた町です。
多様性なんて考え方はまだ浸透しておらず、昔ながらの考えのままの人も多くいます。
例えば「女なら男に従うのも仕方ない」というような。
この物語にも、そう思っている女性がいます。
「何もおかしくないでしょ?」と本気で思っています。
でも、身近な人の死や様々な人と関わる中で、
「いや、おかしいかも」と気付き始めます。
このブログを読みながら「いやいや、何がおかしいのかわからない」
と思っている方は、ぜひこの短編集を読んでください。
今は色々な考え方や生き方がある、ということに気付けると思います。
登場人物たちは、自分らしく生きるとはどういうことかを、それぞれ考えます。
でも、葛藤もあるし、簡単なことではありません。
それでも前を向く彼らの強さがまぶしく、私も頑張ろう!という気持ちになりました。
正直なことを言うと、最初は、身近な人が亡くなって悲しいだけの話だったら嫌だな…
とちょっとだけ思ってしまったのですが、さすが、町田そのこさんです!
そんな心配は一切必要ありませんでした。
今回も読んで良かったです。とてもいいお話でした。
また、何度も泣きました。
といっても、人が亡くなって悲しいからではなく、
人の本心や優しさに触れる度、私は泣いていました。
そして、私も色々な人のことを分かった気になっているだけで、
全然わかっていないのかもしれないと思いました。
あなたはでどうでしょう?
相手のことを「この人はこういう人だから」と勝手に決めつけていませんか。
それ、実は違うかもしれませんよ。
物語の登場人物たちは、自分自身はもちろん、自分以外の人とも向き合っていきます。
そこからの気付きや学びもたくさんありました。
例えば、「自分の中の『それくらい』を相手に押し付けちゃだめ」
というセリフには、ハッとさせられました。
自分にとっては些細なことでも、相手にとっては大切なことかもしれないのですよね。
町田さんの作品は、読む度に心に残るセリフが出てくるのですが、
今回もたくさんの印象的なセリフがありました。
自分の気持ちが迷子になってしまったときは、
またこの本を開きたいと思いました。
ぜひ多くの方に読んで頂きたい一冊です。