『時々、死んだふり』
2023年11月15日
若い時は、年上の方たちの年齢を意識することはあまり無かったのですが、
自分が年を重ねていくにつれ、
人生の先輩方の年齢や生き方が気になるようになってきました。
特に人生100年時代と言われる今は、
人生の後半をどう生きていくか、気になっている方も多いのでは。
今日ご紹介するのは、87歳の今も現役でご活躍の美術家、
横尾忠則(よこお・ただのり)さんのエッセイです。
『時々、死んだふり』
ポプラ新書
横尾さんは、国際的に高い評価を得ている美術家で、
先日、今年度の文化功労者に選ばれました。おめでとうございます!
この本には、横尾さんの人生や創作についての思いが綴られています。
タイトルの『時々、死んだふり』からも横尾さんらしさが感じられますが、
なんと去年の夏、本当に死にそうだったそうです。ふり、ではなく。
急性心筋梗塞になり、2週間、絵筆を持てない日々が続いたのだとか。
でも、病気をきっかけに、横尾さんと絵の関係が少し変わって、
ご自身が望んでいた絵が描けそうだと思うようになったそうです。
それがどんな絵なのかは、ぜひ本を読んで頂きたいのですが、
病気や老いによって、これまでできていたことができなくなると、
自分はもうだめだと落ち込んでしまいそうじゃないですか。
でも、横尾さんは、それも「新たな画風」とポジティブに考えます。
実際、ハンディキャップによって新たな作品が生まれた画家たちもいて、
例えば、睡蓮の絵で有名なクロード・モネは、
白内障による視力のハンディキャップが無ければ、
革新的な作品は生まれなかったかもしれないと、横尾さんは言います。
そして、横尾さん自身も「新たな画風」を手に入れたことを
大いに喜ぶべきことと捉えています。
横尾さんは、人生も絵も軽やかで、単純でなければならないと言います。
また、社会の流行や好みと言った「外部」を意識してしまうと
本当に創造性のある作品は作れないとも。
横尾さんは、無心で遊ぶ子どものように、無心で絵を描きたいと思っているそうです。
そして、そのようにして生まれた横尾さんの新作を見ることができます。
現在、東京国立博物館では、
「横尾忠則 寒山百得(かんざんひゃくとく)展」を開催中です。
実は私も先日、東京に行っていたので見たかったのですが、
ちょうどその日は定休日でした。残念!
(でも、近くの上野の森美術館で開催中の『モネ 連作の情景』は見てきましたが)
もし12月3日までの間に東京に行くことがあれば、皆さんもぜひ行ってみてください。
ただし月曜は定休日ですので、ご注意を。
この個展では、寒山拾得(かんざんじっとく)の絵が102点展示されています。
これは、中国の唐の時代にいた寒山と拾得という風変わりな二人の僧のことで、
何ものにも縛られない、これ以上の自由はないという方たちだったそうですよ。
ちなみに、そんな寒山拾得の作品を100点以上描いたことから
個展のタイトルを寒山百得にしたのだとか。
つまり、もともと自由な二人の僧を、横尾さんが自由に描いたわけですよ。
自由×自由です。ああ、やはり見たかったなー。
さて、今日は横尾忠則さんの『時々、死んだふり』というエッセイをご紹介しましたが、
早くも新たなエッセイ『死後を生きる生き方』(集英社)を出されています。
こちらは私は未読ですが、気になる方はぜひ2冊あわせてお読みになってみては。
横尾さんによると、この2作品は「2部作という感じかな」なんだとか。
横尾さんのエッセイというと、
アートに詳しくないし、読んでもわからないかも、
と思う方もいるかもしれませんが、
全くそんなことはありません。
それこそ軽やかでわかりやすい内容ですし、
私は読んだ後にポジティブな気持ちになれました。
私も年を重ねることで生じる自分の変化を楽しんでいきたいし、
そのために、まずは今を一生懸命生きていこうと。