『ヴィンテージガール 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介』
2023年7月19日
人に会ったとき、まずは着ているものを見て、
その人のことを色々想像すること、ありませんか。
例えば、いつもはパンツスタイルなのに今日はワンピースだ。
このあと何かあるのかな?とか、
いつもはパリッとしているのに今日はシャツがしわくちゃだ。
どうしたんだろう?とかね。
また、初対面の方の場合は、
服装からその人の好みや性格を推測することもありますよね。
きっと誰もが人の服装から何かしらの情報を得ていると思うのですが、
今日ご紹介する本の主人公は、服を見ただけで体の状態がわかります。
例えば、服のシワを見ただけでDVにあっていることを見抜いてしまうのです。
『ヴィンテージガール 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介』
川瀬七緒
講談社文庫
著者の川瀬さんは、子供服のデザイナーとして働きながら小説を書きはじめ、
2011年に『よろずのことに気をつけよ』で
第57回江戸川乱歩賞を受賞して作家デビューされました。
『ヴィンテージガール』はファッションにまつわるミステリーで、
2021年に単行本として発売され、今年の5月に文庫が出ました。
主人公は、東京の高円寺で小さな仕立て屋を営む
桐ヶ谷京介(きりがや・きょうすけ)です。
彼はファッションブローカーとして、
仕事が無くなった職人に再び光を当てる仕事をしていまして、
例えば、ミラノにあるハイブランドの職人が
京介が紹介した巣鴨に住むおじいちゃんだったりします。
京介は、美術解剖学と服飾の深い知識によって、
人を見ると筋肉や骨が透けて見えるそうで、
服を見ればその人の受けた暴力や病気まで推測できます。
また、涙もろく感情移入しやすい性格ゆえ、人を放っておけず、
商店街で見かけた見知らぬ女性に突然、
「あなたの歩く姿から暴力が透けて見えました。警察に行くべきです」
と話しかけ、不審人物だと思われてしまうこともあります。
確かにこの状況は怖いわね。え?何?って思いますよね。
感情移入しやすい京介は、ある日たまたまテレビの公開捜査番組で目にした、
奇妙な柄のワンピースのことが頭から離れなくなります。
それは、10年前に起きた少女殺害事件で少女が着ていたものでした。
犯人も少女の身元も未だわからないままだと知った京介は、
ワンピースを調べれば少女の身元が分かるのではないかと、
ファッションに関する様々な職人たちに協力していただきながら
ワンピースについて調べていきます。
そして、知り得た情報を警察に提供し、
なんなら実際のワンピースを見せてほしいとお願いするのですが、
警察はなかなか相手にしてくれません。
でもまあ、そうなりますよね。
どうしたら警察は動いてくれるのか。
そもそもワンピースから、いったいどんなことがわかるのか。
続きは本を読んでお確かめください。
***
美術解剖学や服飾の知識から事件を追っていく様は、
これまでにない視点で面白かったです。
私に服飾の知識が無いので全く想像もつかず、
こんなところにもヒントがあったの?と
職人さんたちの発言にびっくりしっぱなしでした。
京介ももちろんすごいのだけど、
これまでの経験と知識のある職人さんたちの、なんとかっこいいことか。
ご高齢でもバリバリの現役なのも素敵です。
と同時に、この方たちがいなくなったら、
この業界はこの先どうなってしまうんだろう、とも思いましたが。
ミステリーとしての面白さもありながら、色々と考えさせられた一冊でもありました。
ほんと色々と。(ネタバレになるので、詳しくは書けないのですが)
読み終えてから、この作品、シリーズ化すればいいのに!
と思ったら、すでにシリーズ化されていました。
去年、『クローゼットファイル 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介』が発売されていました。
こちらは、6つのお話が収録された短編集のようですよ。
ぜひ『ヴィンテージガール』とあわせてお読みになってみては。
仕立屋探偵シリーズ、いつかテレビドラマ化されないかなあ。
この物語は本として読んでももちろん面白いのだけれど、
服飾がテーマなので、色や形を実際に見てみたい、とも思うのです。
ドラマ業界の皆さん、いかが?
今までにない新しい視点のミステリーですよー。
(この声、現場の誰かに届け〜!)