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『あわのまにまに』

2023年5月31日

本を読み終えた時、ああ面白かった!
とパタンと本を閉じて終わるタイプの本もあれば、
再度読み直したくなる本もあります。

今日ご紹介する本は後者です。
読み終えた瞬間、すぐさま読み直してしまいました。
すると、まったく同じ文章なのに印象はまるで異なり、
2回目はもはや別の物語を読んでいるかのようでした。

1回目は、これってどいうことなんだろう?この人は誰?
とドキドキしながら読み進めていきましたが、
2回目は、何気ないシーンやさりげない会話が浮かび上がって見えてきました。

今日ご紹介する本はこちら。

『あわのまにまに』
吉川トリコ
株式会社KADOKAWA

「第36回山本周五郎賞」にノミネートされたほか、
発売前から重版が決定するなど、今話題の一冊です。

『あわのまにまに』は、ある家族の50年が描かれた6章からなる連作短編集です。
それも、2029年から1979年まで10年刻みでさかのぼっていきます。

6章すべてのお話に出てくるのが「いのり」という名の女性です。

まずは、ちょっと先の未来、2029年から。
いのりの9歳の娘の目線で始まります。
彼女はこれまで大人たちが話しているのをこっそり聞いて集めた情報から、
「うちの家族はふつうとはちがう」と思っています。

その後は、いのりに関わりのある人たちが語り手となり、
家族たちの秘密も明らかになっていきます。
ちなみに、いのり自身の視点の物語はありません。

物語は10年刻みで、その間の物語は描かれていないため、
読者は想像しながら読むことになります。
そして、その想像も楽しいものでした。

時代ごとに、流行りや価値観、喋り方も異なり、
章が変わると、がらりと時代の空気感が変わるのも印象的でした。

例えば、1979年は、女性は24、25歳までに結婚して退職するのが当たり前でしたが、
今では年齢問わず女性も自分の好きな仕事をするようになっていますよね。
また、恋愛や結婚に関しての価値観も大きく変化しています。

物語は1979年で終わるのですが、
私は、読み終えた瞬間、読み返したくなりました。
それも1979年から2029年に向かって。
2回目はもはや別の物語を読んでいるかのようでした。

ある女性が物語の中でこんなことを言っています。
「外面なんていくらでも取り繕っておけばいい。
どうせほんとうのことなんか、他人にはわかりはしない」と。

たしかに私も最初は外面しか見ていませんでした。

第1章で、いのりの娘は「うちの家族はふつうとはちがう」と気付くのですが、
そもそも「ふつうの家族」って何なのでしょうね。
というか「家族」って何なのでしょうね。

ぜひあなたも本のページをめくりながら、考えてみてください。

yukikotajima 12:35 pm