『うつくしが丘の不幸の家』
2023年3月1日
今日から3月ですね。
進学や就職、転勤で引っ越しをされる方もいることでしょう。
どんなお家に住みますか?
新たに暮らし始める家が新築でない場合は、
過去に住んでいた方たちの形跡が残っていることもありますよね。
例えば、画びょうの穴や床の傷など。
それらを見ながら、ここにカレンダーを貼っていたのかな?とか、
何かを落としちゃったのかしら?などと想像することはあっても、
どんな人がどのような暮らしを送っていたかまでは、
なかなか想像しないかもしれません。
でも、そこで誰かが以前暮らしていたのはたしかなことです。
今日ご紹介する本は、同じ家で暮らした歴代の家族の物語です。
『うつくしが丘の不幸の家/町田そのこ』(東京創元社)
町田そのこさんは、2021年に『52ヘルツのクジラたち』で
本屋大賞を受賞された人気作家さんです。
なお、去年発売された『宙ごはん』は、今年の本屋大賞にノミネートされています。
どちらの作品も以前ラジオでご紹介しています。
◎『52ヘルツのクジラたち』の紹介は コチラ
◎『宙ごはん』の紹介は コチラ
そして、今日ご紹介する『うつくしが丘の不幸の家』は新作ではありません。
これらの本が出る前の2019年に発売され、去年文庫化されました。
ヨリミチトソラでは毎週水曜の18時30分過ぎから
このブログとの連動で本紹介をしていますが、
先月から第一週は、明文堂書店とのコラボで
書店員さんおすすめの本を紹介しています。
今日ご紹介する本は、小説を愛する
明文堂書店 富山新庄経堂店 文芸書担当 野口さんのおすすめです。
野口さんから
「町田そのこさんは本屋大賞受賞作が人気だけど、
私はこの本が好きなんです!」と熱くすすめられました。
『うつくしが丘の不幸の家』は、5つのお話からなる連作短編集です。
まずは、海を見下ろす住宅地『うつくしが丘』に建つ、
築二十五年の三階建ての一軒家を購入した夫婦の物語から始まります。
一階を美容室に改装し開店を控えたある日、偶然通りがかった住民から
この家が「不幸の家」と呼ばれていることを知らされます。
というのも、これまでこの家の住人が目まぐるしく替わっているからだと。
そして、2つ目のお話以降は、その「不幸の家」に住んできた
歴代の住人たちのお話が続いていきます。それも時間をさかのぼりながら。
読み進めるにつれ、ああ、なるほど!これはそういうことだったのか。
と誰がが残した形跡の理由がわかるのが楽しく、
再びページを逆にめくって読み直してはニヤニヤしていました。
そして、最後まで読んでから、もう一度読み直したくなりました。
それも2回目は時代をさかのぼるのではなく、その家に暮らした順に。
不幸の家なんて聞くと、ホラー?サスペンス?なんて思われそうですが、違います。
町田そのこさんの他の作品同様、読後は決して悪くはありません。
それどころか元気になれます!
この本を大プッシュされている
明文堂書店 富山新庄経堂店 文芸書担当の野口さんも
このようにおっしゃっています。
一見、どこにでもある家族の風景に、
ハッとしたり、共感したり、ゾッとしたり。
「不幸の家」と言いながら、
どのお話も最後はとても明るい気持ちになれるのが、
この物語の最大の魅力です。
これは、隠れた名作です。
***
「不幸の家」で暮らした住人たちは、その家でどのような暮らしをし、
なぜ家を出ることになったのか。
ぜひ、お隣さんの気分で読んでみてください。
お隣さんと言えば、この家の隣に住む信子さんだけは、全てのお話に登場します。
信子さんの言葉で印象に残ったのがこちら。
「たったそれだけ、ということは意外と多い」
見る角度や自分の心持ち次第で、
乗り越えられないと思っていた問題が簡単に解決することもある、
と信子さんはおっしゃいます。
自分が知らないことって不安だし怖くもありますよね。
でも、事実を知ったら、え?そんなことだったの?
ということはよくあるものです。
本の帯に「わたしのしあわせの形は、わたしが決める」とあるのですが、
ほんとその通りだなと思います。
誰かの心無いひとことに傷ついたり不安を感じたりしていている方は、
ぜひこの本を読んでみてください。
あなたの心を満たす不安も「え?そんなことだったの?」と思えるかもしれませんよ。
今日ご紹介した『うつくしが丘の不幸の家』は、
富山県内の明文堂書店全店の「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にありますので、
ぜひチェックしてみてくださいね。
◎明文堂書店のサイトは コチラ
・