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『月の立つ林で』

2023年2月8日

ラジオを聞いて心が動かされることってありますよね。
私もリスナーとしてラジオを聞きますが、
その時の自分の心境に合った言葉や音楽に出合うことは、よくあります。

何度も聞いている曲なのに歌詞がより耳に残る日もありますし、
パーソナリティのひとことにハッとさせられることもあります。

今日ご紹介する小説は、まさにラジオを聞いている感覚で読めます。
そして、欲しかった言葉にきっと出合えると思います。

『月の立つ林で/青山美智子【ポプラ社】』

この作品は、4月12日に発表される本屋大賞にノミネートされています。
青山さんは3年連続のノミネートで、去年まで2年連続で本屋大賞第2位でした。

2位の作品はいずれも以前ラジオで紹介しています。
(※本のタイトルをクリックしていただくと、私の本紹介が読めます。)

『お探し物は図書室まで』

『赤と青とエスキース』

果たして今年は大賞受賞となるのか気になるところですが、
私の個人的な予想では大賞決定です!(笑)
だって、とてもいい作品だったのですもの。
読みながら何度もハッとさせられ、そしていい涙を流しました。

苛立ちやモヤモヤ、満たされぬ思いといった自分の中の負の感情に対して、
優しく寄り添い、そして心を楽にしてくれるような一冊でした。

また、間違っていることに対しても
きつく叱るのではなく、自分で気付くように促していくのが良いのです。

そんなナイスアシストをしているのは、ポッドキャストです。

『月の立つ林で』は、五章からなる連作短編集です。
それぞれの物語の主人公に共通しているのは、
同じポッドキャストを聞くリスナーであるということ。

全員が、タケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』を聞いています。

タケトリ・オキナは、毎日10分、月に関する豆知識や想いを語っており、
リスナーの皆さんは、彼の話を聞いて癒されたり、気付きを得たりしています。

ポッドキャスト『ツキない話』を聞くリスナーは、
元看護師、売れない芸人、二輪自動車整備士、女子高生、アクセサリー作家と様々です。

例えば、元看護師の女性は、長年勤めた病院を辞めて実家で何もせずに過ごしています。
心も体も疲れ果てていた彼女でしたが、あることをきっかけに心が少し楽になります。

また、二輪自動車整備士の男性は、大事な娘から結婚と妊娠の報告を受けます。
男性は、娘の結婚も妊娠も、娘の夫が頼りなさそうなことも、
妻が事前に全て知っていたことも面白くないと思っています。
そんな不満ばかりの男性でしたが、あることをきっかけに心に変化が生じます。

どの登場人物もそれぞれに思い通りの人生を送れているわけではありません。
でも、彼らはポッドキャストの配信や、様々な人との関わりの中で、
心が楽になったり、大切なことに気付いたりしていきます。
そして時には見知らぬ人に救われることも。

この物語は連作短編集でゆるやかに繋がりながら物語が進んでいくのですが、
この繋がり方が良いのですよ、とっても。

誰かに愚痴を言いたくなったり、
落ち込んで慰めてもらいたくなったりしたときは、
この本を開こうと思ったくらい、私にとって大切な一冊となりました。

ラジオをお聞きのリスナーの皆さんも
ポッドキャストを聞くリスナーの気分で楽しめると思います。

yukikotajima 12:16 pm