『同志少女よ、敵を撃て』
2022年4月13日
先週、「2022年本屋大賞」が発表され、
大賞に逢坂冬馬(あいさか・とうま)さんの
『同志少女よ、敵を撃て(早川書房)』が選ばれました。
おめでとうございます〜!
本屋大賞は、全国の書店員がいちばん売りたい本を投票で選ぶ賞です。
大賞受賞作は映像化されることも多く、
2020年の大賞受賞作『流浪の月』は5月13日に映画が公開されます。
今年の大賞受賞作『同志少女よ、敵を撃て』は逢坂さんのデビュー作で、
アガサ・クリスティー賞大賞を受けたほか、直木賞候補にもなりました。
◎本屋大賞の公式サイトは コチラ
先日いくつかの書店をまわってみたのですが、
どのお店もこの作品が一番目立つところに山積みになっていまして、
書店員の皆さんの熱い思いを感じました。
この作品は、第二次世界大戦中の旧ソビエトとドイツの戦いを舞台に、
故郷をドイツ軍に襲撃され母を殺された少女がソ連軍の狙撃兵になり、
女性だけのスナイパー部隊の一員として戦争を生き抜いていく物語です。
なお、女性狙撃手がいたのは事実だそうです。
物語をもう少し詳しくご紹介していきますね。
モスクワ郊外の小さな村に住む少女セラフィマの夢は、
モスクワの大学に進学して外交官になって
戦争が終わったらドイツとソ連の橋渡しをすることでした。
そのためにドイツ語も学ぶなど、真面目で心優しい少女でした。
ところが、ある日、村をドイツ軍が襲い、母も村の皆も殺されてしまいます。
助けに来てくれた思われた女性兵士は母の亡骸に火を放ち、
セラフィマにこう問います。「戦いたいか、死にたいか」と。
「母を殺したドイツ軍も、あんたも殺して、敵(かたき)を討つ」
と答えた彼女は、女性の狙撃兵訓練学校で訓練を受けることに。
厳しい訓練ののち、ついに狙撃手専門の特殊部隊として戦うことになるのですが、
初陣で初めて敵兵を殺し、戦友も失った彼女は泣き続けます。
しかし時間が経つにつれ、戦友を失った怒りは敵への憎悪へと変わっていくのでした。
若い兵士がこんなことを言います。
「凄いよね、復讐の力って。生きる希望を与えてくれる」
セラフィマたちは戦いを続けていくうちに強くなるだけでなく、
仲間で集まっても、銃の話と狙撃技術の話しかしなくなります。
みんな若い女性たちなのに。。。
でも、戦争で戦う兵士たちも戦争前は普通の人たちで夢もありました。
セラフィマが外交官になりたかったように、
他の兵士たちにも、女優、サッカーのドイツ代表のキャプテン、
子どもを育てていつか孫に会いたいなど、それぞれ夢がありました。
この普通の会話が、戦争の悲惨さをより際立たせていました。
というのもこの物語は、ほぼ戦争の描写だからです。
それもあまりにも生々しくて、何度も本を閉じたくなったほどです。
正直なことを言うと、この本が以前から話題になっていたことは知っていましたが、
「少女が復讐のために狙撃兵になる」物語を読みたいとは思えませんでした。
でも、本屋大賞の授賞式で著者の逢坂さんが暴力や戦争を否定していたことや、
小さな声に耳を傾けたいと思っていること、
そして、増刷で得た印税を難民支援に寄付していたことなどを知り、
買って読んでみることにしました。
この本には、ウクライナの話題も出てきます。
セラフィマと共に戦う女性兵士はウクライナ出身ですし、
エピローグには「ロシア、ウクライナの友情は永遠に続くのだろうか」とあり、
フィクションの物語が現実の世界と繋がっていることにも気付かされます。
そして最後まで読んでわかりました。
これは反戦の物語だと。
読む前から本のタイトルや表紙、帯を見ただけで読みたくない、
と思ったことを反省しました。
セラフィマたち女性の狙撃兵が上官から「何のために戦うか」聞かれるのですが、
それぞれ理由を述べる中、セラフィマは「女性を守るため」と答えます。
「復讐」ではなく。
戦時中、女性を守るとはどういう意味なのか。
ぜひ本のページをめくってお確かめください。
この本は戦争について書かれた本ですが、
女性同士の繋がりを描いたシスターフッドの物語でもあります。
ですから戦争小説はちょっと苦手…と言う女性もぜひ。
いや、男性にこそ読んで頂きたい。
つまり、みんなってことですね。(笑)
私のように本のタイトルや表紙の少女の絵だけで判断せず、ぜひ読んでみてください。
読んだ後は、表紙もタイトルも印象がだいぶ異なっているはずです!