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『おんなの女房』

2022年2月9日

先週の土曜日は「気まぐれな朗読会」でした。
大雪の中お越しくださった皆さま、ありがとうございました。

FMとやまでは、3部のみ3月6日(日)18時から放送しますので、
ぜひお聞きください。

今回の朗読は登場人物が多くセリフも多かったので、
それぞれのキャラクターを想像しながら読むよう心がけました。

私は読書が好きで様々な本を読んでいますが、
ストーリーが面白く夢中になって文字を目で追ってしまう作品もあれば、
声に出して読みたくなる本もあります。

言葉選びが楽しかったり、表現が美しかったり、
語り口調だったり、文章のリズムが心地良かったりするとき、
私はつい声に出して読んでしまいます。

息遣いまで無理せず楽しく読める作品に出合うと、もう止まらなくなります。

今日ご紹介する小説は、まさにそんな本でした。
書いているというより、喋っていて、
1ページ目から声に出さずにはいられませんでした。

もはや本を読んでいるのか、お話を聞いているのかわからなくなるほどでした。
そして、目の前に登場人物が浮かび上がってきて、途中からは物語の世界にいました。
心地よい語り口だけでなく、色が見え、香りがし、温度も感じる作品でした。

今日ご紹介するのは、蝉谷めぐ実(せみたに・めぐみ)さんの
『おんなの女房(KADOKAWA)』です。

蝉谷さんは、2020年に発売されたデビュー作『化け者心中』が、
「第11回小説 野性時代 新人賞」
「第10回日本歴史時代作家協会賞新人賞」
「第27回中山義秀文学賞」を受賞し、
デビュー作ながら文学賞三冠という快挙を成し遂げました。

デビュー作の『化け者心中』は歌舞伎ミステリで、
続々重版がかかるなど大きな反響を呼んだそうです。

新作の『おんなの女房』も歌舞伎がテーマになっています。
でも、前回の続編ではなく新しい物語です。
今回は、歌舞伎の「役者の女房」が主人公です。

しかも「女形(おんながた)」の女房です。
つまり本のタイトル『おんなの女房』とは、そういうことです。

物語の舞台は江戸後期の江戸です。
武家の娘・志乃(しの)は、歌舞伎を知らないままに役者のもとへ嫁ぎます。
夫となった燕弥(えんや)は、今大注目の女形です。

この燕弥は、家でも女性としてふるまいます。
それもその時に演じている役の女性のままに。

毎回役が変わるたびに別人になってしまう夫の前で
志乃は何が正解かわからずにいます。

でも、彼女は、父親の三歩後ろにいる母親を見習い、
自分も女の役目をきちんと果たしていこうと自分なりに夫を支えていきます。

たとえば、どう接していいかわからない時は、
「お姫様」と呼ぶようにしています。
少しでも彼自身が残っている時は嫌がるから。
その様子から、どれくらい役になりきっているかわかるそうです。

最初はそんな調子で物語が始まるので、
志乃ちゃん、だいぶ変わった人に嫁いでしまってかわいそう。
というか、夫の三歩後ろというのもなんか嫌だ!と私は思ってしまったのですが、
夫の顔色を伺うだけだった彼女も色々な人とのかかわりの中で、
「おんなの女房」として少しずつ成長していきます。

私は最初は志乃を応援していましたが、
気付けば志乃に自分を重ねながら読んでいましたので、
役者の女房の気分で一緒に喜んだり不安になったりしていました。

だからこそ最後は涙。

本を閉じたとき、あまりにも現実の世界が静かで、
一瞬わけがわからなったくらいに作品の世界に没頭してしまいました。

それから、志乃以外にも役者の女房が二人出てきて
物語に華を添えるのではなく…かき乱します。(笑)

夫婦の物語が静かで緊張感があるからこそ、
女房達の激しさがいいアクセントになって物語をより面白いものにしています。

もうすぐバレンタイン。恋の季節ですね。
現代のラブストーリーもいいけれど、江戸の恋物語もいいものですよ。

今週末にでも一気読みしてみては。

yukikotajima 12:07 pm