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『眠れぬ夜のご褒美』

2024年8月28日

あなたは夜食を食べることはありますか?

私は時々食べます。

そんな時はなるべくあっさりしたものにしようと思うものの、
「遅くまで仕事を頑張ったし、今日はいっか!」
などと言い訳しながらカロリー高めのメニューを選びがちです。

ちなみに私が夜食によく食べるのは、冷凍のたこ焼きです。

料理を作る気力もない。
でもあたたかいものが食べたい。
それも満足できるものが。
となると、冷凍のたこ焼きになるのです。

アッツ〜と言いながら、ビールとともに頂くのが至福の時間です。

ですが、困ったことに夜食に食べたいものが増えてしまいました。
この本を読んだせいです。(笑)

『眠れぬ夜のご褒美』(ポプラ文庫)

標野 凪(しめの・なぎ)
冬森 灯(ふゆもり・とも)
友井 羊(ともい・ひつじ)
八木沢 里志(やぎさわ・さとし)
大沼 紀子(おおぬま・のりこ)
近藤 史恵(こんどう・ふみえ)

この本は、美味しいものが大好きという
6人の作家さんたちによる短編集です。

なんといっても『眠れぬ夜のご褒美』という
本のタイトルからして心惹かれます。

眠れぬ夜ということは、きっと色々あって眠れないわけです。
でも、そこにご褒美があるのです。

本の帯にはこうあります。

一日頑張ったあなたをいたわる、とっておきの「夜食」をどうぞ。

そう、ご褒美は「夜食」です。

その夜食がどれも美味しそうで、読んでいるだけでお腹は減るし、
食べたくなってしまいます。

例えば、どんな夜食…いえ、お話があるかというと、

・終電を逃した女性がたどり着いたある場所にまつわるお話。
そこには、ある秘密の合言葉を言わないと入れません。

・不眠が続いている男子大学生が、ある日の深夜、
同級生から「今からラーメンを食べに行こう」と誘われるお話。

・古い友人たちと真夜中のファミレスに集っておしゃべりをする
40代の女性たちのお話。

・「正しい食べもの」を好む夫に
インスタントの激辛ラーメンを食べたいと言い出せず、
深夜にひとりでこっそり食べようと試みる女性のお話。

などがあります。

中でも深夜のファミレスの女性たちのおしゃべりは、
まるで自分も仲間のひとりの気分でした。
そして、とても楽しい時間でした。

というのも、彼女たちは「なる褒め」、
つまり、なるべく褒め合うようにしているのです。
なぜなら、褒められることに飢えている世代だから。
わーかーるー!(笑)
「なる褒め」、ほんと大事です。

それから、一番印象に残ったのは終電を逃した女性の話です。
主人公も物語もいったいどこに向かっていくのかしら、と
先が見えないからこそのドキドキ感がありましたし、
最後はほろりときました。

***

登場人物たちは、それぞれ仕事でトラブルがあったり、失恋したりと
何かしら心に抱えているものがあります。
だから眠れぬ夜になっているわけです。

この短編集は、そんな彼らのある夜が描かれた一冊です。
それもお話ごとに別の作家さんが書いていますので、
全くタイプが異なります。そこがいいのです!

お腹は間違いなく空きますが、
代わりに心は満たされると思います。

私は一晩で一気読みしてしまいましたが、
できれば一晩につき一話だけ、
毎晩の夜食を味わう気分で読んでみてください。
時には物語に出てきた夜食を食べながら。(笑)

それこそ、この本があなたの眠れぬ夜のご褒美になるかも。

yukikotajima 11:43 am

『今夜、喫茶マチカネで』

2024年8月21日

お盆も終わりましたね。
実家に帰省された方もいると思いますが、久しぶりの故郷はいかがでしたか。

昔から変わらないものにホッとした一方で、
変わってしまったものに寂しさを感じたという方もいるかもしれません。
例えば、昔よく行っていたお店が無くなっていてショックだったとか。

今日ご紹介する本も、お店を閉めることにした書店と喫茶店のお話です。

『今夜、喫茶マチカネで』
増山 実(ますやま・みのる)
集英社

私は増山さんの作品は好きで、これまで色々と読んでいます。
特に好きなのは『波の上のキネマ』です。
こちらは私が2018年に読んだ本の中で一番面白かった本に挙げた作品です。

◎『波の上のキネマ』の紹介は コチラ

『波の上のキネマ』は、商店街のはずれにある小さな映画館の物語でしたが、
『今夜、喫茶マチカネで』も商店街が舞台です。

「喫茶マチカネ」は、大阪の待兼山(まちかねやま)駅の
駅前の書店の2階にある喫茶店です。
書店も喫茶店も昭和29年にオープンし、
その後、息子たちがそれぞれお店を継ぎます。
しかし残念ながらどちらも閉店することを決めます。

というのも、店の名前にもなっている「待兼山駅」の駅名が変更されることになり、
待兼山という名が使われなくなるなら、このあたりで潮時かなと、
閉店を決めたのでした。

そんな中、常連客の一人がこんな提案をします。

待兼山駅の名前と町の記憶を残すために、
閉店までの間、みんなで集まって街について話をして、
それを本にしませんか、と。

そして、喫茶マチカネは、閉店までの半年間、
毎月11日午後9時から、この街で経験した不思議な話を語り合う会
「待兼山奇談倶楽部」を発足します。

せっかくなら単なる思い出ではなく、ちょっと不思議な話をしようと、
奇談倶楽部になったのでした。

そして、4月から9月まで毎月1回、
街にゆかりのある方たち、
例えば、カレー屋さんのご主人、
20年前の学生時代に街に住んでいた女性、
そして食堂のおばあちゃんなどが、とっておきの話を披露していきます。

毎月一人ずつ、みんなの前で話をしていくのですが、
どの方のお話もとても面白くて、毎回引き込まれてしまいました。

また、面白いだけでなく、考えさせられるお話が多いのも印象的でした。
例えば街の過去の話となると、戦争の話も出てくるわけです。
過去の話は美化されがちですが、美談ばかりが語られるわけではありません。
だからこそリアルなのです。
本音を語る人たちの言葉って、まっすぐに心に響くもので、
時にはちょっと不思議な話もあったりするのですが、
そういうこともあるかもしれないよね、と思わされてしまいます。

皆さんが何を語るかは本を読んで楽しんで頂きたいので、あえて触れません。
ぜひあなたも喫茶店のドアを開ける気分で本を開いて、
皆さんの話に耳を傾けてみてください。

まるで会に参加している気分で楽しめますよ!
そう、まさにそこにいる気分になれます。
私が増山さんの作品の好きなところは、この没入感です。
客観的に本を読み始めても、気付けば作品の世界に入り込んでいるのです。
今回もすっかり喫茶マチカネの常連客のひとりの気分でした。

それから、この作品は、ビートルズやビリー・ジョエルなど、
登場人物たちの思い出の曲がたくさん出てくるのもポイントで、
私の頭の中ではずっと音楽が鳴っていました。

そういう意味でも、いつもラジオを聴いているリスナーの皆さんと、
この本は相性がいいと思います。

まさに音楽やお喋りなど、ラジオのように音が聞こえてくる一冊です。
文章のリズムも心地いいので読みやすいと思います。

でも、さらっと流れていくのではなく、ちゃんと心に残ります。
また、思いがけずドキリとすることも。
ハッとさせられたり、えっ?と思ったり。
そんなスパイスも含め、お楽しみください。

それにしても、こうやって街の過去について、
みんなで順番に話していくの、面白そうだなー。
知っているようで知らないことって結構ありそうだし。
それに時には不思議な話もあるかもしれないし。

yukikotajima 11:09 am

『知りたいこと図鑑』

2024年8月14日

8月も中旬ですね。
お子さんたちは、夏休みの宿題の進み具合はどんな感じですか。

今日ご紹介する本は、
夏休みの自由研究どうしよー!というお子さんにも、
いろいろ学び直しをしたい、という大人にも、
お盆休み、暇だなあ…という方にもおすすめの一冊です。

『知りたいこと図鑑』
著者:みっけ
株式会社KADOKAWA

この図鑑は発売からまもなく1年が経つのですが、
ラジオでおなじみの明文堂書店 高岡射水店 野口さんによると、
ずっと売れ続けている人気の本だそうです。

著者の「みっけ」さんは、デザインが好きで
知りたいこと、楽しいことを作品にしてSNSに投稿している方です。

この図鑑は、『知りたいこと図鑑』というタイトルのとおり、
様々なジャンルの知りたいことを知ることができる一冊なのですが、
ただの図鑑ではありません。

なぜなら、見ても楽しめるから。

この図鑑は、みっけさん自身が知りたいことを
デザインと組み合わせて表現したものを一冊の本にしたもので、
3つのパートに分かれています。

まずは「日常の教養」です。
例えば、洗濯表示、お肉の部位、コーヒーの種類などのほか、
夜明けと夕暮れをあらわす言葉、涙をあらわす日本語なんてものもあります。

次は「大人も覚えておきたい学習」のパートで、
国の名前、首都、国旗、元素などの項目があります。

最後は「毎日を彩るおしゃれ知識」です。
こちらでは、誕生石、香りの種類、星座などについて知ることができます。

その数、なんと142作品です。

なんで「作品」なのかというと、
すべての項目がイメージにあわせたデザインで表現されているからです。

それも、ページをめくる度、「次はこうきたか!」
と突っ込みたくなるユニークなデザインなので、
見ているだけでも頭の中がほぐれていく感じで楽しめます。

*

例えば、ヨリミチトソラっぽい雑学で言うと、
「夜明けと夕暮れをあらわす言葉」は、スマホのホーム画面をモチーフに、
それぞれの空の写真と言葉がアプリの用に並んでいて、とても素敵です。

夕暮れをあらわす言葉には、
「雀色時(すずめいろどき)」「暮紛れ(くれまぎれ)」
なんてものもあるんですって。

ヨリミチトソラの放送中「ちょうど今は雀色時ですね」なんて言ってみたい!

日本語つながりだと、表紙のデザインにも使われている「雨をあらわす日本語」は、
飴をモチーフに、飴の袋に雨をあらわす日本語とその説明が書かれています。

*

思わず笑ってしまったのは、「臓器の位置とはたらき」です。

だって、モチーフがスカジャンなんですもの。
人の臓器が書かれたスカジャン、かなりインパクトがあります。

さらに、それぞれの臓器にいたっては、名刺をモチーフにしていて、
例えば「心臓」は、「株式会社ひと」の一人で、
「全身に血液を送り出すポンプ担当」とあります。

ってことは、私は株式会社 田島悠紀子の社長で、
それぞれの臓器は従業員ってことか。
それなら、もっといたわらなきゃいけないなあと思ったりして、
そんな妄想も楽しい時間でした。

*

普通の図鑑とは違って、ユニークなデザインありきなので
見ているだけでも楽しめます。

ですが、もちろん見て終わりではなく、しっかりと学ぶこともできます。

私が、へえと思ったのは「ハットの種類」「メガネの種類」などです。
たしかにハットもメガネも色々な形があるよなあ、と勉強になりました。

*

それから、この図鑑はクイズ本としても楽しめます。

クイズ形式になっているわけではないのですが、
項目によっては、周りのひとにクイズを出したくなるのです。

例えば「略語」の項目から一問。

「ワイシャツ」は何の略語でしょう?

正解は…

「ホワイト・シャツ」です。

*

といった具合に、いろいろな楽しみ方が出来ますので、
お盆中、この本が家にあるだけでも、結構盛り上がれるのではないかしら。

また、お子さんは自由研究のヒントを見つけることができるでしょうし、
大人の皆さんは学び直しにぴったりです。

ちなみに、図鑑ですが単行本くらいのお値段なのも魅力的です。

あなたも一家に一冊いかがでしょう。

yukikotajima 11:32 am

『星影さやかに』

2024年8月7日

原爆が投下されて79年を迎えた広島では、
昨日、平和記念式典が行われました。
明後日は長崎の原爆の日です。
そして、来週の木曜日、8月15日は終戦の日です。

戦争関連のニュースに触れることの多い8月は、
今一度、戦争について考えてみませんか。

今日ご紹介する本も戦争に関する小説です。

そして今日は8月最初の水曜日ですので、明文堂書店とのコラボ回!
本を愛する高岡射水店 書籍担当 野口さんのオススメ本です。

『星影さやかに』
古内一絵
文春文庫

ちょうど今パリではオリンピックが行われていますが、
物語は、東京オリンピックがおこなわれた直後の昭和39年の東京から始まります。

主人公は羽田の町工場で働く28歳の良彦です。
彼のもとに亡き父の日記が届きます。

父は戦時中に周囲から「非国民」と言われて心を病み、
戦争が終わった後もずっと自分の部屋にこもっていました。
そして、良彦はそんな父のことを恥ずかしいと思っていました。

ですが、良彦は亡き父の日記を読んでみることにします。
いったいそこにはどんなことが書かれているのか。
そもそもなぜ父は非国民と呼ばれていたのか。

*

物語は、良彦の少年時代にさかのぼります。
良彦が暮らしていたのは、宮城県の農村です。
部屋にこもってばかりの父に、母、妹、
そして母にも自分にも厳しい祖母の多嘉子と暮らしていました。

最初は良彦の視点で進み、
後半に母親、そして父親の視点も加わり、
私たち読者は、父や母の心の中を知ることなります。

父が非国民と呼ばれた理由をはじめ、
祖母にきつく当たられている母が祖母を悪く言わない理由、
今はいない祖母の夫についてなど、
読み進めるうちに、いろいろなことがわかっていきます。

『星影さやかに』は、戦争のお話でもあり、家族のお話でもあります。
お盆に久しぶりに家族で集まる方もいらっしゃることと思います。
ぜひこの夏は、家族の昔話や戦争のお話を
親御さんやおじいちゃん、おばあちゃんに聞いてみてはいかがでしょう。

意外な事実や想いに触れることがあるかもしれませんよ。

その前に、ぜひこの本を読んでみてください。
この本を読めば、きっと自分自身の家族のことを聞いてみたくなると思います。

では、ここで、この本をオススメしている
明文堂書店 高岡射水店 書籍担当 野口さんのコメントをご紹介します。

***

戦争を背景に描かれる家族三代の物語。
大人になって、初めてわかる両親や祖父母の想い。
ただ必死に生きる姿に感動します。
女性たちの強さや、たくましさも引き立つ作品です。
お婆さんの多嘉子さん、カッコいいです!
終戦の日を前に、是非お読みください。

***

多嘉子さん、たしかにかっこよかったです。
子どもには、ただただ怖いだけのお婆さんにうつるかもしれないけれど、
一本筋が通っていて、ぶれない強さがあるのです。
いちいち言い訳しないところも素敵です。

ちなみに、この物語は、著者の古内さんの家族がモデルなんだとか。
主人公の良彦は古内さんのお父様なんですって。

また、宮城の方言や文化なども印象的な物語でした。

まさに8月の今読むのにぴったりな一冊です!
文庫でお求めやすいですし、ぜひ。

今日ご紹介した『星影さやかに』は、
富山県内の明文堂書店 全店
「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にありますので、
ぜひお手に取ってみてくださいね。

◎明文堂書店のサイトは コチラ

yukikotajima 11:23 am