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『告白撃』

2024年7月31日

もうすぐお盆ですが、
お盆休み中に学生時代の友人たちと会う予定で、
久しぶりにみんなで集まれるのが楽しみ!
という方もいるのでは?

今日ご紹介する本も学生時代からの友人たちの物語です。

『告白撃(こくはくげき)』
住野よる
株式会社KADOKAWA

住野よるさんは、2015年に『君の膵臓をたべたい』でデビューした人気作家さんです。
映画化もされた話題作ですが、なんと累計部数は300万部を突破したのだとか。すごい!

私はデビュー作はもちろん、他の作品も色々と読んでいまして、
ラジオでも紹介してきました。
好きな作品は『よるのばけもの』です。

私がこれまでに読んだ住野作品の主人公は、
小学生から高校生の若い世代が中心だったのですが、
今回の『告白撃』は30歳前後の大人たちのお話でした。
それも恋と友情の物語です。
ですが恋に関していうと、ちょっと変わっています。

だって本の帯にこう書かれていたのですもの。

親友に告白されたい。
そして、失恋させたい。

ん?告白されたいのに失恋させたいってどういうこと?
と帯を読んだ瞬間から気になり、さっそくページをめくってみました。

主な登場人物は6人の男女です。
彼らは大学時代に出会い、卒業後の今も友人関係が続いています。
中でも千鶴と響貴(ひびき)の二人は、学生時代から仲のいい親友です。
ですが、千鶴は男友達の響貴が自分に片思いをしていて、
それを隠し続けていると思っています。
でも、彼女はその思いにこたえることはできません。
なぜなら付き合っている彼氏と婚約したから。
そこで、響貴に告白させて断りたいという作戦を考えます。

え、何それ?性格悪すぎでしょ…と思ってしまいそうですが、
これにはちゃんと理由があります。
響貴が自分への想いを引きずらず、前に進めるようになることを願っての作戦なのです。
なんだかふざけた作戦にも思えますが、千鶴はいたって真剣です。

この告白大作戦には共通の友人が
呆れながらも協力してくれることになったのですが、
果たしてうまくいくのか。
そもそもどうやって告白させるつもりなのか。

この続きは、ぜひご自身でお確かめください。

***

正直、本のタイトルと帯を見た時は、どんなお話よ?と思いましたが、
いい意味で裏切られました。
本を読んでいる間は私も友人の一人の気分で、
一緒に笑ったりドキドキしたりしながら楽しめました。

この物語はとにかく会話のテンポが良くて、
友人同士の会話が、言葉のチョイスや間も含め絶妙なのです。
仲が良いからこその距離の近さで。

また、仲が良いグループでも
みんなでいる時と、一対一でいる時では
なんとなく空気感も変わったりしますが、
そういう些細な変化も本当にリアルで、
あらためて住野さんは、人の心の中を丁寧に描く作家さんだなと思いました。

設定はめったにないことかもしれないけど、感情面はいたって現実的で、
ひとりひとりの気持ちや判断が、それぞれ印象的でした。

この作品もきっと映像化されそうだなあ。
というか、してほしいわ。
テンポのいい会話を実際に聞いてみたい!

夏はお盆休み中に学生時代の友人に久しぶりに会うなど、
青春時代を思い出しがちな季節でもありますよね。
そんな今の季節にぴったりの小説です。

彼らと一緒にお酒を飲みながら楽しんでいる気分で読んでみてください。
ちなみに、住野さんによると、住野よる史上最も酒量の多い作品だそうです。(笑)

yukikotajima 11:13 am

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

2024年7月24日

ヨリミチトソラでは、毎週水曜の18時32分ごろから
このブログとの連動で本の紹介をしています。

ラジオで私の本紹介を聞いて、読んでみたいと思いながらも
仕事が忙しくて全然読めていない、という方はいませんか。

今日は、まさに仕事に追われて読書が楽しめなくなった、
という方によって書かれた本をご紹介します。

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
三宅香帆(みやけ・かほ)
集英社新書

著者の三宅さんは、1994年生まれの文芸評論家です。

本が読めないことが前提なのは、
本好きの私としては、悲しすぎる…と思ったのですが、
この本は、読めない理由だけが書かれているわけではありません。

実際、三宅さん自身、本が大好きなのに、
働くようになってから本が読めなくなってしまったそうです。
気付いたらスマホばかり見ていたと。
なぜこんなことになってしまったのか、いろいろ調べた結果、
ある答えにたどり着いたそうです。

三宅さんは、読書だけでなく、趣味や好きなことなど、
人生に必要不可欠な文化的な時間が
労働の疲労によって奪われていると言います。
そう、現代人はみんな仕事で疲れすぎているのです。

でもこれまで日本人は働きながら本を読んできたわけです。
どうやって、それができていたのか。
この本では、明治から令和にかけての労働と読書の歴史を追いかけながら、
その問いについて考えています。

具体的な作品を例に挙げながら、
その時代によく読まれた本にはどんな傾向があるのか、
わかりやすく解説されているので、
なるほど、そういうことか!と理解しやすく、
楽しみながら読むことができました。

例えば、70年代には、文庫が創刊されるようになり、
通勤電車の中で読むスタイルが根付いていったそうです。
なお、この時代、人気だったのは、司馬遼太郎さんの作品です。

80年代になると、黒柳徹子さんの『窓ぎわのトットちゃん』をはじめ、
村上春樹さん、俵万智さんなどの作品が何百万部も売れる時代になります。

ちなみに、これらの作品に共通していること、わかりますか?
それは「一人称視点」であるということ。
80年代には「社会」ではなく、「自分」の物語が増えていったそうです。
そして、コミュニケーション能力が重視されるようになっていったのだとか。

そして、令和の今は、自分には関係のないこと、
著者はそれを「ノイズ」と言っているのですが、
そのノイズを受けいられなくなっている人が増えているそうです。

でも、三宅さんは、ノイズを受け入れることが大事だと言います。
自分とは異なる価値感や情報に触れることが。

そして、読書こそノイズだと。

でもどうしたら、ノイズを受け入れられるようになるのか。
三宅さんは、この本の中である提案をしています。

それこそが結論なのですが、これがとてもいい提案でした。

三宅さんの探し出した答えとは?
気になる方は、ぜひ本を読んでお確かめください。

また、人気映画の『花束みたいな恋をした』が多く引用されていますので、
この映画がお好きな方もぜひ読んでみてください。

大変興味深く面白い一冊でした!
本への愛はもちろん、人への思いやりが感じられる文章なので、
気持ちよく読むことができました。
本の歴史を知ることができたのも楽しかったです。

yukikotajima 11:27 am

『マリリン・トールド・ミー』

2024年7月17日

毎週水曜のヨリミチトソラでは、18時30分ごろから、
このブログとの連動で、本紹介コーナー「ゆきれぽ」をお届けしています。

ヨリミチトソラのサイトは コチラ

今日ご紹介する本は、富山出身の作家、山内マリコさんの小説です。

『マリリン・トールド・ミー』
山内マリコ
河出書房新社

タイトルのマリリンというのは、「マリリン・モンロー」のことなのですが、
あなたは彼女に対してどんな印象をお持ちですか?

この本を読むと、マリリンの印象が大きく変わると思います。

主人公はコロナが流行り始めた頃に大学生になった杏奈(あんな)です。
コロナ禍でひとりぼっちで過ごしている彼女のところに、
ある日、伝説のハリウッドスター、マリリン・モンローから電話がかかってきて、
いろいろな話をします。

その後、ようやくキャンパスに通いはじめた杏奈は、ジェンダー社会学のゼミに入り、
卒論で「マリリン・モンロー」について書くことにし、研究を始めます。

そして調べれば調べるほど、電話で話したマリリンと、
雑誌や本に書かれたマリリンの印象が大きく異なることに気付きます。
また、60年前のマリリンに共通点も見つけます。

いったいそれらはどういうことなのか。

今日のヨリミチトソラでは、著者の山内マリコさんにお電話をつないで、
今回、マリリン・モンローのことを書こうと思った理由をはじめ、
近況や今執筆中の新作についてお話いただきます。

放送は今日の18時30分ごろからです。
ぜひお聞きください。

***

この本、とても面白かったですし、大変勉強にもなりました。

杏奈は大学でジェンダー社会学のゼミに入るのですが、
本を読みながら私自身もゼミ生の一人として学んでいる気分でした。

今は時代が変わって、昔良かったことでも今はNGということはたくさんあります。
そして、それを理解できている人と、
全くついていけていない人の間に大きな差が生じています。

あ、自分は後者だ…と、今ドキリとした方はいませんか?

それこそマリリンといったらセクシーな女性だよね、
と思っている人はぜひ読んでください。

生まれ育った時代も環境も全く異なる女性二人の物語、とても良かったです!

読み終えた後、あらためて本の表紙のマリリンを見ると、
きっと最初とは全然印象が異なると思います。

yukikotajima 10:33 am

『アルプス席の母』

2024年7月10日

今日このあと15時半から夏の全国高校野球富山大会の開会式が行われます。
今年は43校40チームが出場し、13日(土)に1回戦が行われます。
そして27日(土)に決勝が行われる予定で、
優勝チームは8月7日(水)に開幕する夏の甲子園大会に出場します。
今年富山県代表として甲子園に出場するのは、どのチームになるでしょう。
高校球児たちはもちろん、親御さんたちにとっても大事な夏が始まりましたね。

今日ご紹介する本は、高校球児の母の物語です。

『アルプス席の母』
早見和真
小学館

高校野球の物語ですが、主人公は選手ではなく「母」です。

夫を事故で亡くした奈々子は、神奈川で看護師をしながら
中学生の航太郎と二人で暮らしています。

子どもの頃から野球が大好きな航太郎は、
地元のシニアリーグで活躍するほどに成長します。
高校は大阪の甲子園常連校で野球をしたいと思っていたのですが、
残念ながら声がかからなかったため、
声をかけてくれた大阪の別の高校に行くことにします。

彼が進学した高校は、女子高から共学になって6年で、野球部の歴史も同じです。
でも、最近はそこそこの結果を出しており、
監督は本気で甲子園出場を目指しています。
航太郎は、この監督から声をかけてもらったのでした。

さて、高校進学を機に航太郎は野球部の寮に入るのですが、
なんとそのタイミングで、母の奈々子も息子と共に大阪へと移り、
学校の近くで生活を始めます。

そして、奈々子は野球部の親たちの会「父母会」に入ることになるのですが、
この会がとんでもない場所だったのです。
厳しすぎる掟をはじめ、理不尽なことだらけです。

親たちは、子どもたちの野球の実力だけでしか他の親を見ておらず、
親自身には興味を示しません。
そして、みんなピリピリしています。
監督の態度も酷く、最悪の雰囲気です。

また、大阪弁にも、距離の近い大阪の人たちにも慣れないし、
息子とも全く会えないしで、奈々子はめげそうになりながらも、
たった2年だしがんばる!と自分に言い聞かせます。

そう、高校生活は3年間ですが、部活動は実質たった2年なのですよね。
そう考えると短い!

誰も知り合いのいない大阪での一人暮らしが始まった奈々子と
寮暮らしが始まった息子の航太郎。

果たして二人にはこの先どんな日々が待っているのでしょう。
無事甲子園には出場できるのでしょうか。
続きは、本を読んでお確かめください。

***

私は子どももいないし、高校野球のことも詳しくないけど、
そんな私でも夢中で読んでしまいました。

私も奈々子と同じように、泣いて、笑って、怒って、心配して、応援していました。
今じゃすっかり奈々子は私の友人で、
航太郎は私の甥っ子のような気持ちです。(笑)

子どものいない私でも楽しめましたが、
お子さんが野球をしているお母さんはもちろん、
野球以外の部活や習い事をサポートしている親御さんは、
この作品をより自分のこととして楽しめると思います。
共感したり、そこは違うなあと思ったりしながら。
日々いろいろ思うことがありながらも我慢している親御さんは、
この本の中に仲間を見つけられるかも。

また、野球をしている中高生もぜひ。
この本には思い通りにいかない球児たちも出てきます。
そんな彼らから学ぶこともきっとあると思います。

夏の高校野球シーズンの今の時期にぴったりの一冊です。
さっそく今週末にでも読んでみてください。

読んだ後はきっと甲子園の見え方が変わるはず。
私は球児たちはもちろん、親御さんたちのことも気になってしまいそうです。

親たちの甲子園も熱いっ!

yukikotajima 12:18 pm

『未必のマクベス』

2024年7月3日

今日は7月の一週目の水曜日ですので、明文堂書店とのコラボ回です。

毎月、本を愛する高岡射水店 書籍担当 野口さんのオススメ本をご紹介していますが、
今回は野口さんだけでなく、北陸の書店員さんたちの推し本でもあります。

これは、北陸のとある書店員さんの「北陸の書店を元気にしたい」
という思いに共感した北陸3県の書店がタッグを組んで、
「心揺さぶられる名作」を推そう!というもので、
今日ご紹介する本は、その、とある書店員さんの推し本です。

『未必のマクベス』
早瀬耕(はやせ・こう)
ハヤカワ文庫

2014年9月に早川書房から単行本として発売され、
当時話題になりましたので、お読みになった方もいるかもしれません。

私は、今回初めて読みました。

タイトルの「マクベス」は、シェイクスピアの四大悲劇の一つです。

マクベス?
聞いたことはあるけれど、どんな話かわかならい…
という方でもご安心ください。

私もそんな一人でしたが、問題ありませんでした。
と言うのも、どんな話か小説の中で紹介されるのです。それも何度も。

物語は2009年のマカオから始まります。
主人公は、東南アジアを中心に交通系ICカードの販売に携わる38歳の男性、中井です。

彼はバンコクでの商談を成功させたあと、マカオを訪れるのですが、
そのマカオでひとりの女性から「あなたの未来を教えてあげる」と、こう告げられます。

「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」と。

商談を成功させた中井は、その直後、
香港の子会社に代表取締役として出向することになります。

まさに会社のトップとして海外での勤務が始まり、
これぞ王としての旅ってことか。なんて優雅な旅!と思いきや、
社内には複数のマイクが隠され、常に盗聴されているし、
秘書からは「誰を信用し、誰を警戒すべきが調べたほうがいい」と言われるなど、
犯罪のニオイがプンプンします。

私も新たな登場人物に出会う度、
この人は信用していいのかしら?と疑い続けながら
本のページをめくっていきました。
また、中井自身もそっちに行くのは危険だよ…
という方に進んでいってしまいます。

果たしてこの物語は、というか、中井はどこに向かっていくのか。
ぜひあなた自身の目でお確かめください。

では、ここで明文堂書店 高岡射水店 書籍担当 野口さんのコメントをご紹介します。

「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」。
この一文が、この小説を読みたい!と思えたきっかけでした。
壮大な歴史もの?
ミステリー?
シェイクスピア?

この小説の幕が開いたら
たぶんきっと、たぶん
巻き込まれてしまいます。
異国情緒ただよう何とも魅惑的な小説です。

約6年ぶりに再読しました。
北陸から全国へ
願いが届きますように!

***

まさに私も巻き込まれた一人です。
あなたも巻き込まれてみませんか?

それから、別の意味でも私自身、この作品に巻き込まれました。(笑)

というのも、主人公中井の元上司の名前が「たじまゆきこ」なのです。

ふざけているわけではありません。
漢字は違うのですが、なんと私と同じ名前でした。
もうびっくりですよ!こんなの初めてです。

中井がインターネットで「たじまゆきこ」を検索したら
他の「たじまゆきこ」が出てきたという場面があるのですが、
多分その中に私の名前もあったはず、
なんて勝手に妄想して楽しんでしまいました。

さて、このたじまさん含め、中井の周りには様々な女性たちが登場します。
特に高校時代に出会った同級生のことは、卒業後20年経った今も忘れていません。

物語には、中井の高校時代のお話もあるのですが、
犯罪の世界の緊張感とはまた別のドキドキ感がありました。

そう、この小説は、犯罪小説でありながら、恋愛小説でもあるのです。

10代の頃、思いを伝えることは無かったけど好きだったなあ、という人、
あなたにもいませんか?

この夏、そんなあなた自身の過去も思い出しながら、
『未必のマクベス』を読んでみてはいかがでしょう?

東南アジアの熱気や匂いなどのリアルな空気感と共に、
この夏忘れられない一冊になるかもしれませんよ。

あと、きっと中井のお気に入りのカクテル、
キューバリブレを飲んでみたくなるかも。

私は飲んでみたい!

いつかこの作品、映画化される予感がするわ。
中井は、長谷川博己さんに演じてほしいな。

野口さんをはじめ、北陸書店員の皆さんの推し本、『未必のマクベス』は、
富山県内の明文堂書店全店の「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にもあります!

◎明文堂書店のサイトは コチラ

yukikotajima 1:59 pm