『青い壺』
2024年6月26日
毎週水曜は、ヨリミチトソラの中で本の紹介をしています。
(このブログとの連動で、毎週水曜18時32分ごろから放送)
基本的には新しい本を中心に選んでいますが、
今日は50年近く前に書かれた本をご紹介します。
『青い壺』
有吉佐和子
文春文庫
実はこの本が今、ブームとなっているのです。
1976年に雑誌に連載され、翌年単行本化されたものの、一度絶版に。
その後、2011年に復刊され、じわじわと売れ続けていたそうですが、
去年、『三千円の使いかた』でおなじみの原田ひ香さんの
本の帯への推薦コメントをきっかけに一気に売れ始めたのだとか。
また、今年は有吉さんの没後40周年ということもあり、注目されているようです。
私も実際に読んで、ブームとなっている理由がわかりました。
だって、とても面白いんですもの!
昔の本と言うと、読みにくそう…と思われそうですが、
全くそんなことはありません。
『青い壺』は読みやすい上に、すこぶる面白いのです。
***
物語の舞台は、昭和の高度成長期の日本です。
無名の陶芸家が美しい「青磁の壺」を生み出します。
その青い壺が、売られたり、プレゼントされたり、盗まれたりしながら、
様々な人の手をわたっていきます。
物語は、13編からなる連作短編集で、
壺を手にした人や、その周囲の人たちのことが描かれています。
例えば、定年後の夫が邪魔で仕方ない妻、
老いて目が見えなくった母親と暮らし始めた独身女性、
スペインで掘り出しものを見つけた美術評論家の男性など、
様々な人が登場します。
そして、いつも誰かのそばに青い壺があります。
つまり、壺が見てきた人たちの物語です。
と言っても壺目線のお話ではなく、
あくまでも壺はそこにあるだけなのですが。
登場人物の中で私が特に印象に残ったのは、老女たちのお話です。
一つは、戦前の裕福だった頃の思い出を語る女性のお話、
もう一つは、50年ぶりに同級生たちと京都で集まることになった老女のお話です。
思い出を語る女性は、キラキラした目でうっとりと忘れられない思い出を語ります。
その話に思わず引き込まれてしまいました。
一方、50年ぶりに同級生たちと会った女性は、
口には出さずとも心の中で思っていることが色々とあります。
基本的には文句が多めなのですが(笑)、素直なところもあって、
なんだかんだで気になるおばあちゃんなのでした。
***
『青い壺』は、約50年前のお話ですが、人間の本質は根本的には変わっていません。
だからこそ、この物語が令和の今、ブームになっているのかもしれません。
変わらないと言えば、今時の若者について、
言葉遣いがなっていないとか、ものを覚える気がない!などとボヤいているのには、
思わず笑ってしまいました。
その一方、時代は戦後ということもあり、
戦争が会話の中に当たり前のように出てくることも印象に残りました。
そんな登場人物たちの戦争に関する会話から、私は亡き祖父を思い出しました。
子供のころ、祖父は戦争の話をよくしていて、
おじいちゃんはいつも昔の話をしていると思っていたのですが、
祖父にしてみたら、昔の話では無かったのかもしれないと、
この本を読んで気付かされました。
***
さて、壺が出会う人たちは、本当に多岐にわたっています。
また、壺に対しての捉え方も違います。
これは素晴らしいものに違いないと思う人もいれば、3,000円で売る人もいます。
そんなモノの価値についての描写も興味深かったです。
読み終わった後、青い壺のその後のことを想像しながら、
青い壺は今もきっと誰かのそばにあるのかもしれないなあ。
いつか私のところにもやってこないかしら、なんてことを思ってしまいました。
『青い壺』だけに、私もすっかりツボにはまってしまったようです!(笑)
有吉さんの他の作品も読んでみたいな。