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『人間標本』

2024年1月31日

去年の夏、作家の湊かなえさんにインタビューをさせていただき、
ヨリミチトソラで2週にわたって放送しました。

◎湊さん出演時のブログは コチラ

その際、執筆中の新作について、
「デビュー作『告白』よりもイヤミスな作品です」
とおっしゃっていました。
その語り口から、かなり気合いが入っているのが感じられ、
発売を心待ちにしていたのですが、
先月、ついに発売されました!

『人間標本』
湊かなえ

株式会社KADOKAWA

タイトルからしてインパクトありまくりです。
いったいどんな内容なのかしら、
とドキドキしながら本のページをめくってみたのですが、
想像を超える世界が待っていました。

いやあ、すごかった。。。
怖いけど美しく、そして、これぞイヤミス!といった作品でした。

ちなみに、イヤミスとは、読んだ後に嫌な気持ちになるミステリのことで、
湊さんは、イヤミスの女王と言われています。

この作品は、ページをめくった瞬間から
作品の世界を味わって頂きたいので、
内容に関しては何も知らずに読んで頂きたいのですが、
これではまるでどんな内容かわからないので、
ほんの少しだけご紹介しますね。

本のカバーは、青い蝶です。
物語は、蝶の学者である男性の手記から始まります。
彼は子どもの頃に家族で移り住んだ山奥で
様々な蝶を見つけ心奪われます。
そして、画家である父からの提案で、蝶の標本を作ります。

大人になってからも蝶を愛する気持ちは変わらず、
ついには蝶の学者になるのですが、
ある日、美しい少年たちに出会ったとき、彼はこう思います。
「あの美しい少年たちは蝶なのだ」
「人間も一番美しい時に標本にできればいいのにな」と。
さらには、自分の息子の姿も蝶として見えてしまい…。

この先は、もう言えないっ。
この後どんな展開が待っているのかは、
ぜひ本をお手に取って、ご自身でお確かめください。

感想すらネタバレになってしまいそうなので
あまり具体的なことは言えないのですが、
ページをめくるのが怖くもあり、一方で楽しみでもある作品でした。

本を読んでいる時に突然やってくる
「えっ?」と思う瞬間が私は好きなのですが、
この『人間標本』でもばっちり味わえました。

ぜひ皆さんもイヤミスの女王の新作をご堪能ください。

特に湊さんのデビュー作『告白』がお好きな方はぜひ。
と言うのも、今作は作家生活15周年記念の作品とのことで、
原点回帰ということと、多くのファンの皆さんからの要望もあって
「イヤミス」をお書きになったそうなのです。
また、同じくリクエストの多かった「父と息子の話」にしたそうです。

夏の富山でのサイン会でファンひとりひとりと、
じっくりやり取りをされている様子を見た時にも感じましたが、
あらためて湊さんは、ファンを大事にされる方だなと思いました。

それから、この本にはたくさんの蝶が出てくるので、
本を読んでいると、どんな蝶なのか知りたくなるのですが、
『人間標本』の特設サイトには、蝶の写真が載っていますので、
作品を読む際、参考にしてみてください。

◎特設サイトは コチラ

この先、蝶を見る度、私はこの作品のことを思い出しそうだわ。

yukikotajima 2:14 pm

『夜明けのはざま』

2024年1月24日

先週の水曜日、芥川賞・直木賞の受賞作が発表されましたが、
来週の木曜日2月1日には、本屋大賞のノミネート作品が発表されます。

本屋大賞は、大賞だけでなくノミネート作品にも面白い作品が多いので、
今年はどんな作品がノミネートされるのか、私も今からとても楽しみです。

今日ご紹介するのは、本屋大賞受賞作家、町田そのこさんの最新刊です。

『夜明けのはざま』
町田そのこ
株式会社ポプラ社

町田さんは、2021年に『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞したほか、
去年は『宙ごはん』、一昨年は『星を掬う』がノミネートされるなど、
本屋大賞ではすっかりおなじみです。

ちなみに、大賞を受賞した『52ヘルツのクジラたち』は映画化され、
3月1日に公開されます。

新刊の『夜明けのはざま』は、家族葬専門の葬儀社が舞台の連作短編集です。

この葬儀社は、古民家をリノベーションした一日一組限定の斎場で、
「故人との最後の時間を、温かな空間で、大事なひとたちと静かに過ごしてほしい」
というコンセプトのもと運営されています。

葬儀社が舞台というと、辛く悲しい話は読みたくない、と思う方もいるかもしれません。
でも、私はこの本を読んで、心が軽くなって、そのうえ前向きな気持ちになりました。

というのも、登場人物たちは身近な人の死を通して
「自分らしく生きること」と向き合っていくからです。

例えば、舞台となる葬儀社で働く女性スタッフは、仕事か結婚かで悩んでいます。
彼氏からプロポーズをされるものの、今の仕事を辞めてほしいと言われてしまいます。
でも、仕事にやりがいを感じている彼女は辞めたくはありません。
果たして彼女は悩んだ末にどのような選択をするのか。
その答えは、本を読んでお確かめください。

この葬儀社のある場所は、地方都市の寂れた町です。
多様性なんて考え方はまだ浸透しておらず、昔ながらの考えのままの人も多くいます。

例えば「女なら男に従うのも仕方ない」というような。

この物語にも、そう思っている女性がいます。
「何もおかしくないでしょ?」と本気で思っています。
でも、身近な人の死や様々な人と関わる中で、
「いや、おかしいかも」と気付き始めます。

このブログを読みながら「いやいや、何がおかしいのかわからない」
と思っている方は、ぜひこの短編集を読んでください。
今は色々な考え方や生き方がある、ということに気付けると思います。

登場人物たちは、自分らしく生きるとはどういうことかを、それぞれ考えます。
でも、葛藤もあるし、簡単なことではありません。
それでも前を向く彼らの強さがまぶしく、私も頑張ろう!という気持ちになりました。

正直なことを言うと、最初は、身近な人が亡くなって悲しいだけの話だったら嫌だな…
とちょっとだけ思ってしまったのですが、さすが、町田そのこさんです!
そんな心配は一切必要ありませんでした。
今回も読んで良かったです。とてもいいお話でした。
また、何度も泣きました。
といっても、人が亡くなって悲しいからではなく、
人の本心や優しさに触れる度、私は泣いていました。

そして、私も色々な人のことを分かった気になっているだけで、
全然わかっていないのかもしれないと思いました。

あなたはでどうでしょう?
相手のことを「この人はこういう人だから」と勝手に決めつけていませんか。
それ、実は違うかもしれませんよ。

物語の登場人物たちは、自分自身はもちろん、自分以外の人とも向き合っていきます。
そこからの気付きや学びもたくさんありました。

例えば、「自分の中の『それくらい』を相手に押し付けちゃだめ」
というセリフには、ハッとさせられました。
自分にとっては些細なことでも、相手にとっては大切なことかもしれないのですよね。

町田さんの作品は、読む度に心に残るセリフが出てくるのですが、
今回もたくさんの印象的なセリフがありました。

自分の気持ちが迷子になってしまったときは、
またこの本を開きたいと思いました。

ぜひ多くの方に読んで頂きたい一冊です。

yukikotajima 11:54 am

『祖母姫、ロンドンへ行く!』

2024年1月17日

あなたには、一度でいいからしてみたい旅はありますか。

例えば、飛行機はファーストクラスで、宿泊は五つ星ホテル。
そして、旅先の移動はずっとタクシーなんて、いかがでしょう?

今日ご紹介する本は、そんな豪華旅を実際に楽しんだ
お祖母ちゃんと、その孫娘のエッセイです。

『祖母姫、ロンドンへ行く!』
椹野道流(ふしの・みちる)
小学館

タイトルの「祖母姫(そぼひめ)」というのが、
そのお祖母ちゃんのことです。

そもそもなんで孫と祖母の二人旅なのか。
発端は、お正月に親戚が集まった時に
著者である孫娘がイギリスに留学した話をしたことでした。
祖母が「一度でいいからイギリスに行きたい」と言い出したのです。
それも「お姫様のような旅がしてみたい」と。

そこで、急きょ「ロンドンお姫様旅行計画」を立て、
旅の資金は親戚たちが出し、孫が祖母を連れて行くことに決まります。

祖母の希望は、
「飛行機はファーストクラスで、五つ星ホテルに泊まり、
一流のデパートで買い物をして、最高のディナーを楽しみ、
お友達に自慢できるような素敵なものをたくさん見たい」というもの。

果たして孫娘は、祖母をお姫様のようにもてなすことができるのか。
続きはぜひ本を読んでお確かめください。

***

本を読みながら、二人と一緒にロンドンを旅している気分でした。

ただ、お姫様であるお祖母ちゃん側ではなく、
もてなす側の孫娘の気持ちで読んだため、
常に気を遣い続けることになりましたが。(笑)

というのも、このお祖母ちゃん、なかなかにワガママなんですよ。
そのため孫娘は旅のあいだ振り回され続けます。

それでも、とても楽しい旅でしたし、
お祖母ちゃんの超ポジティブ思考には何度も笑わせられました。

例えば、デパートでコートを試着したときには、
店員さんたちが自分のことを
「日本から、何て綺麗で上品でオシャレな
お婆さんが来たんだろうって言ってたんじゃない?」
と真面目に孫娘に聞いてくるほどです。

お祖母ちゃんの自己評価の高さにはびっくり!

でも、いつも堂々としているお祖母ちゃんは、かっこ良くて素敵です。

孫娘も最初は「偉そうでわがままで厄介な婆さん」だと思っていますが、
徐々に認識が変わっていきます。

また、このお姫様旅は、孫にとっては
ファーストクラスのCAや五つ星ホテルのバトラーから
「ホスピタリティ」を学ぶ旅でもありました。

一流の方たちの「もてなし方」が素晴らしいのです。さりげなくてスマートで。
人に注意をする時でさえ、相手を嫌な気持ちにさせません。

私自身も大変勉強になりました。
一流に触れることは、自分の成長にも繋がるものなのですね。

あなたも孫と祖母の二人旅に便乗して、
一流のサービスを味わってみませんか。

ちなみに、このエッセイは最近のことではなく、
「ずいぶん昔の話」だそうです。
具体的な年代は描かれていませんが、
携帯が普及する前の時代の旅を振り返る形で綴られています。

その、ちょっと懐かしい空気感のせいか、
本を読みながら私自身が今は亡き祖母と旅をしている気分でした。
二人旅をしたことなんて無いのに、不思議なものです。
そういう意味でもいい時間を過ごせました。

yukikotajima 11:24 am

『ザリガニの鳴くところ』

2024年1月10日

田島悠紀子です。
まずは、あらためて地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

FMとやまをはじめとするJFN加盟 38のFM局では、
「JFN募金」の受け付けがスタートしました。

支援の方法は色々ありますが、
良かったら、この募金にも協力いただけたらと思います。
決して多くはありませんが、私も募金しました。

◎詳しくは コチラ

***

さて、今年もヨリミチトソラの毎週水曜の18時32分ごろからは、
このブログとの連動で、本の紹介(時々アートも)をしていきますので、
よろしくお願いします。

今日は、1月最初のゆきれぽということで、
明文堂書店 富山新庄経堂店 文芸書担当 野口さんのオススメ本です。

『ザリガニの鳴くところ』
ディーリア・オーエンズ
訳:友廣純(ともひろ・じゅん)
ハヤカワ文庫

数年前に世界中で話題になった本ですので、
すでにお読みの方もいるかもしれません。

世界での売り上げは、なんと2200万部を突破したそうです。すごい!
日本でも、2021年の本屋大賞で翻訳小説部門の1位になるなど、話題になりました。
また、2022年11月には映画化もされました。

そんな話題作の文庫版が先月刊行されました。

この本をずっと読みたいと思っていましたので、文庫化のタイミングで読めて、
さらに皆様に紹介できることなり、本当に良かったです。

だって、とても面白かったのですもの!

タイトルの「ザリガニの鳴くところ」とは、
生き物たちが自然のままの姿で生きている場所のことです。

物語の舞台は、まさに自然の中。ノース・カロライナ州の湿地です。
ここで、若い男性の死体が発見されるところから物語が始まります。
その犯人として、湿地に住む一人の少女カイアに疑惑の目が向けられます。

カイアは、6歳で家族に見捨てられてから、
たったひとりで湿地の小さな家で暮らしています。
学校にも行かず、ほとんど人前に姿を見せない彼女を
村の人たちは「湿地の少女」と呼んで、好き勝手に噂しています。
だから犯人に疑われてしまったわけですが。

物語は事件とカイアのパートが交互に描かれ、
徐々に事件の真相へと近づいていきます。
物語後半の裁判のやり取りはドキドキが止まりませんでした。

果たしてカイアは犯人なのか。
詳しくは本を読んでお確かめください。

ここで、明文堂書店 富山新庄経堂店 野口さんのコメントをご紹介します。

「孤独な少女カイアが、困難から自分の力で立ち上がっていく姿が美しく、
湿地の風景とリンクします。
ミステリ、社会問題など、一言では語れない小説でもあり、
心をとらえて離さない魅力的な作品です。
次第に明かされる謎と真相にゾワッとしました」

田島もゾワッとしました。
また、野口さんのおっしゃる通り、この本には様々な魅力が詰まっています。
それも最後の最後まで。
世界中で多くの人に読まれている理由がわかりました。

また、私は本を読む前に配信で映画も見たのですが、映画も素晴らしかったです。
ぜひ映画と小説、セットでお楽しみください。

今日ご紹介した『ザリガニの鳴くところ』は、
富山県内の明文堂書店全店「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にあります。
ぜひお手に取ってみてくださいね。

◎明文堂書店のサイトは コチラ

yukikotajima 11:25 am