『リラの花咲くけものみち』
2023年10月18日
私、しばらく北海道におりました。
大自然の中では、季節の植物がより印象に残りました。
と言いたくなるほど、作品の世界に入り込んだ小説を今日はご紹介します。
『リラの花咲くけものみち』
藤岡陽⼦(ふじおか・ようこ)
光文社
主人公は、北海道の大学で獣医師を目指す聡⾥(さとり)です。
幼い頃に⺟を亡くした彼女は、
⽗の再婚相手とうまくいかず不登校になってしまいます。
その間、愛⽝だけが⼼の⽀えとなっていました。
その後、祖⺟に引き取られ、
様々なペットと暮らす中で獣医師を⽬指すようになります。
そして、無事、北海道の大学に進学し、寮での暮らしが始まるのですが、
長い間引きこもっていた聡⾥は、人とうまくコミュニケーションが取れず、
寮のルームメイトからも嫌われてしまいます。
と書くと、なんか読むと辛い気持ちになりそうだから
読みたくないかも、と思われてしまいそうですが、ちょっと待ったー。
ここから先がとってもいいんです!
私は何度泣いたことか。
泣きすぎて読み終わった時にはティッシュの山ができていたほどです。
聡⾥は大学生活を通して、様々なものと真摯に向き合っていきます。
友人、家族、動物、そして自分自身とも。
そして、北海道の自然や生き物、周りの人たちから
たくさんのことを教わりながら成長していきます。
彼女がどのように成長していくのかは、
本のページをめくりながら、ご自身でお確かめください。
それから、この本は様々な学びのある一冊でもありました。
まず、聡⾥が獣医師を目指しているということで
獣医師の仕事が多岐にわたることや、
大学でどんなことを学ぶのか知ることができました。
また、動物に関しての様々な問題も。
私は動物を飼っていないので、ペット事情は詳しくは無いのですが、
もし今後自分がペットを飼うことになったら、
その時には、この本を改めて読もうと思いました。
また、動物だけでなく、植物についても学べました。
実は、この本には季節の植物がたくさん出てきます。
本のタイトルに「リラ」が入っていますが、
第1章から第8章までのタイトルにも
「ナナカマド」「クリスマスローズ」「シラカバ」などの花の名前がついています。
ちなみに、リラはライラックのことです。
北海道で暮らすようになった聡⾥は、
動物だけでなく植物にも興味を持つようになり、
美しい風景の写真を撮っては、離れて暮らす祖母に送っています。
本を読みながら、私が北海道の大自然の中にいる気分になったのも、
これでおわかりいただけましたか。
この本は、秋の夜長に読むのもいいけれど、
晴れた日の昼間に、公園のベンチや自然を感じるカフェ、家の庭で読むのもいいかも。
最後に印象に残ったセリフをご紹介します。
還暦を迎えたある獣医師の女性が、聡⾥に言ったものです。
時間をかけて力を尽くして築いたものだけが、最後に残る。
仕事もそうだけど、人との関係にしても同じことが言える。
だからいろんなことを面倒がらずに、きちんと頑張っておきなさい。
この言葉を目にしたとき、ドキリとして思わず私も「はい」と返事をしてしまいました。
あなたはどうですか。面倒なことから逃げていませんか。
読んだ後はきっと、ご自身の問題と向き合おうという気持ちになれると思いますよ。
とてもいい本でした。
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