『くもをさがす』
2023年5月3日
先日、明文堂書店にお邪魔したところ、まぶしいほどに輝くコーナーがありました。
一帯が明るい黄色で、まるで光を放っているかのようでした。
本の表紙が黄色というだけでなく、
本そのものから「読んでほしい」という思いがあふれ出ているように感じたのです。
その本とは、西加奈子さんの『くもをさがす』(河出書房新社)です。
明文堂書店 富山新庄経堂店 文芸書担当 野口さんのオススメ本です。
店頭には野口さんのラブレターのような直筆の紹介文がありますので、
ぜひチェックしてみてください。
『くもをさがす』は、4月19日に発売され、発売6日で20万部を突破した超話題作です。
西さん自身が今、様々なメディアに登場されていますので、
ご覧になった方もいるかもしれませんね。
西加奈子さんは、2015年に『サラバ!』で直木賞を受賞された人気作家です。
私も西さんの本は好きで、ラジオでもこれまで様々な作品を紹介してきました。
西さんの小説は体感型なのです。
まるで作品の世界にいるような感覚になれます。
五感で作品を味わう感じです。
そして最後は光を感じます。つまり希望を。
『くもをさがす』は小説ではなくノンフィクションですが、やはり光が見えました。
このノンフィクションは、滞在先のカナダで乳がんが見つかった西さんの、
がん発覚から治療を終えるまでの8ヶ月間が綴られています。
西さんのがんが発覚したのは、コロナ禍の2021年でした。
それも日本ではなくカナダで見つかりました。
日本とは言葉も医療システムも異なるため、
思い通りに行かなかいことも多かったようです。
となると、文句だらけになりそうですが、
西さんの文章からはギスギス感はありません。
なぜなら、カナダの医療従事者たちの言葉が全て「関西弁」になっているからです。
大阪育ちの西さんには、カナダの人たちの英語が
「大阪のおばちゃん」の声で再生されていたそうです。
カナダの女性たちは明るくおおらかな人が多いらしく、
彼らと話していると、がんでさえもただの風邪のように思えたそうですよ。
西さんはこの本の中で、カナダと日本の違いを色々と書いています。
その中のひとつに「〇〇見え」のエピソードがあります。
日本では「若見え」「オバ見え」など、
人からどう見えるかばかりに重きを置いているけれど、
カナダでは自分の好きな格好をしている人が多いのだとか。
西さんも人の目より自分の気持ちを大事にするカナダの人と接することで、
自分自身がどう思うかが大事だと思うようになります。
明るいカナダの人たちとの日々は西さんの救いになったようですが、
やはり大きな病気ゆえ、治療は決して楽ではなかったようです。
この本には治療中の辛い気持ちも正直に綴られています。不安も恐れも感じたままに。
西さんは、がんになってから自分のむき出しの思いを日記として書き始めたそうです。
最初は誰にも見せるつもりはなかったそうですが、
いつからか「あなた」に読んでほしいと思うようになり、この本がうまれたのだとか。
『くもをさがす』には、実際の日記が時折挟まれています。
また、治療中の西さんを救った芸術(小説や音楽など)もたくさん引用されており、
それらから西さんがその時にどんな気持ちだったのかがわかります。
西さんが様々な芸術に救われたように、この「くもをさがす」を読んで、
救われたり、共感したり、気付きを得たりする方も、きっといると思います。
私もそんな一人でして、心に残ったところに付箋を貼っていったら
付箋だらけになってしまいまったほどです。この本を読めて本当に良かったです。
最後に、この本を大プッシュしている
明文堂書店 富山新庄経堂店 文芸書担当 野口さんからのコメントをご紹介します。
ノンフィクションという形で、久しぶりに出会えた西加奈子さんの新刊。
正直でウソのない言葉の数々に、自分の人生を生きる覚悟と、希望を感じます。
今、困難な状況にいても、「大丈夫やで」と、寄り添ってくれるような本です。
関西弁を、ほぼ共通語にしてしまう西さんのユーモアセンスもサイコーです!
今日ご紹介した西加奈子さんの『くもをさがす』は、
富山県内の明文堂書店全店の「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にありますので、
ぜひチェックしてみてくださいね。
◎明文堂書店のサイトは コチラ
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