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『ゴリラ裁判の日』

2023年4月5日

動物園に行った時に「動物と会話ができたらいいのに」と思ったことはありませんか。
ペットを飼っている方の中には「言葉は喋れなくても、もう通じ合っている」
という方もいるかもしれませんね。

でも、もし本当に喋れたらどうでしょう?

今日ご紹介する小説は、人間に匹敵する知能を持ち、
言葉を理解し「会話」もできる「ゴリラ」のお話です。

『ゴリラ裁判の日』
須藤古都離(すどう・ことり)
講談社

この作品は、明文堂書店 富山新庄経堂店 文芸書担当 野口さんのオススメ本です。
「一気読みしちゃいますよ〜!」と言われ読んでみたのですが、
確かに面白くて一気に読んでしまいました。

須藤さんは、この作品でメフィスト賞を受賞したのを機に、作家デビューされました。
ちなみに、メフィスト賞とは講談社の文芸誌『メフィスト』の編集者が選ぶ賞で、
ジャンルは問わず、編集者が「面白い!」と思えば受賞が決まるのだとか。

2019年には、映画化もされた砥上裕將(とがみ・ひろまさ)さん
『線は、僕を描く』が選ばれました。

◎『線は、僕を描く』の田島の紹介は コチラ

***

さて、この物語はタイトル通り、「ゴリラが裁判をするお話」です。

カメルーンで生まれたゴリラの「ローズ」は、手話を使って、人間と会話ができます。
ローズはジャングルで生活をしながらも
ゴリラの研究者から教育を受けたことで、喋れるようになります。
その後、アメリカの動物園で暮らすようになり、
そこで出会ったゴリラと夫婦となるのですが、
ある日、その夫のゴリラが銃で殺されてしまいます。
動物園のゴリラのいるエリアに、柵を越えて落ちてしまった子どもを助けるために。

夫が殺されたことをどうしても許せないローズは、
なんと動物園を相手に訴訟を起こします。

***

この物語は、2016年にアメリカで実際に起こった
「ハランベ事件」がモチーフになっているのだとか。
動物園でゴリラエリアに落ちた男の子を助けるためにゴリラが射殺された事件で、
実弾を使ったことや母親の責任をめぐって、激しい議論が巻き起こったそうです。
ちなみに、現実の世界ではゴリラ側は動物園を訴えてはいません。

物語の世界では言葉を操れるゴリラのローズが訴えますが、
本を読んでいない方からすると、ゴリラが裁判をするなんてイメージしづらいですよね。
でも、彼女は喋れるだけでなく聡明で、まるで人間の女性のようなのです。
本を読みながら文字だけを追っていると、
ゴリラであることを忘れてしまいそうになるほどです。

最初、私は裁判の陪審員側の気持ちでいましたが、
途中からは、ローズ側の気持ちになっていました。つまり、ゴリラの気分でした。
ゴリラ側から見ると人間の世界が違った印象に変わります。
ひとことで言うなら「理不尽な世界」です。

そして、ローズの孤独に気付きました。
ゴリラからも人間からも異なる存在であるローズの孤独を思うと、胸が痛くなりました。

でも、同時にローズの強さも知りました。
ローズは相手を思いやることもできるし、間違ったら素直に謝れるのです。
人間だってなかなかできないのに。

そういう意味では、ローズを通して色々と考えさせられた物語でもありました。
ゴリラが主人公ですが、全く違和感はありませんでした。
様々な生き方を認めようと動き始めている今の時代にこそ必要な物語だと思います。

それから、『ゴリラ裁判の日』は裁判から始まるのですが、
後半、予想を覆す意外な展開が待っています。
思わず「は?」と声に出てしまったほど驚きました。
いやあ、面白かった〜!

最後に、この本を大プッシュしている
明文堂書店 富山新庄経堂店 文芸書担当 野口さんからのコメントをご紹介します。

初めから終わりまで、頭の中を映像が駆け巡り、
正義の意味を自分に問いながら読みました。
強くて、優しくて、美しいローズは、私の憧れです。
メフィスト賞の凄さを味わってください!!

ちなみに、昨日、富山新庄経堂店に行ったところ、
この作品は文芸書ランキングで第2位でした。

今日ご紹介した『ゴリラ裁判の日』は、
富山県内の明文堂書店全店「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にありますので、
ぜひチェックしてみてくださいね。

◎明文堂書店のサイトは コチラ

yukikotajima 11:45 am