『フリースタイル言語学』
2022年8月31日
私の名前は「たじまゆきこ」ですが、
もし「たしまゆきこ」だったらだいぶ印象が変わりませんか。
「たしま」と濁音がなくなることで、
なんとなく優しくおとなしい印象になるような気がします。
同じように、もし「ガンダム」が「カンタム」だったら、
「ゴジラ」が「コシラ」だったら、どんな印象でしょう。
一気に弱く小さいイメージになりませんか。
日本語では「濁音=大きい」という印象がありませんか。
これ、実際、統計的に実証されたそうなのです。
それも、ポケモンの名前の調査からわかったのですって。
ポケモンは進化するとサイズが大きくなり名前も変わっていくのですが、
進化後の名前には濁音が入っていることが多いのだとか。
たとえば「イワーク」は「ハガネール」に進化するそうです。
今日ご紹介する本は、そんなポケモンの名前の研究でも知られる
言語学者の川原繁人(かわはら・しげと)さんの
『フリースタイル言語学 【大和(だいわ)書房】』です。
大変面白く勉強になった一冊でした!
著者の川原さんは、専門は「言語学」で、
その中でも特に音に関する「音声学」を研究しているそうです。
「言語学」と聞くと難しそうですが、
この本は「エッセイ風」になっていますので
川原さんのお喋りを聞いている感覚で気軽に読むことができます。
例えば、さきほどのポケモンの名前のほか、
日本語のラップ、メイド喫茶のメイドの名前の研究などが紹介されています。
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日本語ラップに関しては、
川原さんはテレビのラップバトル番組で審査員をした経験もあるそうですよ。
ラップと言うと韻を踏みますが、
上手いラップは、口のどの辺を使って発音するかが一致している、美しい韻なのだとか。
たとえば「けっとばせ」と「ゲットマネー」。
これ、実際に声に出してみてください。
口の動きがまるで一緒です。
「ば」と「ま」ではともに唇が閉じていますしね。
つまり、日本語ラッパーたちは、適当に言葉を選んでいるのではなく、
音声学的にも理にかなった方法で韻を踏んでいるのですって。
この意識を持って日本語ラップを聞いてみてください。とても面白いので。
また、自分自身、声に出してみると、さらに楽しめます。
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他には、予測可能な言葉はちゃんと言わなくてもわかるそうです。
たとえば、ラーメン屋さんに入った時、
店員さんから「っしゃしゃせー」と言われても
「いらっしゃいませ」だと認識できますよね?
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あと、私が「へえ〜!」と思ったのは、
なぜ「ハ行」の音は、オノマトペになると「パ行」に変身するというエピソード。
ひよこは「ピヨピヨ」だし、光は「ピカピカ」光ります。
今の「ハ行」は昔の日本語では「パ行」だったからなんですって。
向井は、ひよこは「ぴよこ」だし、卑弥呼は「ぴみこ」だったわけですよ。
どうです?面白くないですか?
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という感じで、様々な角度から「言語学」を学ぶことができます。
川原さんもおっしゃっていますが、この本はぜひ「声に出して」読んでみてください。
きっと楽しいと思います。
本の見た目はチャラそう…いえ、カジュアルな雰囲気ですが(笑)、
中身はしっかりとした言語学の本です。
でも、決して難しくありませんので、「日本語」を様々な角度から学びたい方はぜひ。