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『夜に星を放つ』

2022年8月3日

先月20日に、第167回芥川賞、直木賞の選考会が開かれ、
芥川賞高瀬隼子さんの『おいしいごはんが食べられますように』に、
直木賞窪美澄さんの『夜に星を放つ』に決まりました。

受賞作が決まってすぐに書店に行ってみたものの、もちろん無く、
先日やっと買うことができました。

芥川賞は1935年の賞創設以来初めて候補者が全員女性だったこともあって、
高瀬さんの作品が取り上げられることが多いようですが、
私は直木賞受賞作の窪さんの作品をご紹介します。

『夜に星を放つ/窪美澄(文藝春秋)』

窪美澄(くぼ・みすみ)さんは、1965年に東京でお生まれになりました。
2009 年『ミクマリ』で女による女のための R-18 文学賞大賞を受賞。
受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』は山本周五郎賞を受賞し、
映画化もされました。
そして、今回3回目のノミネートで直木賞を受賞されました。

受賞作の『夜に星を放つ』は、5つのお話が収録された短編集です。

星と言えば、毎年お盆の頃はペルセウス座流星群の時期ですよね。
今年は12日(金)の夜に活動のピークを迎えるようです。

この本の中にもペルセウス座流星群の話題が出てきます。
そのほか、どのお話にも「星」が登場します。

ですから、本を読んだ後は思わず夜空を見上げたくなります。
もう会えない大切な人のことを思いながら。

5つのお話の主人公たちも、かけがえのない人間関係を失っています。

最初の「真夜中のアボカド」というお話は、
コロナ禍でずっと家にいる生活に疲れを感じていた時に、
朝食で食べたアボカドの種を育てることにしたアラサー女性の物語です。

彼女は30歳を前に双子の妹が亡くなったあと、婚活アプリにはまります。
そこで出会った男性との関係や、妹の彼氏との交流などが、
アボカドの成長と共に描かれています。

彼女は妹の恋人と妹の月命日に会っているのですが、
その理由は、彼が妹を亡くした辛さを共有できる唯一の人だからです。
彼とどうでもいい話をすることで、なんとか自分自身を保っているのです。

そんな中、彼女は婚活アプリで出会った男性に恋をします。
しかし彼の対応はどこか素っ気なく…。

他には、夏休みに祖母の住む田舎で過ごす男子高校生、
事故で亡くなった母親の幽霊と暮らす女子中学生、
父の再婚相手との距離がなかなか縮まらない小学生の男の子のお話や、
妻と娘が家を出て行ってしまった男性が
マンションの隣に引っ越してきた
シングルマザーとその子どもと交流するお話もあります。

皆それぞれ、かけがえのない人間関係を失ってしまった人たちです。
でも傷ついて終わりではなく、また別の人と繋がっていきます。

様々な人との繋がりの中で彼らがどう変わっていくのかは、
本のページをめくってお確かめください。

どれもいいお話だったので、じっくり読みたいと思い、
今回はいつもよりも遅めのスピードで読みました。
だからより心に沁みたのかな。何度も涙がこぼれました。いい涙がつうっと。

窪さんは、コロナ禍を経て、せめて小説の中では心が明るくなるものを書きたいと、
この短編集『夜に星を放つ』を書かれたそうです。

読んだ後は、まさに私の心の中に輝く星が放たれたかのように、
明るい気持ちになれました。

ほんっといい読書時間でした!

yukikotajima 12:16 pm