『宙ごはん』
2022年6月29日
北陸地方も昨日梅雨明けし、今日も厳しい暑さになっています。
暑い日が続いていることで食欲がなくなってきている。
そういえば、冷たい飲み物やアイスしか食べていないかも。
そのせいか全然元気が出ない…なんて方はいませんか。
あなたは、ちゃんと温かい料理を召し上がっていますか。
「思いがこもった料理は、ひとを生かしてくれる」そうですよ。
今日ご紹介する本は、町田そのこさんの『宙ごはん(小学館)』です。
とてもいい本でした。大好きです!いい涙を何度も流しました。
一度泣いたらスイッチが入ってしまったようで、
途中からは涙をぼろぼろと流し続け、
ぐずぐずになりながら本のページをめくっていったほどです。
著者の町田そのこさんと言えば、
『52ヘルツのクジラたち(中央公論新社)』が
去年の本屋大賞を受賞しました。
こちらも大変いい作品なので、まだ読んでいない方はぜひ。
◎私の本の感想は コチラ
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『宙ごはん』には、5つのお話が収録されていて
それぞれタイトルがついているのですが、まるでメニューのようです。
たとえば、第1話は「ふわふわパンケーキのイチゴジャム添え」
第2話は「かつおとこんぶが香るほこほこにゅうめん」です。
タイトルを見るだけでもお腹が空いてきます。
そして本を読んだ後は、美味しく楽しい食事をとったあとのような気持ちになります。
さすがにお腹は満たされないけれど(笑)、心が満たされます。
主人公は、本のタイトルにもなっている女性の宙(そら)です。
まずは6歳の宙ちゃんの物語から始まります。
宙には、育ててくれている『ママ』と、産んでくれた『お母さん』がいます。
宙にとって二人の母親がいるのは「さいこーにしあわせ」なことでした。
しかし、宙が小学校に上がるとき、
ママは夫の海外赴任に同行することになり、
宙は産みの母である『お母さん』の「カノさん」と暮らし始めます。
イラストレーターとして活躍し、大人らしくないところが
魅力的なカノさんとの暮らしを楽しみにしていた宙でしたが、
カノさんは、ごはんも作らず子どもの世話もしない母親だったのです。
代わりに宙のごはんを作ってくれたのが、
カノの中学時代の後輩の男性、佐伯でした。
商店街のビストロで働く佐伯は、毎日のごはんを用意してくれるだけでなく
話し相手にもなってくれるなど、宙にとって大切な存在でした。
ある日、カノへの不満をためた宙は家を飛び出し、佐伯のビストロへ向かいます。
そこで彼はパンケーキを作ってくれ、レシピまで教えてくれます。
その日から、宙は佐伯から様々な料理を教わり、レシピをノートに書くようになります。
その後、宙は小学生に、その後も中学生、高校生と成長していき、
その間ずっと、宙はカノさんと暮らし、佐伯を頼り続けます。
ふつうの家とは異なる母との暮らし、
ちょっと気まずい女子の友達との関係、
初めての恋人との日々など、
様々な人とのやりとりの中で、宙は人として少しずつ成長していきます。
本屋大賞を受賞した『52ヘルツのクジラたち』は
正直、辛いなと感じる描写もあったものの、読後感は決して悪くなく
それどころか心が軽くなっていたのですが、
この『宙ごはん』も同じでした。
『宙ごはん』にも、辛い出来事に遭遇する人たちが出てきます。
辛い苦しみから抜け出すにはどうすればいいのか。
今まさに苦しみを抱えている方は、
この本を読むことで、少し心が楽になるかもしれません。
本の帯に「救いと再生の物語」とあります。
また、「きっと、この物語はあなたの人生を支えてくれる」とも。
『宙ごはん』は、もがきながらも前に進む人たちの温かな希望の物語です。
読んだ後は、きっと心が満たされるはずです。ほんとーーにいい作品でした。
また、この作品は登場人物たちのセリフも魅力的です。
心に響く言葉が多いのです。
たとえば、イラストレーターのカノさんは
あることから絵が描けなくなってしまうのですが、
ある日突然再び筆を握ります。
それついて、家政婦の女性は「カノさんは心を貯めていたんでしょう」と言います。
心のダムが空っぽになっちゃったから、時間をかけえてもう一度貯めたと。
この「心を貯める」という表現、いいなあと思いました。
あなたの心のダムには今どれくらい水が入っているでしょうか。
ほかにも印象に残ったのはこちら。
「年を重ねてようが、どんな経験をしようが、
狭いフィルター越しにしか世界を見ないひとはいる。
むしろ年を重ねることで歪んでいくこともある」
年を重ねた大人の皆さんは大丈夫ですか。
と同時に「ひとは変化して成長していく」という言葉も心に残りました。
心に響いた言葉に付箋を貼っていったら付箋だらけになってしまったほどです。
『宙ごはん』は、ストーリーも面白い上に心に残る表現も多い素敵な作品でした。
それから、初版限定特典としてカバーの裏に「掌編小説」がありますので、お忘れなく。
この作品がまた泣けるんです。(涙)
って、畳みかけるように本について熱く語ってしまい失礼しました!(笑)