『八月の母』
2022年5月4日
今度の日曜は母の日ですね。
お母さんへ日頃の感謝を込めてプレゼントを送ったり
一緒にご飯を食べたりする予定の方もいるでしょうか。
いい日になりますように。
その一方で、母の日と聞くと複雑な気持ちになる方もいるかもしれません。
お母さんだからと言って全員がいい人とは限らないですからね。
今日ご紹介する本にも母親たちが出てきますが、
子どもに惜しみなく愛情を注ぐようなお母さんたちではありません。
『八月の母/早見和真(株式会社KADOKAWA)』
早見さんと言うと、以前ラジオで『店長がバカすぎて』をご紹介しました。
◎田島の本紹介は コチラ
こちらはタイトル通り、バカな店長に振り回される女性店員の物語で
書店が舞台になっています。
タイトルはインパクトがありますが、とても面白い一冊でした。
今回の早見さんの新作『八月の母』は、
『店長がバカすぎて』とはタイプが異なります。
ですが、どちらの作品も読んだ後にそれぞれ光を感じました。
『八月の母』は、「母性」「親子愛」「家族愛」「人間の業」を描いた長編小説で、
物語の舞台は愛媛県伊予市です。
早見さんは、実際愛媛に引っ越して、この作品を執筆されたのだとか。
物語はプロローグ、第一部、第二部、エピローグにわかれています。
プロローグでは、ある女性が子どもを出産した日のことを思い出しています。
そして、自分はどのようにして、この世に生まれたのか、ふと考えます。
第一部は、1977年から始まります。
小学生の美智子は、学校では明るい女の子でしたが、
偉そうな父、そんな父に加勢する祖母、そして感情の無い母との暮らしは、
決してハッピーなものではありませんでした。
ある日、家を出て行くと言った母に美智子はついていくことにします。
そして、母との暮らしが始まるのですが、
ある時から美智子はお金を貯めて愛媛を離れ東京で生きていくことを目標にします。
つまり、ここを出たいと強く思うような生活を送っていたのでした。
次の物語は、美智子の娘エリカの物語です。
エリカがどんな女性に成長していったのかが
学校の先生や同級生の男子、恋人の視点で描かれます。
ちなみに、これまでの経験からエリカは、
「男性という生き物に期待していない」
「願いなんてどうせ叶わない」と期待することを放棄しています。
第二部は、2012年の愛媛県伊予市の団地が舞台です。
エリカの息子の恋人「紘子」の視点で、
団地の様子や母になったエリカについて描かれます。
紘子は「紘子もうちの子。ママと呼んで」と呼ぶエリカのことが大好きでした。
家に居場所が無かった紘子は、居心地のいい団地に入り浸るようになります。
エリカは、「私は子どもたちに自由に生きてもらいたい。
自分が親からもらえなかったものをあの子たちに与えてあげたい」
と自分の子どもだけでなく他の子どもたちも受け入れます。
そして、団地は紘子の他にも様々な若者たちが出入りする場所になっていき…。
ここから先はぜひ本を読んで頂きたいのですが、
正直なことを言うと、私は読むのが苦しかったです。
でも、そんな気持ちに反して最後までやめることはできませんでした。
この物語がどこに着地するのか気になってしまいまして。
皆さんも途中でやめたりせず、ぜひ最後のエピローグまでしっかり読んでくださいね。
最初にも言いましたが、読後に私は光を感じました。
それがどんな光なのかは、ぜひ本のページをめくりながら感じてください。
もうどうしようもない。諦めるしかない。と思っていることがある方は、
こんな選択もあるのかと、ハッとさせられるのではないかしら。
もうすぐ母の日です。
母親と言ってもひとりの人間です。
ある登場人物がこう言います。
「母親ということに過度な期待をしたらいかん」
お母さんも一人の人間なんですよね。
母って、母性って、家族って何なのでしょうね。
母の日を前にこの本を読んで考えてみませんか。
圧倒的な熱量を感じた一冊でした。