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『ハケンアニメ!』『レジェンドアニメ!』

2022年5月25日

今日は、現在上映中の映画『ハケンアニメ!』と、
その原作とスピンオフ小説をご紹介します。

映画『ハケンアニメ!』は、辻村深月さんの大人気小説を映画化したもので、
5月20日(金)に公開されました。

原作は、2015年にラジオでご紹介しています。

◎詳しくは コチラ

アニメ業界の舞台裏を描いたお仕事小説で、
監督、プロデューサー、声優、アニメーターなど、
アニメ制作にかかわる人たちが登場します。

『ハケンアニメ!』の「ハケン」は、「派遣」ではなく「覇権」のことです。
同じ時期に放送されたアニメの中で頂点を取るという意味です。

小説は、監督、プロデューサー、アニメーター3人の視点で進んでいきます。
ちなみに全員女性です。

映画では、監督を吉岡里帆さん、プロデューサーを尾野真千子さん、
アニメーターを小野花梨さんが演じています。

簡単に映画のストーリーをご紹介しましょう。

連続アニメで監督デビューが決定した吉岡さん演じる新人監督の斎藤瞳は、
日本中に最高のアニメを届けたい!と意気込んでいます。
しかし、柄本佑さん演じるプロデューサーはビジネス最優先だし、
周りのスタッフたちからは否定されてばかりで、なかなか思い通りに進んでいきません。

そんな斎藤監督のライバルは、天才、王子監督です。中村倫也さんが演じています。

この王子監督のプロデューサーが、尾野真千子さん演じる有科さんです。
彼女は超ワガママな王子監督に振り回されています。

そしてもう一人、巻き込まれてしまうのが、小野花梨さん演じるアニメーターです。

映画は、斎藤監督と有科さんを中心に
2つのアニメのどちらが頂点を取るのかが描かれていきます。

原作が良かったので映画も楽しみにしていましたが、映画も大変面白かったです。
原作とは少し異なるところもありますが、その変更含め良かった!

また、アニメ業界を描いているものの
基本は熱い思いで働く人たちのお仕事ムービーですので、
私のようにアニメに詳しくない方でも楽しめます。

映画が面白かったので、7年ぶりに再度、原作を読み直したのですが、
映画の登場人物のまま頭の中で映画の続編を楽しんでいる気分でした。

原作は小野花梨さん演じるアニメーターのお話が続いていきますので、
ぜひ映画を見た後にお読みください。

映画の先のお話もとってもいいんです。映画の続編で描いてくれないかしら。

さらに、今年3月に発売された『ハケンアニメ!』のスピンオフ小説集
『レジェンドアニメ!』もあわせてどうぞ。

こちらは、若かりし頃の有科さんや王子監督、
その後の斎藤監督など、6つのお話が収録されています。

私が好きなのは「ハケンじゃないアニメ」という作品。
今年30周年を迎える長寿アニメ「お江戸のニイ太」の現場が描かれています。
30周年を記念してアニメのオープニングをリニューアルすることになり、
ある有名監督に依頼するのですが、
その監督は「ニイ太」を子どもの頃、通ってきませんでした。
でも、素晴らしいオープニングを作ります。
いったいどのような作品を作ったのかは、ぜひ本を読んでお確かめください。

私はこの監督の考えに大いに共感しました。
仕事とは、まさにそういうことなんですよね!

大人の皆さんは昔を知らない若手に対して、
「どうせあいつにはわからない」と決めつけていませんか。

一方、若手の皆さんも「自分の生まれる前だから知らない」
と知ることを放棄していませんか。

それではいいモノは生まれません。

映画『ハケンアニメ!』の公式サイトを開くと
「好きを、つらぬけ。」という言葉がまず目に飛び込んできます。

もちろん、それも大事なことです。
でも、小説の「ハケンじゃないアニメ」には、もっと本質的な言葉が出てきます。
本のページをめくりながら、ぜひその言葉に出合っていただきたい!
仕事への取り組み方が変わると思います。

映画も小説も面白く、さらに学びや気付きがたくさんありました。いい時間でした。

ぜひ皆さんも原作、映画、そしてスピンオフ小説と3点セットで
思う存分「ハケンアニメ!」の世界を堪能してみてください。

そうそう、映画を見たら「エクレア」を食べたくなります。(笑)

yukikotajima 11:41 am

『ルームメイトと謎解きを』

2022年5月19日

今日の14:25頃からのgrace内コーナーシン・トヤマでは、
富山出身の今注目の若手作家、楠谷 佑(くすたに・たすく)さんをご紹介します。

楠谷さんにお電話をつないで、作品や執筆活動、出身地の富山について伺う予定です。

1998年に富山県で生まれた楠谷さんは、現在は埼玉県にお住まいです。
高校在学中に『無気力探偵〜面倒な事件、お断り〜』でデビュー。
軽妙な筆致、ユニークなキャラ造形、確かな構成力で、
書下ろし文庫で着々とファンを増やしていらっしゃいます。

そんな楠谷さんの新作『ルームメイトと謎解きを』
先月13日にポプラ社から発売されました。
楠谷さんにとって初の長編ミステリだそうです。

『ルームメイトと謎解きを』は、
全寮制の男子高で起きた不可解な殺人事件に
寮のルームメイトの二人が挑むという青春ミステリーです。

この二人というのは、雛太(ひなた)絵愛(えちか)で、
雛太の視点で物語が進んで行きます。

雛太は、158センチの身長で見た目もかわいく幼く見えることから
7歳から空手をしています。

絵愛は、180センチ以上の身長に目を引く顔立ちで、勉強もできます。
しかし、動物にしか心を開かず、
ハリネズミに「へっくん」という名前をつけ可愛がっています。

雛太がワトソン、絵愛がホームズといった感じです。

そんな二人が通う高校で殺人事件が起きてしまいます。
現場の状況から犯行が可能なのは寮の住人だけであることがわかります。
果たして犯人は誰なのか。
雛太と絵愛の二人でその謎に挑むという物語です。

私も本を読みながら犯人の予想をしましたが、見事に外しました。(笑)

本格的なミステリですが、爽やかな青春小説でもあって、
読んでいて楽しかったです。

最初はぎこちなかった雛太と絵愛の二人の距離が縮まっていく様がいいのです。
この二人のコンビが活躍する様子をもっともっと見てみたくなりました。
シリーズ化しないかな。

また、他の登場人物たちも個性派ぞろいなので、いずれドラマ化されそうな予感!

ぜひ皆さんも富山出身の若手作家、楠谷佑さんの初の長編ミステリ
『ルームメイトと謎解きを』を読んでみてください。

yukikotajima 11:44 am

『13歳からの地政学』

2022年5月18日

連日、ロシアのウクライナ侵攻関連のニュースが報じられています。
この軍事侵攻に関して、あなたははどれくらい理解できているでしょうか。

・そもそもの発端は。
・なぜロシアはウクライナを侵攻したのか。
・この状況はいつ終わるのか。
・どうしたら終わらせることができるのか。

子どもに聞かれたものの、うまく答えられなかったという親御さんもいるのでは。

この軍事侵攻は2つの国の問題だけでなく、
様々なモノの値段が上がるなど、
日本も含め世界的に様々な問題が起きています。

そんな中、今注目されている学問があります。

「地政学」です。

地政学とは、地形的条件がその国の政治や外交政策など
に及ぼす影響を研究する学問のことで、
最近は、どの書店でも「地政学」関連の本を目にするようになりました。

私は気になりつつも難しそうだなと思っていたのですが、
ある本をみつけて、これなら読めそうだと買ってみました。

『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海/田中孝幸(東洋経済新報社)』

著者の田中さんは国際政治記者で、新聞記者として20年以上のキャリアを積み、
世界40各国以上で政治経済から文化に至るまでを取材されたそうです。

この本は「13歳からの」のあるように
13歳が読んでもわかる内容になっています。

ですが、大人の皆さんにもオススメです。

『ハゲタカ』の著者、真山仁さんも

「大人にこそ読ませたい 未来を生き抜く必読書
戦争、平和、日本の行く末を知る羅針盤がここにある!」

と絶賛しています。

この本は、物語形式で進んでいきますので、
小説を読む感覚で「地政学」を学ぶことができます。

主な登場人物は3人。

・県内の進学校に通う高校一年生の大樹(だいき)
勉強は得意だけど、特にやりたいことはありません。

・妹の中学一年生の杏(あん)
勉強よりもおしゃれや流行のアイドルのほうが好きです。

・アンティークショップの年齢不詳の男「カイゾク」
左目に黒い革の眼帯を着けたその風貌から
近所の子どもたちから「カイゾク」と呼ばれています。

そのカイゾクの店のウィンドウにあった
アンティークの「地球儀」を兄妹で見ていたところ、
カイゾクに声をかけられ、こう提案されます。

「7日間ここに来て、わしの話を聞き、
最終日にわしの出す問題に答えられたら、
この地球儀をさしあげよう」

そこで、カイゾクによる7日間のレッスンが始まります。
初日は「海」に関するお話でした。

地球儀を見ると、青くて丸いことに気付きます。
青は海です。海は地球の7割を占めています。

世界中の貿易は9割以上が海を通っているそうです。
特に島国の日本は99%が船による貿易なんだとか。

また、世界の船の行き来を仕切っているのがアメリカで、
世界の貿易で使われる通貨の8割がドルなんですって。

つまりアメリカが世界で最も強いということです。

でも、日本も世界での存在感で言うと、大国の部類に入るそうですよ。
詳しくは、本を読んでみてね!

旬なところでは、NATOの説明もあります。

昨日、スウェーデンとフィンランドの北欧2ヵ国が
NATOへの加盟申請文書に署名し、
今日の午後にも申請書を提出する見通しですが、
皆さんはNATOのことは理解できていますか?

他にも

・経済成長って何?
・核ミサイルはどこにある?
・なぜ領土を求め続けるのか
・なぜ戦争を起こそうとするのか
・なぜ過去のことが蒸し返されるのか

と言った気になる話題が満載です。

この本では、こういった様々な世界の問題に対して、
カイゾクさんが、中学生と高校生の兄妹の疑問に答える形で
世界のしくみを説明しているので、とにかくわかりやすいのです。

カイゾクさんの話を興味深く聞いているうちに世界を知ることができます。
私はこの本を読んだ後に新聞を読んだところ、
いつもよりも文章が易しく感じられました。

この兄妹から気付かされることも多かったです。
妹の杏がカイゾクさんとの話の中で
「私の常識が世界の常識じゃない」と気付くのですが、
これ、世界どころか身近な人とのやり取りの中でも同じことが言えますよね。

自分の常識が他の人と同じかと言ったらそんなことは無いのですよね。

「ふつうは〇〇でしょ!」と口にしがちな方は、
ちょっと冷静に自分の思う「ふつう」について考えてみては。

もしかしたら知らぬ間に独りよがりになっていた…
なんてこともあるかもしれませんよ。

この本を読んで私は世界が近く感じられるようになりましたし、
もっともっと色々なことを知りたいと思いました。

アインシュタインは学びについてこんなことを言っています。

「学べば学ぶほど、自分がどれだけ無知であるか思い知らされる。
自分の無知に気づけば気づくほど、より一層学びたくなる」

そして、この本によると

「知識を増やすということは、だまされないように武装すること」

だそうです。

『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』は、
物語を読んでいるうちに世界のしくみを楽しく学べます。

一家に一冊いかがでしょう。

yukikotajima 12:13 pm

『生贄探し 暴走する脳』

2022年5月11日

GWが終わりましたね。皆さんはどんなGWをお過ごしでしたか。

私はGW中にたまった本の整理をしました。
中には買ったまま読んでいない本もありまして、
せっかくなので読んでみることにしました。

『生贄探し 暴走する脳/中野信子、ヤマザキマリ(講談社+α新書)』

脳科学者の中野さんと、漫画家・随筆家のヤマザキさんという
日頃から交流のあるご友人同士の対談がベースになっています。

約一年前に発売された本ですので、すでにお読みになった方もいるのでは。

私もだいぶ前に買ったのですが、かなりインパクトのあるタイトルゆえ
ラジオで紹介するタイミングをはかっていたところ、そのまま忘れました。(笑)
でも先日ふとこの本の帯を見た時に、紹介するなら今だ!と思ったのです。
というのも本の帯にこう書かれていたからです。

「あの人だけいい思いをするなんて許せない!」

今年は3年ぶりにGWらしいことをした方も多かったのでは。
その一方で、思い通りのGWにならなかった方もいることでしょう。
SNSにアップされる楽しそうな写真を見る度、
「うらやましいなあ」だけならまだしも、心に余裕がなくなると
「あの人だけいい思いをするなんて許せない!」
という負の感情が湧き上がってしまうことも、正直ありますよね。(苦笑)

まあ、そう思ったところで自分の心に留めている場合が多いと思いますが、
中には、気に入らない相手に対して攻撃してしまう人もいます。

コロナ禍では「自粛警察」が話題になりましたよね。

中野さんによると、自らを「正義」と思い込んでしまうと、
人間は、どんなに残虐なことでも心の痛みをあまり感じることなく
やれるようになってしまうそうです。
このとき脳は、自分のことを客観的に見る機能がオフになってしまうのだとか。
そして、脳の快感を覚える部位を刺激するドーパミンが出ているそうです。

つまり、自分は正しいと思って相手を攻撃している時は、
気持ちいいってことなんですよね。

中野さんは、コロナ禍はウイルス以上に
「正義中毒」のパンデミックが起きたとおっしゃいます。

また、私たち日本人は「世界でもいじわる行動が突出している」そうなのです。
それは有名なことわざからもわかります。

「出る杭は打たれる」

海外に似たようなことわざは無いそうです。

たしかにこのコロナ禍を振り返ると、
ウイルスも怖ったけれど「他人の目」も怖かったですよね。

そういう私こそ正義中毒になっていないか?
と自分自身を振り返ると、いや、思い当たることあるな…と反省。

私は正しい。
良かれと思って…。
という考えこそ、
正義中毒の始まりかもしれませんよー。

自分こそ正義と思っている人ほど、
正義の快さにあっという間に人格を乗っ取られてしまうそうです。

では、本当の正義とは?
自分と分かち合えない意見や思想とぶつかったら?
豊かで多様性のある生き方のためには何が必要なの?

これらの答えを知りたい方は、ぜひこの本を読んでみてください。

大変勉強になった一冊でした。
面白く読めただけでなく、反省もたくさんしました。
読んで良かった!というか、買ってすぐに読むべき本だったわ。

yukikotajima 10:03 am

『八月の母』

2022年5月4日

今度の日曜は母の日ですね。
お母さんへ日頃の感謝を込めてプレゼントを送ったり
一緒にご飯を食べたりする予定の方もいるでしょうか。
いい日になりますように。

その一方で、母の日と聞くと複雑な気持ちになる方もいるかもしれません。
お母さんだからと言って全員がいい人とは限らないですからね。

今日ご紹介する本にも母親たちが出てきますが、
子どもに惜しみなく愛情を注ぐようなお母さんたちではありません。

『八月の母/早見和真(株式会社KADOKAWA)』

早見さんと言うと、以前ラジオで『店長がバカすぎて』をご紹介しました。

◎田島の本紹介は コチラ

こちらはタイトル通り、バカな店長に振り回される女性店員の物語で
書店が舞台になっています。
タイトルはインパクトがありますが、とても面白い一冊でした。

今回の早見さんの新作『八月の母』は、
『店長がバカすぎて』とはタイプが異なります。
ですが、どちらの作品も読んだ後にそれぞれ光を感じました。

『八月の母』は、「母性」「親子愛」「家族愛」「人間の業」を描いた長編小説で、
物語の舞台は愛媛県伊予市です。
早見さんは、実際愛媛に引っ越して、この作品を執筆されたのだとか。

物語はプロローグ、第一部、第二部、エピローグにわかれています。

プロローグでは、ある女性が子どもを出産した日のことを思い出しています。
そして、自分はどのようにして、この世に生まれたのか、ふと考えます。

第一部は、1977年から始まります。
小学生の美智子は、学校では明るい女の子でしたが、
偉そうな父、そんな父に加勢する祖母、そして感情の無い母との暮らしは、
決してハッピーなものではありませんでした。

ある日、家を出て行くと言った母に美智子はついていくことにします。
そして、母との暮らしが始まるのですが、
ある時から美智子はお金を貯めて愛媛を離れ東京で生きていくことを目標にします。
つまり、ここを出たいと強く思うような生活を送っていたのでした。

次の物語は、美智子の娘エリカの物語です。
エリカがどんな女性に成長していったのかが
学校の先生や同級生の男子、恋人の視点で描かれます。

ちなみに、これまでの経験からエリカは、
「男性という生き物に期待していない」
「願いなんてどうせ叶わない」と期待することを放棄しています。

第二部は、2012年の愛媛県伊予市の団地が舞台です。
エリカの息子の恋人「紘子」の視点で、
団地の様子や母になったエリカについて描かれます。

紘子は「紘子もうちの子。ママと呼んで」と呼ぶエリカのことが大好きでした。
家に居場所が無かった紘子は、居心地のいい団地に入り浸るようになります。

エリカは、「私は子どもたちに自由に生きてもらいたい。
自分が親からもらえなかったものをあの子たちに与えてあげたい」
と自分の子どもだけでなく他の子どもたちも受け入れます。

そして、団地は紘子の他にも様々な若者たちが出入りする場所になっていき…。

ここから先はぜひ本を読んで頂きたいのですが、
正直なことを言うと、私は読むのが苦しかったです。
でも、そんな気持ちに反して最後までやめることはできませんでした。
この物語がどこに着地するのか気になってしまいまして。
皆さんも途中でやめたりせず、ぜひ最後のエピローグまでしっかり読んでくださいね。

最初にも言いましたが、読後に私は光を感じました。
それがどんな光なのかは、ぜひ本のページをめくりながら感じてください。

もうどうしようもない。諦めるしかない。と思っていることがある方は、
こんな選択もあるのかと、ハッとさせられるのではないかしら。

もうすぐ母の日です。
母親と言ってもひとりの人間です。
ある登場人物がこう言います。

「母親ということに過度な期待をしたらいかん」

お母さんも一人の人間なんですよね。
母って、母性って、家族って何なのでしょうね。
母の日を前にこの本を読んで考えてみませんか。

圧倒的な熱量を感じた一冊でした。

yukikotajima 12:28 pm