『タラント』
2022年3月30日
まもなく新年度ですね。
この春から大学生で一人暮らしが始まる方もいることでしょう。
今どんな気持ちですか。
不安を感じつつもこれからの日々への期待が大きいでしょうか。
大人の皆さんは、当時どんな気持ちでしたか。
私はフワフワしていました。
初めての一人暮らしも、東京での大学生活も、アルバイトも。
大学卒業後どこでどんな人生を送っていくのか、
全く想像もできなかったからこそ、ふわふわしていたように思います。
では今はどうかというと、当時ほどではありませんが時々感じます。(笑)
たとえば、同世代の友人の活躍を知った時などは、
おめでとう!と思うと同時に私は何も成し遂げていないなあと焦りを感じたり、
私の人生これでいいのかなと思ってしまったりして、
大学生の時のようなふわふわとした気持ちになります。
あなたにもありませんか。
今日ご紹介する本の主人公の女性も
他の友人たちと比べると自分は何もできていないと思っています。
というか、彼女の場合すでにあきらめてしまっているのですが。
『タラント/角田光代(中央公論新社)』
主人公は、まもなく40歳になる「みのり」です。
香川出身で大学進学とともに上京します。
物語は2019年から始まり、
大学に入学した1999年、社会人時代の2000年代、
そしてコロナ禍が始まった2020年までが、
時代を行ったり来たりしながら進んでいきます。
まもなく40歳という2019年のみのりは、結婚し東京の洋菓子店で働いています。
仕事は真面目にしているものの、向上心はまったくなく、
それには何か理由がありそうなことが伺えます。
一方、大学に進学したばかりの1999年のみのりは、
つまらなくて退屈な自分こそ世の中の役に立つようなサークルに入って
自分を鍛えるべきだと思い、ボランティアサークル入ります。
そして、国内外での活動を経て世界が開いていく感覚を味わったみのりは、
私にもできることがあったと気付き、
社会人になってからも海外でのボランティア活動を続けていきます。
でも、ある日、正義感からある過ちを犯してしまい、
何に対してもやる気をなくしてしまいます。
しかし、戦争で左足を失った90代の祖父のもとに
若い女性から手紙が届いたことをきっかけに、みのりの心に変化が生じます。
みのりは送り主の女性が誰なのか、中学2年生の甥と調べることします。
ちなみに、この甥もある理由から学校に行っていません。
女性のことを調べるうちに、祖父の過去も明らかになっていきます。
と同時に、みのり自身も変わっていきます。
祖父の過去とは。
なぜ甥は学校に行けなくなったのか。
そして、人生をあきらめたみのりはどう変わっていくのか。
この続きは、ぜひ本のページをめくってみてください。
まもなく新年度ですが、はじまりの季節にぴったりの一冊です。
このままではいけないと思いながらも
どう一歩を踏み出せばいいのかわからない人は、
この本を読むことから始めてみてはいかがでしょう。
きっと欲しかった言葉と出合えるのではないかしら。
***
また、この作品は、ただ文字を追って物語を頭の中に浮かべるだけでなく、
自分だったらどう思うんだろう?何が正解なんだろう?
と、ずっと考え続けた小説でもありました。
ボランティア活動について、戦争について、正義感について、
そして私の場合ラジオについても考えさせられました。
そう、ラジオの話題も出てきます。
ハッとさせられることも多く、
物語としての面白さはもちろん、
気付きや学びも多い一冊でした。
たとえばどういうこと?って思いましたよね。
本当は事細かに伝えたいのですが、
ぜひ本を読みながらハッとしていただきたいので、あえて言いません。
ネタバレせずにこの本の魅力を紹介するのは本当に難しい〜。
この私の紹介では全然物足りなさを感じますもの。ああ、もどかしい。
とにかく素晴らしい作品でしたので、ぜひ読んでください。(笑)
そうそう!富山の話題もちょこっと出てきます。
富山出身者が言いそうなセリフがありまして、思わず笑ってしまいました。