『黛家の兄弟』
2022年2月16日
17歳の頃と30歳の頃のご自身を比べると、どう変わりましたか?
10代の後半から30代前半は、人生の中でも変化が大きい時期ですよね。
私の場合は、群馬の高校から東京の大学へ進学し、
卒業後はFMとやまで局アナを10年つとめ、
フリーランスとして活動し始めたのが30代の前半です。
人によっては結婚、出産をする時期でもありますよね。
となりますと、色々な経験を経て、考え方が大きく変わる方もいるかもしれません。
私も17〜30歳は失敗も多く落ち込むことも多かったけれど、
様々なことを学んだ日々でもありました。
あなたはいかがでしょうか。
今日ご紹介する小説は、ひとりの武士の17歳の頃と30歳の頃が描かれた成長物語です。
『黛家(まゆずみけ)の兄弟/砂原浩太朗(講談社)』
著者の砂原さんは、ラジオでもご紹介した小説、
『高瀬庄左衛門御留書』が去年1月の直木賞の候補になりました。
◎私の本の紹介は コチラ
架空の藩「神山藩」で郡方を務める高瀬庄左衛門が主人公の物語で、
控えめながらも美しい文章が印象的な作品でした。
新作の『黛家の兄弟』は、「神山藩シリーズ」の第2弾です。
とはいえ、それぞれ主人公も年代も違っていて続き物ではありませんので、
第1弾を読んでいなくても問題なく楽しめます。
今回の主人公は、17歳の若い武士です。
本のタイトルにもなっている黛家は、神山藩で代々筆頭家老を務めています。
主人公は、黛家の三男の新三郎(しんざぶろう)です。
彼には2人の兄がいます。
長男の栄之丞(えいのじょう)は、すらりとしていてかっこいいものの、
ちょっと冷たい印象もあります。
次男の壮十郎(そうじゅうろう)は、喧嘩っ早く、自由な遊び人です。
そして、三男の新三郎は、道場仲間の圭蔵と穏やかな日々を過ごしています。
17歳の進三郎は人を好きになることもよくわからずにいるほど純朴でした。
ですが、そんな新三郎のもとに結婚の話がきます。
相手は子どもの頃から知る2つ年上の美女「りく」です。
進三郎は彼女のことを整いすぎていて苦手意識を持っています。
また、実はりくは長男の栄之丞のことが好きなのではないかと、ひそかに思っています。
ですが、りくの父親の所望ということもあり、大目付を務める黒沢家に婿入りします。
と同時に圭蔵も側仕えとして黒沢家に入ることになります。
すぐ上の兄からは「おまえは苦労知らずだから、大目付などつとまるのか」
と言われてしまうものの、進三郎は真面目に仕事に取り組みます。
そんなある日、大事件が起き、
神山藩で代々筆頭家老を務めていた黛家から、
次席家老の漆原へと筆頭家老の座が変わってしまいます。
進三郎は、理不尽な顛末に悔しさを感じつつも何もできず、
そんな自分自身を「未熟は悪でござる」と責めます。
そして、13年後。
30歳になった進三郎の物語が始まります。
この2部がすごい!驚きの連続でした。
ぜひ本のページをめくりながら驚いてほしいので詳しい感想を言うのを控えますが、
私だったら人間不信におちいりそうです。(笑)
でも、純朴だった新三郎はすっかり成長して、
ただまっすぐなだけの若者ではなくなっています。
心身共に強くなります。お酒もの飲めるようになるりますしね!
お酒と言えば、進三郎が好んで飲んでいる「天之河」というお酒があるのですが、
これがとても美味しそうで飲んでみたくなりました。
ちなみに前作『高瀬庄左衛門御留書』には、
美味しそうなお蕎麦が出てきまして、お蕎麦が食べたくなりました。(笑)
前作の時にも思いましたが、砂原さんの文章は私も登場人物たちと
同じものを見たり感じたりしているかのような気分になるのです。
そして、美しく品のある文章なので、読んでいるだけで心が整っていくかのようです。
また、読みやすいのも大きな特徴です。
時代小説は読みづらそうだから苦手と言う方でも
砂原さんの文章はすうっと頭に入ってきますので、きっと楽しめると思います。
それからミステリ好きの方もぜひ。
私も読みながら心の中で「えー!!!」と何度叫んだことか。
『黛家の兄弟』は、読書の様々な面白さがぎゅうっとつまった一冊でした。
面白かった!
そうそう、この「神山藩」シリーズは今後も続いていくそうですよー。
次作は来年発売予定だそうです。