『パラソルでパラシュート』
2022年1月26日
先週の水曜日、芥川賞・直木賞の受賞作が発表され、
ユキコレでは受賞作の米澤穂信さんの『黒牢城』をご紹介しました。
◎『黒牢城』の紹介は コチラ
その翌日には、本屋大賞のノミネート作品が発表されました。
◎本屋大賞のサイトは コチラ
本屋大賞は、全国の書店員の投票だけで選ばれる賞で、
これまで大賞受賞作は映画化されることも多く、
おととしの本屋大賞の凪良ゆうさんの『流浪の月』は、
映画化され今年5月に公開されます。
今年はどの作品が選ばれるのでしょうか。
ちなみに、ノミネートされた10作品はすべて読めますので、
ぜひ皆さんも読んで予想してみてはいかがでしょう。
また、いいなと思えた作家さんとの出会いがあったら
その作家さんの他の作品を読んでみるのもいいと思います。
私は、ノミネート作の中ですと、
本を読んだ直後に、この本は本屋大賞に選ばれそうだと
予想していた本があります。(笑)
それは、一穂ミチさんの『スモールワールズ(講談社)』です。
◎私の本紹介は コチラ
『スモールワールズ』は、6つのお話が収録された短編集です。
それも、思い通りにいかない人生を送っている人たちの物語です。
短編なのだけど空気感ががらりと変わる瞬間があって、
さらりと読めてしまうのにドキリとさせられるタイプの短編集で、
とても面白く読めました。
まだお読みではない方は、ぜひお読みになってみてください。
今日ご紹介するのは、その一穂さんの新作です。
『パラソルでパラシュート(講談社)』
今回は長編小説です。
ただ今回の登場人物たちも思い通りにいかない人生を送っています。
私はこれをやりたい!という夢を持っていて、
その夢に向かって頑張る人の物語はよくありますが、
この物語は、やりたいことも、できることもない29歳の女性の物語です。
大阪の一流企業の受付で契約社員として働く美雨(みう)は、
29歳になり、この仕事もあと一年だなと思っています。
でも、その後やりたいこともなく、どうしていいのかわからずにいます。
ある日、売れないお笑い芸人の亨(とおる)に出会い、
芸人の皆さんと交流が始まります。
そして、退屈だった日々に変化が生じ…という物語です。
前作の『スモールワールズ』は、本ならではの楽しさがありましたが、
今作は、映像で見たいと思いました。
映画で見たら、きっと素敵な作品になるんじゃないかなと思っていたら、
まるで映画の予告編のようなPVを発見!
このままぜひ映画化してほしいー。
***
みんながみんな、やりたいことがあるわけではないし、
夢をもっていても叶うわけでもありません。
そして、求めるのもの人それぞれです。
仕事が好きな人もいれば、仕事以外に人生の楽しみがある人もいます。
芸人さんが出てくるというと、
ハイテンションな物語?と思いそうですが、
そんなことはなく、いい意味で普通の人たちの物語でした。
私がいいなと思ったのは、美雨の女性の先輩の生き方です。
年を重ねた今も受付の仕事をしていることで、
ひどいことを言われることもあるのですが、
先輩は傷ついていないと言います。
そして、働かなければ好きなものに囲まれることもできないし、
私は私を救ってくれるものを守れたら他はどうでもいいと。
先輩、かっこいい!!!
私を救ってくれるものを持つって大事ですね。
趣味でも押し活でも好きな食べ物でも。
あなたはどうですか。あなたを救ってくれるものは何でしょう?
美雨のように、特にやりたいこともなければ、
自分にできることなんて無いかも、と思っている方は、
この本を読むことで何かヒントをもらえるかも。
ああ、ほんと、この作品、映画化してくれないかなー。
音とか間とか空気感とか、そういったものは絶対に映画に向いていると思うのよねえ。