『スモールワールズ』
2021年6月9日
今朝、家族とちょっとしたもめごとがあって、
それが心にひっかかっていて、なんか今日はうまくいかない。
でも、そんな心のうちは誰にも見せずに、
とりあえずいつもと同じふうを装っている。
なんて方はいませんか?
家族のことを考えると、ため息をつきたくなる、
という方もいるかもしれませんが、
きっとどの家族にも何かしら問題があったり
秘密があったりするものなのですよね。
外からは幸せそうに見えても実際は違っていたり、
その逆の場合もあります。
今日ご紹介する小説は、6つの家族の物語です。
『スモールワールズ/一穂ミチ(いちほ・みち)【講談社】』
この本は今、全国の書店員さんたちの間で話題になっているそうです。
4月に今年の本屋大賞が発表されたばかりですが、
(今年の本屋大賞は、町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』でした)
早くも来年は『スモールワールズ』が大賞をとりそうな勢いです。
私も『スモールワールズ』を読みましたが、たしかに大変面白く、
これは大賞決まりだなと思いました。私の中でも暫定1位です。
『スモールワールズ』は、6つのお話が収録された短編集です。
それも、思い通りにいかない人生を送っている人たちの物語です。
例えば、子どもが欲しいのになかなかできずに人知れず苦しんでいる女性や、
良かれと思ってしたことが相手にとっては迷惑だったことを知り、
心を閉ざしてしまった男性などがいます。
どのお話も短編なのでさらりと読めますが、
軽く読み進めていくうちにドキリとさせられる瞬間がやってきます。
いきなり明かされる事実に、それまでの物語の空気感ががらりと変わるのです。
短編集はたくさんのお話が収録されているので、
読んだ後に強く印象に残るお話もあれば、
すぐに忘れてしまうものもありますが、
この短編集は内容も順番もすべてしっかりと心に残りました。
どのお話も濃く、そのうえタイプが異なっているので、
1冊読み終えた時には6冊分の単行本を読んだ気分でした。
いくつかご紹介しましょう。
『ピクニック』
生後10か月の赤ちゃんが不慮の死を遂げ、ただでさえ悲しいのに、
追い打ちをかけるように身内が赤ちゃんを殺したのではと疑われ、
ある家族が逮捕されてしまいます。
果たして真実とは?
この物語だけ「ですます調」です。
この丁寧な文体が逆に不穏な空気を漂わせていたので
何かありそうだなと感じていたのですが、
私の予想をはるかに超えた展開が待っていました。
ほんと衝撃的でした。
この衝撃、皆さんにも味わっていただきたい!
・
『花うた』
こちらは往復書簡で構成された物語です。
唯一の家族であった兄を殺された女性が、
服役中の加害者本人に手紙を送ります。
「今、どんな気持ちで過ごしているんですか」と。
しかし返ってきた返事は幼く、まったく反省も見えません。
腹を立てた彼女は、怒りを込めた手紙を再び送ります。
そして文通がはじまり、
毎回加害者に苛立ちを感じながらも本音をぶつけていくうちに
彼女自身の心に変化が生じていきます。
ちなみに、この物語は最初から二人の未来が想像できます。
私も「なるほど、ここにたどり着くまでのお話ってことね」
と思いながら読み進めていきました。
でも、こちらのお話も驚きの展開が待っていました。
この『スモールワールズ』は、どのお話にも
ん?え?どういうこと?なんで?そうきたか!と驚きの瞬間がやってきます。
それがこの短編集の面白いところです。
ぜひ本のページをめくりながら様々な驚きを味わってみてください。
もちろん魅力は「驚き」だけではありません。
なんといっても人間の描き方がいいのです。
人の心の動きを丁寧に描いています。
怒ったり泣いたりやる気をなくしたりしながらも
些細なことに喜んだり涙したり。
なんだか他人事とは思えませんでした。
この本、今後ますます話題になっていきそうだなー。
なお、『スモールワールズ』の特設サイトには、
この本に収録された短編のコミカライズと
特別掌編『回転晩餐会』がアップされており、
どなたでも無料で読むことができます。
まず掌編を読むだけでも一穂ミチさんの作品のイメージがつかめると思います。
掌編は3分で読めますし、声優さんによる朗読でも楽しめますので、
まずはこちらからチェックしてみては?
◎特設サイトは コチラ