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『新・いのちを守る気象情報』

2021年5月26日

昨夜は天気予報通り雨となりましたね。
突然雨が降り始め、雷も鳴っていました。

天気予報を見て、夜に天気が悪くなるのを知り、
昨夜は早めに帰宅された方もいらっしゃるのでは?

私もそんな一人です。

スマホを持つようになってからは
天気予報をチェックする機会が増えたように思います。
また、雨雲レーダーもよく見るようになりました。

洗濯物を外に干したまま外出しても大丈夫か雨雲レーダーを見て確認したり、
毎朝気温をチェックして洋服を選んだりと、
以前よりもまめに天気予報をチェックしています。

気象情報は日々の暮らしに欠かせないものとなっていますが、
それだけでなく、私たちのいのちを守る重要な情報であるということを
この本を読んで再認識しました。

今日ご紹介する本は、

『新・いのちを守る気象情報/斉田季実治(さいた・きみはる)【NHK出版新書】』

です。

著者の斉田さんは、NHK「ニュースウオッチ9」の人気気象キャスターです。

また、現在放送中の朝ドラ『おかえりモネ』の気象考証をつとめていらっしゃいます。

『おかえりモネ』は、気象予報士を目指す女性の物語で、
主人公を清原果耶(きよはら・かや)さんが演じています。

今朝の放送では、山の中で天気が急変し突然雨が降ってきて…と、
何かが起こりそうな中、放送が終わっていました。
ちなみに今週のドラマのタイトルは「いのちを守る仕事です」。
まるでこの本と似たタイトルです。

ところで、この本にはタイトルに「新」とついていますが、
その理由は8年前に一度出された本の改定最新版だからです。

この8年の間に気象情報が大きく様変わりしたことで、
最新版を出すことにしたそうです。

ただ、斉田さんによると
「情報を活かしきれていない状況は、以前と変わっていない」のだとか。

斉田さんは、「いのちを守る情報」を活かすためには、
見る側にもある程度の「知識」が必要であり、
自分だけは大丈夫という「意識」から変えていく必要がある、とおっしゃいます。

私たちがちゃんと理解できないと、
情報を正しく受け取ることができないのですよね。

気象情報は、日々情報が更新されていますので、最新情報を知ることが大事になります。
この本は先日出たばかりですので、まさに今一番新しい情報を知ることができます。

この本では、「大雨」「台風」「雷」「竜巻」「猛暑(熱中症)」
「大雪」「地震(津波)」「火山」の8種類の災害の
防災対策や予報・警報の見方などがわかりやすく解説されています。

過去の事例を取り上げながらなので、わかりやすいですし、
もしかしたらこの災害に巻き込まれていたのは私かもしれないと思うと
緊張感をもったまましっかりと学ぶことができました。

例えば、熱中症については、

・熱中症は重症化してしまうと、治療を受けても手遅れの場合が多くある。
ゆで卵が二度と生卵に戻ることがないのと同じように、
人の体も高熱が続くと回復が難しくなる。

・夜間に熱中症を発症し、翌朝に死亡した状態で見つかる事故が増えている。
室温は28度を超えないように、扇風機やエアコンなどを利用してください。

・梅雨の合間の突然気温が上がった日にも注意!
まだ体が熱さに慣れていないと、
体温の調整機能が気温の急な上昇に追いつかなくなるため。

など、わかりやすい言葉で具体的に解説されているので、頭に残りやすいのです。

また、この本には情報が必要なときにすぐに見直せるように、
それぞれの章の最後に「行動に移すためのチャート」がのっており、
いざというときにすぐにチェックできるようになっています。

熱中症の場合は、

・就寝前にコップ1杯の水、枕元に水
・我慢をしない
・首や脇の下、足の付け根を冷やすと効果的

などが箇条書きで紹介されており、
ひとめで必要な情報がわかります。

この本は一度読んで終わりではなく、
辞書のように必要な時に何度も開いて確認したい本だと思いました。

本のタイトル通り、自分や家族などの大切な人のいのちを守るために、
多くの方に読んで頂きたい一冊です。

それこそ一家に一冊常備してもいい本だと思います。

yukikotajima 11:08 am

『ジュリーの世界』

2021年5月19日

graceの毎週水曜13時45分頃からは
本を紹介するコーナー「ユキコレ」をお送りしています。

このユキコレで紹介する作品はどのように決めているの?とよく聞かれます。

選び方は本によって違います。
新聞や雑誌、SNSなども参考にしますし、
書店員の方に相談することも多いですが、
好きなのは書店をぶらぶらしながら見つけることです。

本の装丁、タイトル、帯、書店員さんのポップなどをチェックしながら、
読みたい本を選ぶ時間が楽しくて好きです。

2018年の本ランキングで1位に選んだ
増山実さんの『波の上のキネマ』もまさにそのようにして出合いました。

商店街のはずれにある小さな映画館の物語で、
祖父がどのようにしてこの映画館を始めたのかが描かれているのですが、
このおじいちゃんの人生がすさまじくて、
読書最高!と読み終えたあとも興奮が止まらなかったほど夢中になって読んだ作品です。
読書に没頭したいという方はぜひ読んでみてください。
きっと本を読んでることすら忘れて作品の世界に入り込めますから。

◎『波の上のキネマ』の田島の感想は コチラ

そんな増山さんの新作を先日、本屋さんで見つけたので、
今度はどんな小説かしら?とわくわくしながら読んでみました。

『ジュリーの世界/増山実(ポプラ社)』

ジュリーと聞くと、年齢が上の皆さんは沢田研二さんを思い出されるかもしれません。

でも、この本のジュリーとは、「河原町(かわらまち)のジュリー」のことです。
1970年代の京都に実在した有名なホームレスだそうです。

この小説は、「河原町のジュリー」がいた時代の1979年の京都が舞台の物語で、
京都の繁華街のど真ん中の交番に赴任した新人巡査の木戸の目線で進んでいきます。

木戸は先輩から「警察官は違和感のアンテナを貼っておかなければいけない」と教わり、
噂の「河原町のジュリー」を初めて目にした時にまさに「違和感」を感じます。
しかし先輩からは「あの男が、この街を歩いていることは違和感でもなんでもない」
と言われてしまいます。
なんでもこの辺りの人は、京都市長や知事の顔を知らなくても
ジュリーの顔は知っているそうです。

ジュリーという名がついているのは、
当時人気のあった沢田研二のようにロングヘアだから?
という人もいるようですが、はっきりしたことはわかりません。

また、彼が誰とも喋らないため、彼についての噂も絶えません。

実はお金持ちだとか、役者をしていたらしいとか、
京都大学の哲学科をトップで卒業したらしいとか。
彼には「これまでの人生」を
人に詮索させずにはおかない何かがあったそうです。

というのも、伸ばし放題の髪と髭に、ボロボロの服、顔は垢まみれにもかかわらず、
卑屈さはなく、かすかに笑みを浮かべ、悠然としていたからです。

木戸は、街でジュリーを見かけるうちに、彼が街に受け入れられていることを感じます。

そんなある日。
書店から小学生の男の子が万引きしたと連絡があり、木戸は書店に向かいます。

そして、ここからはこの少年の物語へと変わります。
少年は、満たされない思いをサザンオールスターズの曲で満たしていました。

サザンの曲を聞くと、おなじみの景色がいつもと違ってキラキラと輝いて見えるほどに
サザンの虜になっていました。

発売されたばかりのウォークマンでサザンの曲を聞ききながら街を歩き、
早く大人になりたいと思っています。

ある日、少年は京都で行われるロックコンサートに
サザンが特別ゲストとして出ることを知ります。

少年はなんとかしてコンサートを観たいと思い、
チケットなしでコンサートを観る手立てを探ります。

この少年の物語がとても良かったです!
純粋ゆえにとんでもない行動を起こしてしまうのですが、
気になる方はぜひ本を読んでください。

そしてこの少年、誰とも会話をしないジュリーに話しかけます。
それもちゃんとコミュニケーションをとります。

この場面がいいのです。
映像が目に浮かんできました。

『ジュリーの世界』には、少年の物語以外にも
木戸がちょっと気になる女性のお話や、現代のお話もあります。
その全てのお話に「河原町のジュリー」が出てきます。
物語の後半にはジュリーの過去も描かれます。

いったいジュリーとは何者なのでしょうか。

気になる方はぜひ本のページをめくってみてください。

増山さんの作品は体感型です。
今回も本を読みながら40年前の京都の街に入り込んだかのような気分になりました。
街が見えるし、音が聞こえるし、匂いがしました。

最後に今の時代のお話が描かれるのですが、
この現代パートを読みながら
まるで私も1979年の京都を生きてきたかのような気分になっていました。

また、過去の作品を彷彿とさせる場面もあり、そういう意味でも楽しめました。
『波の上のキネマ』の密林の中のすさまじさとか、『甘夏とオリオン』の落語とか。

◎『甘夏とオリオン』の感想は コチラ

それから、34年後を予想するやり取りが描かれているのも面白かったです。

例えば、1979年の34年後の2013年にも『男はつらいよシリーズ』が続いていて
タイトルは『寅次郎、不死身宣言』では?なんて予想もあって笑ってしまいました。

今回も楽しい読書時間でした!

yukikotajima 10:55 am

『エレジーは流れない』

2021年5月12日

新緑の眩しい季節ですね。

人生を季節に例えることもありますが、
ちょうど今の季節は10代の青春時代真っ只中といった頃でしょうか。

大人の皆さんはどんな青春時代を送っていましたか?

今日ご紹介する本は今まさに青春時代を生きる男子高校生の物語です。

ですが、彼にはなりたい職業や将来の夢は無く、
毎日ひたすら平穏に暮らしたいと願っています。

『エレジーは流れない/三浦しをん(双葉社)』


著者の三浦さん自身、高校生の頃に大人たちから
「いまが一番いい時期」と言われてもピンと来なかったそうです。
ただ退屈で、さきが見えなくてちょっと不安で、
でも友だちとおしゃべりしているのが楽しかったのだとか。

『エレジーは流れない』の主人公もまさにそんな思いでいます。

物語の舞台は海と山に囲まれたさびれた温泉街です。
高校2年生の怜(れい)は、温泉街で土産物屋を営む母と二人で暮らしています。
彼は自分が住む温泉街のことを
「のどかを超えて、なにもかもが緩慢な町」と言い、
自分自身もなるべく静かに穏やかに日常を重ねていきたいと思っており、
そんな自分のことを、成績も生活態度も悪く無いのにモテないのは
「俺には面白味ってもんがないからだ」と自己分析しています。

一方、一緒につるむ友人たちは個性豊かで自由奔放です。
怜はそんな仲間たちに振り回されながら日々を過ごしています。

また、穏やかに過ごしたいと願いながらも
友人が父親と大喧嘩をしたり恋人にぞっこんだったりする様子を見て、
人に心を開いたり誰かを求めたりできることを
ひそかにうらやましく思っています。

友人からは「もっと正直になれ。欲しいものは欲しいって言えよ!」
と言われてしまうものの、怜にはそれができません。

というのも怜の家は複雑な家庭環境で、
どこか家族に遠慮しているところがあるのです。
実は彼にはもう一人母親がおり、
二つの家を行き来するという二重生活を送っています。
しかし、母親が二人いる理由や、会ったことの無い父親について、
これまで誰にも聞いたことはありません。
そのせいで、ずっとモヤモヤしています。

また、高校2年生になり、卒業後の進路を選択しなければいけなくなったものの、
特にやりたいこともない上に、二人の母親が進路をどう考えているかわからず、
怜は悶々とています。

そんなある日、地元の博物館から「縄文式土器」が盗まれます。
それを知った怜たちいつものメンバーは、そのニュースに興味を抱き…。

続きはぜひ本を読んでみてね!

***

この本を読みながら三浦さんの過去の作品である、
箱根駅伝に出場した大学生たちの物語『風が強く吹いている』を思い出しました。

新作の『エレジーは流れない』の高校生たちには
特に何か大きな夢があるわけではありませんが、
みんなそれなりに真面目に一生懸命生きていて、
人としていい子たちという点で重なるところがありました。

アホだねぇと突っ込みたくなるくらい
どうしようも無かったりするのですが、
でも憎めないんですよね。

のどかな温泉街のちょっとおバカな高校生たちの物語は、
愛すべき高校生たちの物語でもありました。
ネタバレになるので詳しくは言えませんが、
私は彼らが住む温泉街が大好きになりました。

うちの町も同じくさびれてるよとか、
私の毎日も穏やかというか地味な日々という方もこの物語を読むことで、
きっと大切なことに気付かされるのではないかしら。

また、将来何をしたらいいのかわからなかったり、
本心をなかなか人に言えなかったりする若者たちにもぜひ読んで頂きたいです。

こいつらアホだ!と思いながらも、彼らに救われるところもあると思います。

物語の中で怜のお母さんがとても良いことを言います。
「迷惑なんてかけあえばいい」と。
私自身、人に迷惑をかけたくないと思って生きてきたので
(ってほとんどの人がそう思っていますよね)、
この一言が大変印象に残りました。

なんだかんだで素敵な青春小説でした。

三浦先生、彼らの10年後の物語もいつか書いてくださらないかな。
アラサーになった彼らの物語もぜひ読んでみたい。
いや、アラフォーでもいいかな。
というか、10年ごとに書いて欲しい。

三浦先生いかがでしょう?

yukikotajima 10:46 am

『女の子はどう生きるか』

2021年5月5日

今日は「こどもの日」です。
こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかる趣旨で制定されました。

「こどもの日」の今日は、10代の女子たちが自分らしく幸せに生きていくために
ぜひ読んで頂きたい本をご紹介します。

『女の子はどう生きるか 教えて、上野先生!(岩波ジュニア新書』

上野先生というのは、富山出身の上野千鶴子さんのことです。

上野さんは、2019年の東京大学入学式の来賓祝辞のあと、
若いひとたちのあいだで知名度があがり、
高校からの講演依頼が増えているのだとか。
ちなみに、この本にもその祝辞がのっています。

『女の子はどう生きるか』というタイトルを見て
ピンときた方もいるかもしれませんが、
漫画化もされた吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』からきています。
上野さんは、「君たち」と呼びかけられるたびに、ざらっとするそうです。
なぜなら「君たち」は男子であることが多いから。
そこで、女子たちに向けて「女の子はどう生きるか」という本を書かれたそうです。
と同時にこの本は「女の子はどう育てるか」の本にもなっています。
いや違うな。10代の女子たちや、親御さんだけでなく、
昔からの古い価値観のままの大人たち(男女問わず)こそ読むべき一冊だと思います。

だって、10代の女子たちがこの本を読んで
上野さんのアドバイス通りに生きようと思っても、
大人たちが理解していなければ女子たちの翼は簡単に折られてしまうと思うから。
だからこそ大人たちにも読んで頂きたい。

この本は、高校生からの質問に上野さんが答えるというQ&A方式で構成されています。

例えば

生徒会長はなぜ男子だけなの?先生はこれが伝統だからと言います。

これに対する上野さんのアンサーが鋭すぎて思わず笑ってしまいました。

「オトナが「伝統」を持ち出したら、答えられないのをごまかしてるだけ!」

これ、最初の質問なのですが、一問目から切れ味最高です。
こんな感じでバッサバッサと切っていきます。

他には

・理系研究者は女子には無理なの?
・セレブな専業主婦になりたいけど、だめ?
・医学部に行きたいのに女の子なら看護師になれと親に言われた
・どうして日本は女性の政治家が少ないの?
・収入、学歴、背の高さは男性より低いほうがつきあうときや結婚では有利なの?
・彼氏に女子力が低いと言われた

などがあります。

どの質問に対しても、上野さんは話しことばでわかりやすく答えています。

上野さんのアドバイスは、大人の私でも役に立つことばかりです。
一番印象に残ったのは、

「あなたの『これってヘン』という感覚を、これからも大事にしてくださいね」

そうそうそうなのよー!と共感。
でも、私の場合、それおかしく無い?と直接指摘することもある一方で
「まあ、ヘンだけど仕方ないか」と諦めてしまうこともあるので、
これじゃダメだなと反省しました。

時代とともに「常識」は変わっていますしね!

つまり。

昔刷りこまれた古い価値観のままの大人たちが
良かれと思ってした若者たちへのアドバイスが、
今の時代では非常識になることもあるのです。
最近、失言のニュースも多いですよね。
それは価値観をアップデートできていないということです。

自分の価値観が古いかどうかはこの本を読んで確かめてみてください。

もし、この本を読んでイライラしてしまったら…
つまり、そう言うことですね。

私は10代の女子ではなく、もうすっかり大人の女性ですが、
この本を読んで本当に良かったです。
大変面白かったですし、読んだ後は心がスッキリしました。

そうそう、本の最後には、女の子たちにオススメの
本や映画がたくさん紹介されています。
このリストがとてもいいセレクトです。
中には、ドラマ化された『その女、ジルバ』
『逃げるは恥だが役に立つ』などの話題作もあります。

yukikotajima 11:05 am