『剱岳 線の記』(「点の記」じゃないよ!)
2021年2月17日
富山の皆さんは、映画『劒岳 点の記』はよくご存じのことと思います。
新田次郎さんの小説を木村大作さんが映画化したもので、2009年に公開されました。
明治時代に日本地図を完成させるため
前人未到の剱岳山頂を命がけで目指した測量隊の姿を描いた作品で、
主人公の測量手を浅野忠信さん、地元の案内人を香川照之さんが演じました。
この映画は100年前に実際に測量隊が登ったのと同じルートを
そのまま登って撮影したことでも話題となりました。
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今日ご紹介する本は、明治時代どころか、1000年前の平安時代の初登頂と
同じではないかと思われるルートを登ってみた人の実話です。
『剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む/髙橋大輔(朝日新聞出版)』
こちらは「点」ではなく「線の記」です。
紀伊國屋書店富山店では、去年夏の発売以来ずっと人気なのだとか。
著者の髙橋大輔さんは、フィギュアスケーターではなく、探検家です。
ロビンソン・クルーソーのモデルとなった人物の住居跡を
世界で初めて発見して注目された方です。
そんな探検家の髙橋さんが、平安時代の剱岳の初登頂のミステリーに挑みます。
映画『劒岳 点の記』でも描かれたとおり、
明治時代、前人未踏だと思われていた剱岳山頂で
測量隊は平安時代の錫杖頭と鉄剣が残されているのを見つけます。
錫杖頭(しゃくじょうとう)は、
初期仏教の時代から使われてきた杖の頭部につける金属製の仏具で、
山中では主に山伏と呼ばれる修行僧が携行していたのだとか。
ってことは、山伏が最初に登ったってことなのか。
でも登山道具のない時代にどうやって登ったんだろう?
と疑問に思った探検家の髙橋さんは、なんと自分でその謎を解明することにします。
剱岳ファーストクライマーの謎を
・いつ
・誰が
・どのようにして山頂を極め、
・どのルートからたどりつき、
・山頂のどこに仏具を置いたのか。
・その理由は?
と6つの設問から答えを導き出すことに。
そして、考えられるあらゆる可能性を検証するため、
まずは現地に行ってみようじゃないかと、
岩場中心の別山尾根と、樹林帯を長時間登る早月尾根の
それぞれのコースを歩いてみることにします。
その後も剱岳山頂に足を運び、様々な資料や書籍を読み、
多くの関係者にも会ってお話を聞いたり一緒に山に登ったりします。
髙橋さんは、伝説や地名、言い伝えも大切にしているのだとか。
それらには声なき民衆の声が反映され、
消し去られた歴史の残像が残るからなんですって。
剱岳へ向かうルートにも変わった地名が数多くあります。
中には「ハゲマンザイ」という名の場所も。すごい名前ですよね。
名前だけを見たら、そういう種類の漫才があるのかしら?と想像してしまいます。
そのように様々な方法で調べつくし、何度も富山を訪れた髙橋さんは、
ついに平安時代に使われたと思われるルートを探し出します。
そして実際に登ってみることにします。
それも鎖などは使わずに1000年前と同じように自分の体だけで。
果たして髙橋さんが見つけ出したルートとはどこなのか?
そこを歩いたことで何が明らかになったのか。
この続きはぜひ本を読んでみてください。
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剱岳の初登頂のミステリーに挑んだ探検家の挑戦、大変面白かったです!
髙橋さんがどのような答えを導くのかが気になって
興奮気味にページをめくっているうちに、
気付けば私も一緒に山登りをしている気分でした。
ただ、きつかったー。(笑)
想像すればするほど怖さが増していきました。
特にカニのたてばい、よこばいのような難所は、
本を読んでいるだけなのに体が緊張でふるえそうになりましたので、
実際に登ってみようよ!と誘われても絶対に無理です。
みんなよくあんな怖いところを登れるよなあ。すごすぎますよ、ほんと。
まあでも、そんな緊張感も含め、楽しめた一冊でした。
あなたも探検家になった気分で剱岳に挑んでみては?