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『推し、燃ゆ』

2021年2月24日

あなたには応援している「推し」はいますか?

その推しを好きになったきっかけは?
また、どのように応援しているでしょうか。

推しとのかかわり方は、
・恋愛的に好きな人
・触れ合うことが好きな人
・作品だけが好きな人
など様々ですが、あなたはいかがですか?

今日ご紹介する本は、アイドルの男性を応援する16歳の女子高校生の物語です。

『推し、燃ゆ(おし、もゆ)/宇佐見りん(河出書房新社 )』

1月に芥川賞を受賞した話題作ですので、すでにお読みの方もいらっしゃるのでは?
そんな方はぜひgrace宛に感想をお寄せください♪

◎メッセージフォームは コチラ

宇佐見りんさんは、現在21歳の大学2年生です。
2019年に母親との関係に苦しむ少女を描いた『かか』で、
第56回文藝賞を受賞しデビューしました。
またデビュー作は第33回三島由紀夫賞も受賞しています。それも史上最年少で。

そして、2作目の『推し、燃ゆ』が先月、芥川賞を受賞しました。
21歳での受賞は、綿矢りささん、金原ひとみさんに続いて、
史上3番目の若さなのだとか。

この『推し、燃ゆ』は、実は芥川賞の受賞前から話題になっていたそうです。

去年7月に発売された雑誌「文藝」に掲載されるや否やSNSを中心に話題となり、
9月に単行本化され、芥川賞を受賞する前にすでに7万部を突破。
今や売り上げは40万部を超えているそうです。すごい!
また、4月に発表される「本屋大賞2021」にもノミネートされていますので、
さらに伸びそうですね。

***

『推し、燃ゆ』とはどんなお話なのか、ほんの少しだけご紹介します。

主人公は、16歳の高校生のあかりです。
彼女はあるアイドルの男性のファンなのですが、
その「推し」が燃えた、つまり炎上したところから物語が始まります。
どうやらファンを殴ってしまったようなのです。

「推し」とのかかわり方は人によって様々ですが、
あかりにとって推しを推すことは、生活の中心というか、背骨なのだそうです。
また、推しと触れ合いたいのではなく、作品も人も丸ごと解釈することで、
推しの感じている世界、見ている世界を見たいと思っています。

例えば、CDやDVDや写真集は保存用と観賞用と貸出用に常に三つ買い、
放送された番組はダビングして何度も観返し、
推しのこれまでの発言はルーズリーフに書きためています。
すべて「推し」という人を解釈するために。

推しのためにバイトをし、
推しの誕生日にはホールケーキを買って一人で食べ、
占いは推しの星座だけを見ます。

でも、そんなオタク活動はファン以外にはなかなか理解されず、
脈が無いのに思い続けても無駄だと言われることも。

とは言え、あかりは推しの存在を愛でること自体が幸せなわけで、
見返りを求めているわけではありません。

テレビ画面やステージなどのへだたりがある場所で
推しの存在を感じ続けられることが、彼女にとっての安らぎなのであり、
恋人になりたいわけではないのです。

そんな生活の中心どころか自分の背骨のような存在の推しが、ある日炎上します。
果たして推しに生きる彼女はどうなってしまうのでしょうか。

この続きは、本のページをめくってみてください。
いや、続きというか、この小説、最初の文章が

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」

なので、具体的な話はこの2行しか触れていないや。(笑)

短いうえに勢いのある作品なので、あっという間に読めます。
ぜひ宇佐見りんさんのほとばしる情熱をもらさずにご堪能ください。

***

とても面白かったです。
推しのいる人や、生きづらさを抱えている人は、きっと共感できるでしょうし、
逆に特に推しはいないという人でも楽しめると思います。
なぜなら彼女の言葉選び、表現など、とにかく文章が素晴らしいからです。
今どきっぽいのだけど、薄っぺらくないのです。
まるで今本当に感じているように文章を紡いでいきます。

私は、1ページ目の
「無事?メッセージの通知が、待ち受けにした押しの目許を犯罪者のように覆った」
という文章を読んだ瞬間、宇佐美さんの文章を好きだと思いました。

あかりの推しが炎上したことを知った友人から
彼女を心配するメッセージの通知がスマホに届いたということなのですが、
主人公の心情がこの一文から伝わってきましたし、
「無事?」という短い文章が今どきの若者っぽいなあとも思いました。

早くも次作が楽しみです。
その前に、デビュー作の『かか』を読んでみることにします。

『推し、燃ゆ』、4月の本屋大賞もとりそうな予感。

yukikotajima 9:27 am

『剱岳 線の記』(「点の記」じゃないよ!)

2021年2月17日

富山の皆さんは、映画『劒岳 点の記』はよくご存じのことと思います。

新田次郎さんの小説を木村大作さんが映画化したもので、2009年に公開されました。

明治時代に日本地図を完成させるため
前人未到の剱岳山頂を命がけで目指した測量隊の姿を描いた作品で、
主人公の測量手を浅野忠信さん、地元の案内人を香川照之さんが演じました。

この映画は100年前に実際に測量隊が登ったのと同じルートを
そのまま登って撮影したことでも話題となりました。

***

今日ご紹介する本は、明治時代どころか、1000年前の平安時代の初登頂と
同じではないかと思われるルートを登ってみた人の実話です。

『剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む/髙橋大輔(朝日新聞出版)』

こちらは「点」ではなく「線の記」です。

紀伊國屋書店富山店では、去年夏の発売以来ずっと人気なのだとか。

著者の髙橋大輔さんは、フィギュアスケーターではなく、探検家です。
ロビンソン・クルーソーのモデルとなった人物の住居跡を
世界で初めて発見して注目された方です。

そんな探検家の髙橋さんが、平安時代の剱岳の初登頂のミステリーに挑みます。

映画『劒岳 点の記』でも描かれたとおり、
明治時代、前人未踏だと思われていた剱岳山頂で
測量隊は平安時代の錫杖頭と鉄剣が残されているのを見つけます。

錫杖頭(しゃくじょうとう)は、
初期仏教の時代から使われてきた杖の頭部につける金属製の仏具で、
山中では主に山伏と呼ばれる修行僧が携行していたのだとか。

ってことは、山伏が最初に登ったってことなのか。
でも登山道具のない時代にどうやって登ったんだろう?
と疑問に思った探検家の髙橋さんは、なんと自分でその謎を解明することにします。

剱岳ファーストクライマーの謎
・いつ
・誰が
・どのようにして山頂を極め、
・どのルートからたどりつき、
・山頂のどこに仏具を置いたのか。
・その理由は?
と6つの設問から答えを導き出すことに。

そして、考えられるあらゆる可能性を検証するため、
まずは現地に行ってみようじゃないかと、
岩場中心の別山尾根と、樹林帯を長時間登る早月尾根の
それぞれのコースを歩いてみることにします。

その後も剱岳山頂に足を運び、様々な資料や書籍を読み、
多くの関係者にも会ってお話を聞いたり一緒に山に登ったりします。

髙橋さんは、伝説や地名、言い伝えも大切にしているのだとか。
それらには声なき民衆の声が反映され、
消し去られた歴史の残像が残るからなんですって。

剱岳へ向かうルートにも変わった地名が数多くあります。
中には「ハゲマンザイ」という名の場所も。すごい名前ですよね。
名前だけを見たら、そういう種類の漫才があるのかしら?と想像してしまいます。

そのように様々な方法で調べつくし、何度も富山を訪れた髙橋さんは、
ついに平安時代に使われたと思われるルートを探し出します。
そして実際に登ってみることにします。
それも鎖などは使わずに1000年前と同じように自分の体だけで。

果たして髙橋さんが見つけ出したルートとはどこなのか?
そこを歩いたことで何が明らかになったのか。

この続きはぜひ本を読んでみてください。

***

剱岳の初登頂のミステリーに挑んだ探検家の挑戦、大変面白かったです!

髙橋さんがどのような答えを導くのかが気になって
興奮気味にページをめくっているうちに、
気付けば私も一緒に山登りをしている気分でした。
ただ、きつかったー。(笑)
想像すればするほど怖さが増していきました。
特にカニのたてばい、よこばいのような難所は、
本を読んでいるだけなのに体が緊張でふるえそうになりましたので、
実際に登ってみようよ!と誘われても絶対に無理です。
みんなよくあんな怖いところを登れるよなあ。すごすぎますよ、ほんと。
まあでも、そんな緊張感も含め、楽しめた一冊でした。
あなたも探検家になった気分で剱岳に挑んでみては?

yukikotajima 9:30 am

『商店街のジャンクション』

2021年2月10日

あなたは「着ぐるみ」に入ったことはありますか。

きっと多くの方が「ない」と答えるのでは?

では、「着ぐるみ」に入りたいと思ったことはあるでしょうか。

私はどちらも「ノー」です。
でも、この本を読んだら入ってみたくなりました。

『商店街のジャンクション/村木美涼(早川書房)』

村木さんは、宮城県生まれですが、
なんと2016年からは富山県にお住まいなのだとか。
ようこそ富山へ!

2017年に『窓から見える最初のもの』で
アガサ・クリスティー賞大賞を受賞して作家デビューされたのち、
2019年には『箱とキツネと、パイナップル』で
新潮ミステリー大賞優秀賞を受賞されています。

おめでとうございます〜!

今日ご紹介する『商店街のジャンクション』は、先月下旬に出たばかりの新作です。

本の表紙には二本足で立ってピースをしている犬の絵が描かれ、
帯には「着ぐるみ」とあるので、
表紙を見ただけで、なるほどこのワンちゃんは着ぐるみなのかと気付きます。

この着ぐるみの犬の名前は「チョッキー」です。

チョッキーは、商店街にある古びた映画館の
週末限定の「ナイトシアター」の宣伝チラシを
通りすがりの人々に配るのが仕事で、
男女3人が順番に中に入っています。

この3人はそれぞれ悩みを抱えているのですが、
着ぐるみの中に入ることで悩みが解決するのではと思っています。

3人によると、着ぐるみは、
目立っているようでいて、鉄壁の匿名性をまとっており、
自分のことを誰にも気づかれずにいられる場所であり、
中に入った後は、それまで感じたことのない解放感に満たされるのだとか。

3人は犬の着ぐるみチョッキーの中に入ることで、
自分自身と向き合うようになります。

3人が初めて顔を合わせたのは、
商店街の中の喫茶店、その名も「時計」でした。
店名通り、店内にさまざまな時計が並ぶ不思議なお店ですが、
コーヒーはとても美味しいそうです。飲んでみたい!
そして、このお店の白髪の男性店主が、ある方に言わせると
「近くにいると存在感が薄いのに、離れると存在感が増す」ような人で、
この店主がさらりといいアシストをするのです。

果たして着ぐるみをシェアする3人はそれぞれどんな悩みを抱えていて、
着ぐるみに入り、この喫茶店に通うことで、どんなことに気付くのでしょうか。
続きは本をお読みください。

そうそう、著者の村木さんは富山在住だそうで、
作品の中に「富山」がちょこっと登場しますので、お見逃しなく〜。

最初にも言いましたが、この本を読んで私も着ぐるみの中に入ってみたくなりました。
中に入ったら、世界はどのように見え、私は自分の何に気付くのか知りたくなったのです。

たしかに着ぐるみって不思議な存在ですよね。
だって、着ぐるみの中の人間が突然手を振ってきたら警戒してしまうけど、
同じ人が着ぐるみを着た状態で手を振ってきたら
一瞬で笑顔になって「かわいい〜」とこちらから近づいたり、握手したり、
なんなら一緒に写真を撮ろうよ〜!と言い出したりと、
警戒心はまるで無くなります。

私たちの笑顔は、着ぐるみに向けたものであって、
中の人に向けたわけではないのですよね。
でも、たしかに中には人がいるわけで、冷静に考えると面白いなあと。

存在としては目立つけれど、中の人の印象は薄いわけです。

その感覚を私も着ぐるみの中で味わってみたくなりました。

さて、私は小説を読む度に、いつか映画化されそうだわ!
なんて勝手に想像して楽しんでいるのですが、
『商店街のジャンクション』は舞台化されそうだなあと思いました。
というか、舞台化したものを見てみたい。

どなたかいかがでしょう?(笑)

yukikotajima 11:19 am

『銀の夜』

2021年2月3日

いよいよ今度の土曜日は、気まぐれな朗読会です。
チケットを買ってくださった皆さま、ありがとうございます。

気まぐれな朗読会は、
「気ままプラン」パーソナリティ廣川奈美子さんと
「grace」パーソナリティ田島悠紀子でお届けする朗読会です。

気ままの「気ま」とグレースの「ぐれ」で「気まぐれ」です。

今年は、2月6日(土)18:00〜
富山県民小劇場 オルビス(マリエとやま7階)で開催します。

今年も3部構成です。
例年通り、1部、2部は、廣川さんとともに
3部はそれぞれ作品を読みます。

廣川:「ムシヤシナイ」高田都(たかだ・かおる)
田島:「鍋セット」角田光代(かくた・みつよ)

◎3部の作品の詳細は コチラ

朗読会のチケットは、まだまだ販売中です。
当日は、コロナ対策をしてお届けしますので
もしよかったらお越しください。

◎チケットについて詳しくは コチラ

なお、当日の21時頃(終演後)から3部のみFMとやまYouTubeチャンネルで配信します。
配信は21時頃~22時頃の時間限定ですので、お見逃しなく!

◎FMとやまYouTubeチャンネルは コチラ

***

さて、今回の朗読会で私は、角田光代さんの「鍋セット」を読むのですが、
今日ご紹介するのは、去年11月に発売された角田さんの新作です。

『銀の夜(光文社)』

角田さんの5年ぶりの長編小説なのですが、書かれたのは15年前のことだとか。
『対岸の彼女』で直木賞を受賞された頃に書かれたものだそうです。

それがなぜ今になって単行本として出ることになったのか。
しかも、なおさずにそのままの形で出版したそうです。
その理由は「あとがき」に書かれていますので、
ぜひ本編を読んだ後にお楽しみください。


『銀の夜』は、30代半ばの女性3人の物語です。
時代は、まさに小説が書かれた約15年前の2004年〜05年頃です。

まだSNSも無く、携帯よりも家の電話の子機を使い、
メールはパソコンを開いてチェックしていた時代です。

登場人物の女性3人は高校時代に
3人でバンドを組んでメジャーデビューをしています。

とはいえ活動期間は短く、
今では全員がバンドとは関係のない生活を送っています。

「ちづる」は、結婚し、イラストレーターをしているものの、
仕事はぱっとせず、夫は職場の若い女性と浮気をしています。

「麻友美」は、セレブママになり、
娘を芸能人にしたいと思っているのですが、
娘はなかなかやる気になってくれません。

独身の「伊都子」は、著名翻訳家の母のように生きたいと思い、
あれこれやってみるものの、うまく行きません。

つまり、全員が今の自分に満足していないのです。
でも、このままでいいとも思っておらず、
なんとか今の状況を変えようと、もがいている様が描かれています。

それも誰か1人の一人称ではなく
3人それぞれの視点で描かれているので、
お互いの本音が見えるのが良かったです。

例えば、友人の活躍を応援したいのに、
嫉妬もあってつい意地悪な感情が芽生えてしまい、
でも、それを必死に打ち消そうとしているわけですよ。
この感覚、よくわかる!
きっと誰もが同じような気持ちを味わったことがあるのでは?

角田さんの文章には、人の本音がにじみ出ているのです。
いま私は朗読会に向けて何度も角田さんの作品を声に出して読んでいますが、
やはり同じことを感じました。

その本音によって、作品との距離が近くなっています。

『銀の夜』も、私は彼女たちが他人事とは思えず、
まるで私の友人たちの話を聞いているかのようでした。

15歳の頃にバンドデビューし、キラキラした世界に一瞬でもいた3人は、
どうしてもあの頃と今を比べてしまいます。

三十代も半ばになり、40歳までには何かをしなくてはと思うものの、
充実感や達成感といったものを心底実感できるようなことは
なかなかみつかりません。

私も30代半ばくらいの頃は同じようなことを思っていました。
そして、私の場合はいきなりフルマラソンにチャレンジしたわけですが。(笑)
みんな、40歳を前にすると何かをしたくなるものなのですね。

果たして彼女たちは、この先どう生きていくことになるのか。
続きはぜひ本を読んでみてください。

今日は、角田光代さんの『銀の夜』をご紹介しました。
角田さんといえば、先日、読売文学賞を受賞されました。
おめでとうございます〜!

yukikotajima 9:32 am