『ライオンのおやつ』
2020年4月29日
ステイホームの今、お家で読書をされている方もいらっしゃると思いますが、
今日ご紹介する本は、まさに家で読むのにぴったりな一冊です。
なぜなら涙が止まらないから。
私は家で一人なのをいいことに、子どものようにわんわん泣きました。
終始涙が止まらず、ごみ箱はティッシュの山になるし、目は腫れぼったいしで、
決して人には見せられない状態でした。
でも、読後感は決して重たくはありませんでした。
それどころか心の中にたまっていた膿が涙とともに流されたかのような
すっきり穏やかな気持ちでした。
今日ご紹介する本は、こちら。
『ライオンのおやつ/小川糸(ポプラ社)』
先週のユキコレは、今年の本屋大賞受賞作の
『流浪の月/凪良ゆう〈東京創元社〉』をご紹介しました。
◎私の感想は コチラ
◎本屋大賞の公式サイトは コチラ
今日ご紹介する『ライオンのおやつ』は、今年の本屋大賞2位の作品です。
『流浪の月』も良かったけれど、
どちらかというと『ライオンのおやつ』のほうが
これまでの本屋大賞っぽいなという印象です。
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『ライオンのおやつ』というタイトルだけを見ると、
動物のライオンが食べるおやつの話?動物園の話?
と思ってしまいそうですが、
表紙のイラストはブルーの海でライオンはどこにもいません。
本の帯にさりげなく動物が描かれていますが、それは犬です。
いったいどんなお話なのか、簡単にご紹介しましょう。
主人公はアラサーの女性、雫です。
彼女はある病と闘っていたのですが、医師から余命を告げられ、
人生の最後の日々を過ごす場所として、瀬戸内の島にあるホスピスを選びます。
そのホスピスの名前が「ライオンの家」なのです。
なぜ「ライオンの家」なのかは、本に理由が書かれていますので、
ぜひ読んでいただきたいのですが、
このホスピスでは、毎週日曜日、入居者が生きている間にもう一度食べたい
思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があるのです。
だから「ライオンのおやつ」というタイトルなんですね。
入居者それぞれが、そのおやつをリクエストした理由を思い出ととも綴り、
それをスタッフが朗読してからおやつを食べるのですが、
このおやつの時間が涙無しには読めませんでした。
人生を振り返ってみると、みんな感謝もあれば後悔もあります。
それぞれの思いが心に響きました。
あなたはどうですか?
人生の最後に食べたい「おやつ」は何ですか?
今、お家で手作りのおやつを作って食べている方もいると思いますが、
それこそそのおやつがずっと先の未来に
人生の最後に食べたい思い出の味になっているかもしれませんね。
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さて、小さな島のホスピスで雫はどのように生活を送っていたのかというと、
自由に外出することもできたので、
元気な時は自然豊かな島をホスピスに住む犬とともにお散歩することもありました。
このワンちゃんのおかげで雫の毎日は幸せな日々でした。
また、提供される食事がどれも美味しくて、それは「魂に直接響くような味」なのだとか。
特に朝のお粥が美味しくて、入居者の中には
このお粥が楽しみで長生きした方もいたそうです。
ホスピスを主宰する看護師の女性は、痛みには体と心の二つの痛みがあり
その両方を取り除かなければ幸せな最期は訪れないと言い、
心のケアも大事にしており、美味しくて体にいい食事を提供するのはもちろん、
入居者一人一人にあったセラピーも取り入れていました。
この代表の女性がとても素敵な人なのです。
包容力があって、優しくて、でも強さもある、心から尊敬できる人です。
こんな人に私もなりたい、と思いました。
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また、この作品は雫のホスピスでの日々が描かれており、
「泣ける」感動作であることは間違いないのですが、
何がいいって、表現が素晴らしいのです。
独特な感性ゆえのハッとさせられる表現が多く、
そういう意味での心地よさに心が満たされました。
例えば、雫がホスピスに来たばかりのころ、
慣れない景色を見ながら「まだ心のピントが合わない」と表現したり、
島で深呼吸をしたときには
「肺の内側が、きれいな空気でゴシゴシと洗われるよう」と思ったりします。
他にも豊かな表現が多くて、声に出して読みたくなりました。
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ちなみに、著者の小川糸さんは、
病気で亡くなったお母様が生前「死ぬのが怖い」と怯えていたことから、
読んだ人が、少しでも死ぬのが怖くなくなるような物語を書きたい、
と思って執筆されたのだとか。
物語が全体的に優しい雰囲気なのは、
小川さんがお母様のことを思ってお書きになったからなのかもな。
本当にいい一冊でした。
今、こんな状況で不満ばかりを口にしてしまいがちですが、
雫は余命を告げられてからこんなことを思っています。
幸せは自分が幸せであると気づくこともなく、
ちょっとした不平不満をもらしながらも、
平凡な毎日を送れることなのかもしれない。
この本を読んだ後はきっと世界の見え方が変わります。
私は毎日をもっと大切に過ごしていこうと思えました。
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