線は、僕を描く
2019年7月31日
今日も暑いですねー。
こんな日は、真冬の寒さを思い出してみませんか?
こちらはある冬の日の富山の写真です。
雪が降って一面真っ白の世界を想像すると、
少しは暑さが和らいできませんか?
私は雪に覆われた富山の景色を見る度、
まるで水墨画の世界だなと思います。
目に見える景色はほぼ白く
ほんのわずか山や木の輪郭だけが見えるような。
だから富山に水墨美術館があるのかしら?
さて、あなたは水墨画のような景色ではなく、
実際に水墨画を見たことはありますか?
また、水墨画というとどんなイメージをお持ちですか?
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今日ご紹介する小説は、水墨画の世界が描かれています。
「水墨画?全然知識無いから理解できなそう…」
と思った方もいるかもしれませんが、心配ありません!
主人公の青年がまさに何も知識の無いところから
水墨画家になっていくという物語ですので、
この青年とともに水墨画を学ぶことができるのです。
今日ご紹介するのは、砥上裕將(とがみ・ひろまさ)さんの
『線は、僕を描く(講談社)』です。
著者の砥上さんは水墨画家でもいらっしゃって、
水墨画の魅力を小説を通して伝えたいと思ってこの本をお書きになったのだとか。
なんとデビュー作だそうです!
でも、すでにかなり話題となっているようで、
週刊少年マガジンでは漫画の連載も始まったそうです。
たしかに漫画にしても違和感のない作品です。
というか、漫画でも読んでみたい!
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簡単に物語をご紹介しましょう。
両親を事故で亡くした大学生の霜介は、バイト先で水墨画の巨匠と出会います。
あることがきっかけで巨匠に気に入られ、君を弟子にすると言われてしまいます。
それまで水墨画に興味の無かった霜介でしたが、巨匠に水墨画を習うことにします。
そして、水墨画の魅力に気付き、また自分自身も成長していくという物語です。
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以前、ピアノコンクールが舞台の恩田陸さんの物語
『蜜蜂と遠雷』を読んだ時に「音が聞こえる!」と思いましたが、
『線は、僕を描く』は、絵が見えました。
私は水墨画に関しては詳しくないけれど、でも目の前に絵が見えました。
なんといっても著者の砥上さんの表現力が豊かなのです。
次々に水墨画の魅力を言葉で表していくのですが、同じ表現は一切使っていません。
基本的には主人公の霜介が心の中で発した言葉なのですが、
心から感じたピュアでまっすぐな思いだからこそ心に刺さり、
気付けば私も水墨画が好きになっていました。
そして、実際に本物の水墨画を見に行きたい!と思って
本を読み終えるや否や、富山県水墨美術館に行ってしまいました。(笑)
小説を読んで水墨画の基礎や素晴らしさを学んでから実際に水墨画を見たら、
今までと見え方が全然違っていました。
例えば、水墨画は描き直しができないそうです。
どの絵も一発勝負なのです。
今までだったら作品の全体をなんとなく見ていましたが、
一本一本の線までをじっくり見てみると
いかにすごい技術なのかがわかり、
作品を鑑賞しながら楽しくて仕方ありませんでした。
ぜひ小説を読んだら実際に水墨画を見に行ってみてください。
きっと興奮しながら鑑賞できると思います。(笑)
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物語は、透明感があってどこまでもまっすぐで
若者たちがみんな頑張っていて
嫌な人も出てこなくて
水墨画も美しくて
読み終えた後、私自身の心がデトックスできていました。
また、水墨画から学ぶことも多かったです。
例えば…
・力を抜くことこそ技術
・何も知らないことが力になる
・何かを始めることで、そこにあった可能性に気付く
など。
いい言葉と出合う度、付箋を貼っていたら
付箋だらけになってしまったほどです。
今、新しい世界に足を踏み入れたいのに勇気がなかなか持てない方や
今の自分を変えたいけれど、どうしていいかわからないという方は、
この本を読んでみてはいかがでしょう?
本を読み終えた後は、きっと世界が少し明るく見えるはずです。